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それから
それから4 アレックスと
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「ねぇねぇ、お父さん、また旅行に行こうよ」
「あぁ? 旅行ってどこだよ」
岩山の上、ゴロゴロと子守りをしながら、アレックスが返事をする。
「またはじまりの国に行きたいなぁ。お風呂が気持ちいいし、ご飯も美味しいし」
「あ、私も新しい服が欲しい!!」
「おい、お前ら旅行もタダじゃねぇんだぞ。金って面倒なもんが要るんだからな」
「えぇ? でもお父さん、はじまりの国の偉い人たちと友だちなんでしょ?」
「友……っ!? ば、ばか言うんじゃねぇ、友だちじゃなくてあいつらは俺様の子分だ! もしくは俺様に返し切れない借りがだな……っ!!」
「いーわねぇ、旅行。私たちも行きたいです」
「何っ!?」
狩りに行っていたはずが、急に入ってきた女ライオンの獣人たちに、アレックスはギョッとしてその顔を向ける。
「私たちも温泉大好きですし、久しぶりにまた初音とも話したいわ」
「………………」
「むしろ住処としてはあちらの方が快適ですし、いっそ移住したいくらいですけど」
そう言って、チラと視線を向ける女ライオンに、アレックスは眉根を寄せる。
「滞在するなら融通する。移住するなら仕事を含めて口を聞く。どちらにせよ、近くに寄った時は声を掛けて欲しい。初音も喜ぶだろうから」
そう穏やかに言ったジークの言葉を思い出して、アレックスはブルブルとその頭を振る。
もらった恩を、ジークと初音たちはきちんと余さず、待遇や仕事の斡旋と言う形で返していた。
その勢力ははじまりの国だけに留まらず、人間領地だった場所を巻き込んで拡大している最中。
それ即ち、変な意地で変革のチャンスに乗り遅れないでくれよ。と言う無言の圧力とも言える。
「将来、子どもたちが色んな選択肢ができるように、お願いしますね、アレックス様。大局を読むのが得意なあなたのこと、皆んな信頼していますから」
そう言って笑う女ライオンと、よくわかっていないであろう子ライオンたちに騒がれて、アレックスはため息を吐く。
「はぁ、やだやだ。疲れたから温泉にでも浸かって美味いものでも食べに行くか」
「わーい!!」
小面倒なことを覚えるのも、クソガキの元に甘んじるのも気が引けたけれど、はじまりの国は今や立派に人間と獣人と動物が共生していると言って過言でない状況となっている。
どんなに尽力しようと、アンダーグラウンド的なものは人間と獣人側の双方に存在する一方で、少なくとも大っぴらな奴隷制度は崩壊した。
人間と獣人が肩を並べて、商いをして生活し、互いの不足を補い合い、対等な契約の元で互いを尊重する土台は各地で順調に整えられている。
人間と獣人や動物の力関係が偏った街があるのも事実である一方で、その比率が対等な村や街も増えている印象は確かにあった。
いい加減と、自分たちが天下だと踏ん反り返っている人間の鼻をあかしてやりたいとは思っていたけれど、本当にここまでの事態に引き上げるとは思わなかったのがアレックスの本音。
顔と大恩を忘れられる前にちょこちょこ訪問して、融通してもらうのも悪くない。
何だかんだと、滞在先で挨拶回りをする顔も増えたな、なんてぼんやりと1人考えながら、アレックスは生意気盛りな子ライオンたちをその腕に引き寄せたーー。
「あぁ? 旅行ってどこだよ」
岩山の上、ゴロゴロと子守りをしながら、アレックスが返事をする。
「またはじまりの国に行きたいなぁ。お風呂が気持ちいいし、ご飯も美味しいし」
「あ、私も新しい服が欲しい!!」
「おい、お前ら旅行もタダじゃねぇんだぞ。金って面倒なもんが要るんだからな」
「えぇ? でもお父さん、はじまりの国の偉い人たちと友だちなんでしょ?」
「友……っ!? ば、ばか言うんじゃねぇ、友だちじゃなくてあいつらは俺様の子分だ! もしくは俺様に返し切れない借りがだな……っ!!」
「いーわねぇ、旅行。私たちも行きたいです」
「何っ!?」
狩りに行っていたはずが、急に入ってきた女ライオンの獣人たちに、アレックスはギョッとしてその顔を向ける。
「私たちも温泉大好きですし、久しぶりにまた初音とも話したいわ」
「………………」
「むしろ住処としてはあちらの方が快適ですし、いっそ移住したいくらいですけど」
そう言って、チラと視線を向ける女ライオンに、アレックスは眉根を寄せる。
「滞在するなら融通する。移住するなら仕事を含めて口を聞く。どちらにせよ、近くに寄った時は声を掛けて欲しい。初音も喜ぶだろうから」
そう穏やかに言ったジークの言葉を思い出して、アレックスはブルブルとその頭を振る。
もらった恩を、ジークと初音たちはきちんと余さず、待遇や仕事の斡旋と言う形で返していた。
その勢力ははじまりの国だけに留まらず、人間領地だった場所を巻き込んで拡大している最中。
それ即ち、変な意地で変革のチャンスに乗り遅れないでくれよ。と言う無言の圧力とも言える。
「将来、子どもたちが色んな選択肢ができるように、お願いしますね、アレックス様。大局を読むのが得意なあなたのこと、皆んな信頼していますから」
そう言って笑う女ライオンと、よくわかっていないであろう子ライオンたちに騒がれて、アレックスはため息を吐く。
「はぁ、やだやだ。疲れたから温泉にでも浸かって美味いものでも食べに行くか」
「わーい!!」
小面倒なことを覚えるのも、クソガキの元に甘んじるのも気が引けたけれど、はじまりの国は今や立派に人間と獣人と動物が共生していると言って過言でない状況となっている。
どんなに尽力しようと、アンダーグラウンド的なものは人間と獣人側の双方に存在する一方で、少なくとも大っぴらな奴隷制度は崩壊した。
人間と獣人が肩を並べて、商いをして生活し、互いの不足を補い合い、対等な契約の元で互いを尊重する土台は各地で順調に整えられている。
人間と獣人や動物の力関係が偏った街があるのも事実である一方で、その比率が対等な村や街も増えている印象は確かにあった。
いい加減と、自分たちが天下だと踏ん反り返っている人間の鼻をあかしてやりたいとは思っていたけれど、本当にここまでの事態に引き上げるとは思わなかったのがアレックスの本音。
顔と大恩を忘れられる前にちょこちょこ訪問して、融通してもらうのも悪くない。
何だかんだと、滞在先で挨拶回りをする顔も増えたな、なんてぼんやりと1人考えながら、アレックスは生意気盛りな子ライオンたちをその腕に引き寄せたーー。
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