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第一章 突然の訪問者
【1】
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等と覚悟を決めれば思ったよりその日が訪れたのはその数日後でしたわ。
然もとても天候の良い日でしたの。
本当に昨日までの大雨が嘘の様に、お部屋の窓より見上げれば澄み切った青い空には雲が一つもないのです。
ですが現実を見れば大雨による被害は一目瞭然。
国内の幾つかの川は氾濫し、下流域にある貧民街では多くの被害が出ているそうです。
その中には亡くなった者もいれば、未だ行方を確認出来ない者達も多くいるのだとか……。
我がエアルドレッド帝国の魔導師の長でもあられる旦那様は、当然の事ながらこの数日間は屋敷へお戻りになる事も許されず、此度の天災に日々忙殺されておいでになられています。
そんなお忙しい旦那様の為にわたくしは今厨房で旦那様のお好きな焼き菓子やケーキ、食べ易い大きさのサンドウィッチ等をお届けしようと朝からこうして作っているのです。
勿論わたくし一人ではとてもですが魔導省で休む間もなく働いておられる皆様の分までは作る等到底出来ませんわよ。ですからこうして厨房でヘッド・シェフのアンディーをはじめ多くのスタッフ達の手を借り、朝早くより大量に用意していましたの。
ふふ、皆に手伝って貰ったお陰でどうやらお昼までには無事魔法省へ到着出来そうですね。
「では奥方様バスケットへの詰め込みはこちらでさせて頂きますので、どうかその間に外出のご準備を……」
アンディー、いいえ彼だけではなく何時もこの屋敷に仕えてくれている皆はとても優しいです。
こんなわたくしを何時も助けてくれるのですもの。
「有難う、お言葉に甘えさせて頂くわね。では――――」
「はい奥方様。お部屋には既に全て外出の準備を整えておりますわ」
わたくしの背後でそっと控えていてくれているのはシンシアです。
彼女はわたくしの大切な専従侍女兼話し相手。
ジプソン子爵家の令嬢で、当家にはお嫁入り前の行儀見習い――――と言ったところかしら。
真っ赤に燃え盛る炎様な赤い髪に澄んだ青い空を思わせる瞳は意志の強そうな、とてもはっきりとした顔立ちの美しい女の子、いいえ立派な女性になりました。
とは言え彼女は今年で22歳になると言うのにまだ決まった相手はいないのです。器量の良く優しい娘なのでどうかわたくしの様になってはいけないと、つい夜会や茶話会の時に素敵なお相手がいないか探してしまうのですが……。
「私は生涯どなた様にも嫁ぐ心算は御座いません」
「まぁ何故?」
確かにその様な事を他人であるわたくしがどうこう言うべきではないのは十分理解していますけれどもです。
しかしながらわたくしはシンディーを実の妹の様に感じて、いいえ様最早娘と言っても良いでしょう。
不思議な事に彼女を見て、言葉を交わす度に酷く懐かしいと感じる気持ちを抱いてしまうのです。
またわたくしがこの家へと嫁ぐ数年前にとあるお茶会でシンディーと出会ったのはきっと運命だったのかもしれないわね。
何の取り柄もないわたくしですが、それでも大切なシンディーの幸せを願わずにはいられないのです。
それなのにあの娘は何時もとても嬉しい反面悲しい言葉をわたくしへ告げるのです。
「私は許されるのであれば生涯をかけて奥方様へお仕えしとう御座います――――と言いますかっ、是が非ともお傍へ置いて下さいませ!!」
あぁ何て可愛らしい事を言ってくれるのでしょう。
わたくしこそですよ。これより先何時までも貴女が元気で幸せに生きていてくれるだけでわたくしはとても幸せなのです。
「えぇわたくしも出来れば貴女と一緒に居たいと思いますよシンディー」
「「お、奥方様〰〰〰〰⁉」」
あら、シンディーの感極まった甲高い声へ被さる様にもう一人の声が重なりましたね。
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