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本編

7  狂った果実  後編 

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「マリアーナです。あの、よろしくお願いします」
「あぁそんなに畏まらなくともいい。マリはマリのままでいてくれればいいのだ」

 ラファエルはその言葉通り翌日マリアーナを伴って王宮へ、今彼の第二の母とも言える乳母であるスティアの目の前にいた。

 有言実行……恋する男とはこんなにも大胆且つ迅速に行動が出来るものなのかと、スティア自身驚愕が隠しきれないでいた。
 これまでラファエルの養育に際し愛情を注いできたのは言うまでもない。
 だが愛し愛しみはするもののラファエルはこのルガート王国の次代の王となるべく常に冷静沈着とし、決して一時の感情のままに動いてはいけないと、彼の行動一つで民達の未来がかかっているのだとスフィアは口を酸っぱくして説いてきたのである。

 その結果が今の状況なのか……と、スフィアは一抹の寂しさを感じてしまった。
 とは言え後悔しても詮無きこと。

 王太子であるラファエルが自身の婚約者としてマリア―ナを連れてきたのであれば、表向きには臣下としては礼を尽くさねばならない。

 現状でのマリア―ナの立場はまだの婚約者、つまりはなのである。

 マリア―ナの立場を最終的に決定するのはラファエルではなく彼の父、即ち国王の裁可が必要不可欠。
 国王が帰城すれば王として、また父として恋に溺れてしまったラファエルを諫めてくれるだろうとスティアだけではない。
 彼女を含め王宮内にいる者達はルガート王の無事の凱旋を心待ちとする事にした。

 それまでは下手に今ラファエルを刺激してはいけない。
 王族として思慮を欠いた行動だと窘め続ければだ。
 まだまだ血気盛んな若者であるラファエルとマリア―ナの恋へ更に火を注ぎ兼ねないだろう。
 その結果深い関係となり、マリア―ナの胎にラファエルの子を孕ませる事になれば大問題である。

 最悪な結果を齎さない為にも今は騒がず、王が戻るまでそれとなくスティアはマリアーナの人となりを観察しつつこれ以上二人関係が進まないよう注視するしかないと思ったのである。

 ただそれにしてもラファエルは人目も憚らずマリアーナを寵愛していた。
 辛うじてまだ一線は超えてはいないもののそれも時間の問題なのかもしれない。
 婚約者として申し分のない相手ならばこの様な想いを抱かず、寧ろ仲の良さに安堵の想いを抱いていたのかもしれない。
 
 しかし残念な事にスティアはラファエルの選んだ女性に対し好意的な感情を持てなかった。

 何故ならスティアがマリアーナに抱いた第一印象は平民をいう身分の差を取り除いてもだ。
 時々ほんの微かに翳りのあるマリアーナの表情かおを見た瞬間――――スティアの心に何やら言いようのない不安が広がってしまう。

 そう恋をしている者が見せる表情それではない。

 だからスティアはルガート王が帰城する一週間が永遠にも等しいものに感じられた。
 何時もの冷静な彼女であれば何も言わず王が帰城するまで静観していただろう。
 だがラファエルにとってのスティアが母同然の様に、スティアにとってもラファエルは仕えるべき主だけではなく、いつの間にか気づけば自身の命を賭してでも愛し護り抜くべき子供だったのである。
 従って彼女は今臣下としてでなく母としてラファエルに何度も忠告してしまう。

 マリアーナには決して心を許さないように……。

 当然恋に溺れ切っているラファエルに母同然の彼女の言葉等心に響く事はない。
 それどころか逆にマリア―ナを厭うスティアへ嫌悪してしまう。
 スティアに警戒を強める程にマリアーナへとラファエルの心が急速に傾いていく。
 数日もすればスティアはマリアーナの傍どころか、ラファエルにも近づく事が許されなくなってしまった。

 恋に狂い臣下の言葉も聞かぬ愚者となりかけているラファエルに、普通の臣下であればきっと彼の許を去っていたのかもしれない。
 そうただ去ってしまうにはスティアはラファエルを心の底より愛し過ぎてしまったのである。
 だから自分が傍にいられない代わりにと、ラファエルの親友であり忠実な臣下でもあるマックスとチャーリーに彼の身辺を気をつけて欲しいと懇願する。

 彼らにとってもスティアは信頼のおける家族同然の存在。
 ラファエル同様にマックスとチャーリーもスティアが愛し護っていた者達なのである。
 敬愛するスティアが憂慮する要因でもあるマリア―ナをそれとなく調査する事にしたのである。
 

 そうしてマリアーナが王宮へ来て六日目の事だった。
 明日にはルガート王も帰城するという前日になってそれは起こった。
 この日ラファエルは生涯で最大に後悔する日となったのである。



 ※長くお休みをして申し訳ありません。💦
  急に寒くなり中々体調が戻りませんでしたが、これからゆっくりですが更新していきますね。


                         Hinaki


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