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第三章 別離
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しおりを挟む今度こそ喰われる!!
幽体になってまで青い花に襲われるとは思わなかった。
まさかのエルネスティーネの裏切りと触手のダブル攻撃に精神的なダメージが強く、私は情けない事にこの場より微動だにも出来なかった。
抑々私は貴族令嬢であって騎士ではない。
おまけに魔法師でもなければ冒険家でもない。
少しお転婆なだけの何処にでもいる普通の子供。
攻撃されるからと言ってそれに備えての反撃も出来なければ防御だってどうすればいいのかわからない。
わからないばかりが頭の中で堂々巡りの末……所謂パニックへと陥れば、そのままカチコチに固まってしまった。
実に情けない。
自分でもそう思う。
でも仕方がないでしょ。
今までこんな状況に……ってほんの少し前か。
同じ花に襲われたくらいの経験があるだけで、直ぐにレベルアップして強くなる訳ではないの。
その何も出来ないままの私へよ。
一切の情け容赦なんてものはなく、無数の触手がシュルシュルと音を立てて私の身体まで後数㎝と言う所まで迫った時だった。
「――――こんな所にいたのですねエルネスティーネ」
槍の様な鋭さを持った触手に身体を貫かれるかもしれないと思った刹那、闇を照らす一条の、温かな眩い光が差し込んできたかと思えばよ。
その光によって触手達は今現在進行形であらぬ方向へくねくねと曲がりながら苦しみ悶えている。
ほんの少しだけいい気味だと心の中で思った事は内緒。
多分私は今思い切り呆けた表情のまま、上から降り注ぐ光と聞き覚えのある声の方へと見上げているわ。
「大、神官、長さ、ま?」
オフホワイトの柔らかな生地。
緻密な金糸の刺繍が施された法衣に身を包んでいらっしゃるのは、この暗闇の中でも変わらず凛とした気高くも美しい清楚な百合然とされ、優し気な笑みを湛えておられる大神官長様だった。
何故なのかしら。
少し前にお会いした頃よりもお若く……そうとても80歳には到底見えない。
うーんお母様よりも少し年齢が上ってそれは、でも全く違和感がないの。
どちらかと言えばお母様の方が……コホン、それよりも何よりも大神官様ってばこの暗闇の中にいる所為なのかしら。
以前よりも物凄く神々しく見えてしまう。
流石は女神様にお仕えする御方だけあって素敵だわ。
「大事ないですか?」
「は、はいでも……」
今は大神官様の神々しさに呆けている場合ではないわね。
でも色々聞きたい事は山程にある。
先ずどうしてここにいるのですか。
私は死んで幽体になったのだからとしてもよ。
大神官様がお亡くなりになったなんて聞いてはいないわ。
他にも沢山……。
それよりも何よりも驚いたのは、地上?私と同じ位置に降り立たれた大神官長様に抱き締められた事。
たったそれだけでつい今し方までの抱えきれない不安や怖い思いの全てが、まるで焼き上がったばかりのステーキの上に置かれたバターの様に、あっと言う間に溶けるかのように安心してしまったの。
きっと抱き締めて下さる大神官長様のお身体の温かさが伝わってくるからなのね。
人の体温がこれ程心地良いなんて本当に不思議。
大神官長様の登場に安堵している場合ではないのは十分理解しているわ。
その証拠に本当はわんわんと泣き出したいのを今必死に堪えているのですもの。
だからほんの少しだけ。
そうすればこの場より大神官長様と一緒に逃げて見せるから……。
※お誕生日のお祝いエール(´▽`)アリガト!です。
本日オマケ更新です。
応援ありがとうございます!
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