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第二部 第二章 泡沫の夢と隠された真実
10 惹かれ合う魂と心
しおりを挟む「アンタにローザを愛する資格はない。これ以上あの御方を傷つけるなっ!!」
「――――メル……チェーデ」
そう遥か昔サヴァーノは自身の半身を創造する為に、まだ彼自身の穢れてはいない心の部分と血肉を用いる事によりローザをこの世界へと生み出した。
だが実際はローザが誕生する頃のバルディーニの大陸はと言えば最早収拾出来ないところまで瘴気や穢れが蔓延し、神や人も堕ちるところまで堕ちていたのである。
それは何も見た目の文化や生活だけではない。
楽園とは最早名ばかりで法や秩序、モラルさえも存在しない完全なる無法地帯。
神や人、動物や何時の間にか魔獣へと変化した者達によって弱き者や力なき者は犯し犯され、殺しに殺され、強者のみがその日を無事に生き残れると言った完全なる弱肉強食の悍ましい世界となり果てていた。
それまで選ばれし尊い者として崇められていた神と言えどもである。
力なき者はあっと言う間に淘汰されてしまう。
メルチェーデが自身の住処とする山を下りていくのはまだそこまで穢れてはいないけれどもだ。
しかし神にしては力の弱き者また人間や動物達にしても穢れの少ない、メルチェーデの御力でも十分に浄化の出来る範囲の者達。
心の弱いサヴァーノのやらかした大き過ぎる罪を娘として少しでも償えたら……何て殊勝な考えではないと思う。
ただこの無法地帯で淘汰されてしまうだろう力なき者を、少しでも助けたいと純粋に思っただけ。
恐らくこの世界はそう長くはないのだとメルチェーデは漠然とそう捉えていた。
理由や理屈等どうでもいい。
確実な事はわからないけれども、敢えて言うのであればそれこそ女神の御力によるもの……なのだろうとメルチェーで自身はそう結論付ける。
だがその何時か来るだろう終焉は一体どの様な形でなされるのかは、女神であっても彼女自身はまだ何ともわからないままである。
何もかも混沌の、無へと帰すのかそれとも――――選ばれし者だけは助かり、そうして次代へと希望を託すのか。
そのカギとなる存在が今誕生しようとするローザである事を誰が理解していたのだろう。
生みの親であるサヴァーノ。
若しくは創始の女神であるインノチェンツァ。
それとも未だ遠い北の大地へと住まうガイオなのだろうか。
こぽぽ……。
バルディーニの大陸の奥にあるアコンニャの神聖な泉の中で、ローザは輝く珠の中で誕生の瞬間が訪れるのを静かに待っていた。
サヴァーノは実に百日と言う時間を掛け、ローザへ己が力を毎日注ぎその瞬間を待っていた。
また彼はその力を注ぐと共にローザの眠る珠へ封印解除時にある条件を課していた。
それは誕生し目覚めると同時に彼女が初めてその瞳に映りし者を心より愛する事。
またローザの珠は誰にも封印が解けぬようにある条件の下で頑丈に封じられてもいたのである。
その条件とはこの世界で最も力を有する者。
ローザの眠る珠は本当に美しく、また柔らかくも眩い光を泉の中であると言うのに神々しく放っていたのである。
ローザはサヴァーノの伴侶、唯一たる存在になる者としてまた三柱神に次ぐ存在として創られた。
そう大神の伴侶として相応しい神格と御力を備えたる者として……。
そんな神々しい光を放つ彼女へ誘われるままに引き付けられようともである。
どうでもいい穢れ切った神々や慾に塗れた人間へおいそれとローザを奪われないが為に、サヴァーノは敢えてそう封じたのである。
また珠の中で眠るローザ自身あらぬ者達を惹き付けはしたのだが、彼女の力によって満たされし条件よりも劣る者には決して近づく事さえ許さなかったのである。
それが大神の伴侶へ求められるものなのだと、誕生する前よりそうサヴァーノによって念を送られていたのかもしれない。
だがサヴァーノは忘れていたのだ。
自身より、この世界には誰よりも優れたる兄神ガイオの存在を。
ガイオが最後にバルディーニより去って約百年。
慾に溺れ切っていたサヴァーノにしてみればガイオの存在は遥か遠い時の向こう側にいる様なものだったのかもしれない。
まさにサヴァーノ自身の慢心と偶然が引き起こさせたもの?
若しくはこれが運命によるものだったのかはわからない。
ただローザが誕生しようと言う瞬間にサヴァーノは彼女の傍にはいなかった。
ガイオはと言えば丁度百年が経過したが故にバルディーニへ、何故か引き寄せられる様に普段ならば決して向かわないだろうアコンニャの泉の前へと降り立ったのである。
サヴァーノよりも強く、この世界で最も御力を持つガイオの訪れにより珠の中で眠っていたローザは、彼の力へ惹かれる様に眩い光の中で目覚めればだ。
その瞬間彼女は彼女を見つめるガイオを愛してしまった。
そうしてガイオ自身眩い光より誕生したばかりの美しきローザに目を奪われただけではなく、心までもしっかりと奪われてしまったのだった。
全てはサヴァーノの浅慮により引き起こされた恐ろしいまでの偶然だったのである。
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