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第二部  第二章  泡沫の夢と隠された真実

1  人間として転生をした最高神

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 遥か遠い昔この世界はバレーザ神族と呼ばれし神の一族によって支配されていた。

 数多もの神々は各々に与えられし特別なる力で以ってこの世界で生きる物達を幸福へと導いていた。
 
 人間もまた然り。

 神々達の恩恵を余す事無く享受し中には直接神に愛でられるだけではない。

 その神との間に子を儲け、また生まれいでし子供達全てとは言わないけれども、幾人かの子供達は幸運にも神の御力を受け継ぐ事の出来た優れたる者まで誕生する事となる。


 神々の恩恵とそして高度な文明の発展と共に人間達は贅沢を覚えただけではなく、愚かにもそれに溺れ堕落していく者も少なくはない。

 そんな人間達を近くで見ていた神々は他の動物達とは違い、目の前の慾に溺れ無垢だった筈の心が次第に淀み穢れていく人間を毛嫌いする神もいればだ。

 堕ちた人間を都合のよい駒として使う事により人間同様更に内に秘められし慾へと溺れれば、自ら堕落していく神々も実際に少なくはなかった。

 神と共に神の英知と選ばれし人の努力によって創り上げられ頂点へと達すれば、円熟しきった高度な文明は何時の頃よりだろうか。

 熟れ切った果実がやがて内部より少しずつ腐敗へと侵食されていく様に、静かにその終焉の瞬間へと向かっていった。



 楽園の、世界の終焉の始まりとなる切っ掛けは一体何だったのだろうか。


 それはどの文献にも残ってはいない。
 ただ全てが突如終わりを迎えたのである。


 最高神サヴァーノ・ボナヴェントゥーラの伴侶たる女神ローザ・アウレリアーナの死により彼の怒りを買い闇の神と創始の女神は封印され、そのまま最高神により地上は粛清され楽園は終わりを迎えた。


 何もなくなった世界には少数の選ばれし人間と動物達、そして……最高神の御力を宿しただろう生まれたばかりの赤子だけ。

 何もない世界で細々と彼らは生きる道を模索する中で最高神の御力を宿した子はすくすくと成長すると共に、その子供は身の内に内包された御力で以って荒廃した世界での最初の国を創ればである。

 大人になったその子供は最初の王として国を治めた。

 その子供……青年となった自身を人の王でありながらも最高神の、として人々を幸せに導くのではなく再び道を外さないよう監視をすると高らかに宣言した。


 その国の名はアランバルリ神王国。


 バレーザ神族の創造せしバルデス大陸を統べる神王しんおうとして、有史以来変わらず今も彼の国は他国より尊敬と同時に畏怖の念を抱かれている謎深き神秘の国として存在している。

 そして当代の神王セレスティノ・グラシアノ・モデスト・デ・アランサバルは遥か昔に伝え聞いただろう最高神と同じうする御姿であり、最も色濃く最高神の御力を有しているとまことしやかに噂されていた。

 いや、噂等ではなく真実アランバルリ神王国当代の神王セレスティノの正体こそは最高神サヴァーノ本人なのである。


 彼もまた古の時代より時を経て今ようやくあの瞬間最後の力を使えばだ。

 を逃れ、唯の人間として転生を遂げたのである。

 神王として短い生を繰り返す事数千年の間、ほんの僅かではあるが少しずつ神であった頃の御力を取り戻せばこうして現在へ至る事となる。

 それから時間経過と共に御力を取り戻しかけた当初最高神は純粋にその事を喜んでいた。


 これで漸く失いし全てのものを取り戻せるのだと――――。


 しかし現実とは常に思う儘にならないもの。

 確かに神としての特殊な能力は開花されつつあったのだが、だがその御力を有する肉体は当時とは比べ物にならない程の脆弱とされし人間のもの。


 だからかつての神々は完璧過ぎるが故に脆弱なる物の存在を愛でたのである。


 ほぼ不老不死と同義である神にしてみれば、脆弱且つ儚い時間軸で生きる人間は一種の愛玩動物だったのだろう。

 その愛玩動物だと思っていた人間へと転生を遂げた瞬間その脆弱振りに最高神は余りの屈辱に一時我を見失ってしまった。

 然も次に目覚めてみれば自分のその姿は脆弱だと思っている人間の、更に弱々しい子供だったのだ。


 幾ら神の御力を有したところで脆弱過ぎる器では再び世界を手中に収めるどころか、自身の内包されし御力によってその命を直ぐにでも失い兼ねない。

 現実に御力の発現と共に最高神はこの短期間で何度も転生を繰り返していた。

 その繰り返しの転生のお蔭で失われし御力も少しずつだが、それでも神の頂点であった頃と比べれば吹けば飛ぶ様な力とも呼べないもの。

 脆弱な肉体と神の御力、相容れぬ関係性に苛立ちは増せば物や使える人間へと当たり散らす荒ぶる生き神へ臣下たちは恐れを抱き、気づけば誰一人として最高神の下へ近づく事も出来ないでいた。


 そんな荒ぶる彼の許へある日人目を忍ぶ様に二人の人間が訪れたのである。

 当然二人は現時点では人間、だが遥か古の時代では共にであった者。


 一人はこの世界そのものを創成した創始の女神インノチェンツァ。

 そしてもう一人は古の時代より最高神であった彼の息子であると共に忠実なる臣下であった偽りと商いの神ジュスティニアノ。


 元ニ神の存在により最高神は嘗てあるべき場所を取り戻す為だけに人間の求めるだろう理想の神王としての仮面をつける事にしたのである。


 そう全ては最高神の望む世界を取り戻す為だけに……。
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