上 下
13 / 18

13.扉の先にいたのは

しおりを挟む
私の王宮探索は続く。


ここだと狙いを付けても、なかなか扉は発見出来ない。正確な場所に手を当てないと、扉は現れないのだ。
最初は扉が開く度に、やっと当てた!と嬉々として部屋に乗り込んでいた。
だが、中には静かに仕事をしている人達もいる。まるで遊んでいるかのような自分が申し訳なくて、そこからは先にソッと中を確認するようにしている。

会社勤めの社会人が、自分の職場でニートが遊んでいるのを見るほど腹ただしいものはないだろう。
幸いなことに王宮の勤め人たちは、いつでもとても真剣に仕事に取り組んでいる為、私の勇ましいまでの入室に気付く人は誰一人いなかった。
そういう時は、何もなかったようにシレッと外へ出るのに限る。
『中をソッと伺ってからの入室』、これが王宮冒険で学んだマナーだ。


今日も朝食後の王宮探索に出た。
最近は庭園散歩より、冒険を優先している。今日はどんな冒険になるだろう。

まず果樹園室のコリーに会いにいく。途中休憩する時用の果物をいくつか取ってもらい、それをカバンに入れて冒険の準備をする。さあ出発だ!妄想の中の私は勇ましい。


あ!開いた!今日の発見は早い。
ソッと中の様子を伺うと、そこでは多くの女性達が裁縫をしていた。
静かにお喋りしながら、チクチクと縫い進めている。
遠目で見ても、その刺繍はとても凝っていて美しくみえた。
白地の布に、キラキラ光る銀の糸。布に囲まれた多くの女性達。どこか幻想的な風景だ。

邪魔をしないように、廊下からじっと観察していると、1人の女性が手招いてくれた。入室していいらしい。
挨拶をしようと皆が立ち上がったのを見て、急いで声をかける。
「あの、カトミィナ・ウ・エハスです。お仕事の邪魔をしてすみません。皆さん、挨拶は結構ですよ。あの、少し見ていてもいいですか?」

「まぁ噂どおりね」「こんなお優しいお嬢様がいるのんて」「素敵な方ね」
という数々の賞賛を聞かなかった事にして、お仕事を続けてもらった。

皆の見事な針使いを見守る。絵を描くように布に模様が浮かび上がっていくのが、見ていた飽きない。
しばらく見入っていたが、流石に邪魔だろうと外に出ることにした。見られているほど作業がやりにくいものはない。私だったら嫌だ。ごめん被りたい。

部屋を出る前に、この部屋の責任者のような女性に声をかけられる。
「また来てくださいね。今は納期が迫ったものがたくさんあってバタバタしてますが、落ち着いたらぜひ一緒に刺繍をしましょう。ヤノー国の伝統刺繍をお教えしますよ」
そう言ってくれたので、また来させてもらう事を約束する。裁縫は苦手なんだが、今言う事じゃないだろう。

そして許可をもらって、部屋の前に目印に花のシールを貼らせてもらった。


まだまだ冒険は続く。
初めての廊下を選んで歩いてみる。すると、見慣れたシールが貼ってあった。――可愛いお花のシール。

あれ?ここ私の部屋だ。
途中で方向を間違えて戻ってきたようだ。

―廊下はどこも何一つ特徴のない銀色の世界なので、時々どこを歩いているか分からなくなる。
どうしても困った時は、カバンに入れているベルを鳴らすと、近くの部屋の人が助けてくれるとの事なので、冒険に不安はない。―

まだ冒険を終わるには早過ぎるけど、自室に寄ってロンさんからもらった果物を食べようかな、そう思って扉を開けた。


「やあカトミィナ嬢」
「え?レイトン王子?」」
―王子がにこやかに微笑んでいた。

私の部屋に王子がいる。
足を踏み出したまま驚きで固まる。
よく見たらここは私の部屋ではなく、重厚な作りの執務室という感じの部屋だ。
いや。見た通りそのまま王子の執務室なんだろう。

「カトミィナ嬢、一緒にお茶でもしよう」
そう王子が話すと、どこからともなく王子付きの侍女達が現れて、気づいた時にはテーブルの上にお菓子とお茶が用意されていた。

「いえ。あの…」
「このケーキはカノー国伝統菓子なんだよ。食べてみてよ」
言葉を被せてきた王子が、ケーキをフォークですくって私に差し出す。

いやいや。それはおかしい。おかし過ぎる。
私と王子の関係は、保護者と被保護者のようなものだ。ケーキをアーンする関係ではない。
というより誰にもされたくない。

「いえ。あの。…あ、いえ。自分で食べれます」
フォークを差し出し続ける王子にいたたまれなくなり、テーブル向かいのソファーに腰かけ、自分の分のケーキを手に取った。

「ふふ。カトミィナ嬢は本当に恥ずかしがり屋だね」
そうおかしそうに笑う王子に言いたい。
違う。恥ずかしがってなどいない。おかしいのは王子の方ですよ、と。
…言えないが。

「朝の散歩で会えなくなったからね。僕の部屋に来てもらおうと思って。本当は昼食や夕食に誘いたいんだけど、カルロットのヤツが邪魔してくるんだよね。じゃあ3人で食べようって言っても拒否されるし。信じられないだろう?本当あいつは辞めた方がいいよ」

ロットの話はともかく。
そうか。あのシールは王子が貼ったのか。私はそれに騙されたのか。シールにそんな罠がはられるとは。まさかの侍女達の裏切りだ。

「あぁ、シールは僕の侍従が用意してくれたんだ。君の侍女達が譲ってくれなくてね。ちょっと違うけど、似てるでしょ?」王子が笑う。
「ふふ。カトミィナ嬢は考えてる事が顔に出るよね」

―それはマズい。いつも私はロクな事を考えていない。
これ以上考えを読まれる前に、必死に話題をかえた。
「レイトン王子、このケーキすごく美味しいですね。あ、良かったら果樹園でいただいたフルーツもありますよ」

ふふふと王子は笑っていた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

花鈿の後宮妃 皇帝を守るため、お毒見係になりました

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:20,653pt お気に入り:303

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:23,997pt お気に入り:382

異世界喫茶『甘味屋』の日常

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,867pt お気に入り:1,217

斧無双のメアリー

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:448pt お気に入り:1

令嬢は闇の執事と結婚したい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,041pt お気に入り:22

模倣少女は今日も唄う。

青春 / 連載中 24h.ポイント:766pt お気に入り:6

処理中です...