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序章

破滅しないための小さな旅と新たなる出会い

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 ガヤとは、モブキャラの中でも通行人Aとか、生徒Bとかそう言った完全に個を持たない、いなくても大して気に求められないような脇役の一つの呼称だ。
 元々もはアニメなどの声優業界で使われてる用語らしいけど、俺は声優になったことないからよくわからない。

 まぁそんなことはどうでもいいんだ。
 俺の年齢と今の帝国暦が882年なことを考えたら、俺が入学する頃には888年。
 ゾロ目だから覚えやすかったが、花そその主人公は同い年だ。
 つまりシナリオに巻き込まれる可能性が高い。
 この国が破滅する前に転生したのは運が良いのか、はたまた苦労するのかはわからない。
 それにこの世界が一周目なのか二周目なのかを知りたいけど、それ以上にやることが山積みだ。
 帝国滅亡問題よりも、先に自分の破滅を回避しなければならない。

「なにせ俺がこの家に引き取られたのは魔力が高いからだからな。ライザー帝国では貴族の子息で最も魔力の高い人間を、花そその舞台であるレイアーノ魔術学園に入学させる義務がある。皇命だしな」

 前世の記憶が蘇る前の俺は、男爵が好意で俺を引き取ったと思っていた。
 そんなのは間違いだって今ならわかる。
 俺の義妹であるアルナを義両親は可愛がっている。
 彼女を学院に通わせないために、俺を捨て駒にしようとしているのだろう。
 なにせあの学園は死と隣り合わせだ。
 ゲームでの設定でも、魔物に殺される生徒は少なくないって話だ。
 誰も好き好んでそんな学園には送りたくないだろう。
 代わりをあてがうのはわかる。
 けど多分、代わりを当てがってる家は少ない。
 それは何故か。
 貴族の爵位を継ぐための項目の一つに、レイアーノ魔術学園を卒業すると言うものがあるからだ。

「学園には行きたくない。貴族社会なんかはどうでもいいし、この国が滅ぶ前になんとしてもこの国から脱出したい。どのみちこのまま行くと俺は人形になるか、殺される可能性が高いんだよな」

 平民だった俺を、あの義両親が爵位を渡すとは思えない。
 ゲームでも攻略キャラも含めて、学園の貴族達の平民の風当たりは強かった。
 そしてリアスとしての経験から言っても、こいつらが血も涙もないのはたしかだ。
 大方、婚約だけして、爵位授与をしたところで飼い殺すか、亡き者にして未亡人として誰か婿を招き入れるとかするところだろう。
 今こうして虐待して部屋の中に閉じ込めてる行為で、グレコの人となりはわかる。
 母さんは死ぬまで放置したことから、アルジオも同様だ。
 義妹の性格はまだ修正は可能だと思うけど、そんなことする義務もないだろう。
 
「前世では家族だからって親父とクソババァと妹には甘くしてたけど、あいつらは家族扱いすらしてこないしどうでもいい」

 国外逃亡するにしても俺はまだ幼い。
 国境の詰所に門前払いされる。
 しかし脱国は論外だ。
 花そその世界には、よくゲームにある冒険者という職業は存在しない。
 事件やクエストを解決するのは騎士以外だと、自警団みたいなものが存在したが、身分も定かでない人間を入れるはずもないだろう。
 つまり、身分を証明できなければ、生きていくことさえままならない。

「ここは現実の世界で、やり直しも効かない。身分が保証されつつ、国から脱出する方法か・・・」

 いや、脱出目標は最終目標だ。
 まずはこの家から出ることを考えよう。
 やはり武勲を上げて名誉貴族になることか。
 平民落ちは論外だ。
 国外逃亡方法は平民でも色々とできそうなことはある。
 しかし平民である時点でこの家から脱出することはできない。
 問題を起こして辺境に飛ばされるのも論外。
 俺はこの家に恨みはあるが、人生を担保にしてまでなにかしたいと思わない。
 
「そうとなれば、あいつをとりにいくか!」

 この世界が花そその世界と偶然の一致で名前が同じなわけがない。
 なら、出現するアイテムの場所はそこまで変わらないはずだ。
 ここはゲームの世界ではなく現実なことから、多少の差異はあるだろうけど、大体は一緒だろう。
 まずはここから脱出だな。
 国外にさえ逃げなければ、子供の家出程度で済むだろうし、あの毒親どもからすれば、自分の娘の為の捨て駒をまだ失いたくないだろうし、大事にもしないはずだ。
 俺は部屋の窓の鍵を開ける。

「窓の鍵にクレセント錠を使ってるって、ほんとに俺をここに閉じ込める気があるのかね?まぁ、前世の記憶を取り戻す前の俺は気が弱かったみたいだし、脱出するって選択をするとは微塵も思ってないんだろうな」

 この部屋は二階だから一応慎重に降りよう。
 9歳の子供がこの高さから落ちたら大怪我だ。

「ふーっ、脱出成功!<狂戦士の襟巻き>ちゃーん!今取りに行くぜ!」

 狂戦士の襟巻きは俺が三年間、初期の頃からずっと使ってた装備アイテムだ。
 アイテムの効果は、すべての身体能力を四倍にする代わりに、知能が1/4に下がり魔法が使えなくなるというもの。
 魔法がメインのゲームに対してクソアイテムと攻略サイトとかに書いてあったがその通りだとは思う。
 花そそでのガードはシールドを使っており、狂戦士の襟巻きをつけていると使用不可になるのだ。
 シールドはMPさえ切れなければダメージは通らない。
 回避ボタンっていうのがあって、それはアイテムの恩恵にあやかれて距離は伸びたけど、横にしかスライドできなかった上に、使用した後には硬直時間があったから、本来は弾幕を撃ってきた時にMP切れをちょっとだけ減らすためのギミックだったのだろう。
 それでも動きが4倍速になるのは俺的には楽しかったし、あいつを使い続けたことに後悔はない。
 
「最早相棒と呼んでもいい代物だろうよ」

 俺は今生ではまだ見ぬ相棒を手に入れるため、帝都に向けて足を歩み始めた。



 家を出てから1時間ほどが経った。
 俺はやっと帝都に着くことができた------というわけではなく。

「ここどこだよー!!」

 辺り一面生茂る木々。
 右をみても左を見ても木、木、木!

「ガヤポジションの家なんて、作中で明記されてるわけないし、道に『帝都ローズはこちら』って看板があったからつけると思ったけど、途中で看板見なくなるし、あぁもう最悪!」

 そんなこと言ってる場合じゃない。
 森には魔物が出ることがある。
 今の俺に撃退する術がない。
 取りあえずさっさと森を抜けよう。
 そう思った矢先、草むらから何か飛び出してきた。
 胴の長い動物だ。

「キュゥゥゥゥゥ!!」

「これは?カワウソ?いやイタチか?」

 尻尾に鎌のついてるイタチだ。
 鎌鼬かまいたちって奴か。
 なんか異世界来たって感じするけど、これヤバくね?
 だってあんな鋭い鎌で斬られたら、お子様の柔肌じゃ絶対パックリ行く。
 よく観たら足に怪我がしてる?

「怪我してるから疑心暗鬼になってるのか」

『ふんっ、この程度の傷、魔力があればどうってことないです!こっちに来ないでください!』

「魔力があれば治るのか?」

『当たり前です!私をなんだと・・・え?私の言葉がわかるのですか?』

「あぁ。わかる。というかそれは普通じゃないのことなのか?」

 たしか主人公の使役していた聖獣には台詞があったはずだ。
 しかし言われてみたら、他の精霊の台詞パートは見たことないな。

『ヒューマンが何故!くっ』

 傷口を痛そうな顔をしながら向けている。
 どうにかしてやりたいが。

「おい、俺は魔力が高いらしいんだ。魔力があればどうにかなるってことは、魔力を俺から取ることはできるか?」

『ヒューマンなのに魔物のような容姿をする私を心配するとは・・・』
 
「別に容姿は関係ないだろ。意思疎通できるんだから」

 ちょっと驚いて見せるイタチ。
 イタチって驚いた顔するとこんなのなんだ。
 さっきまで逆立っていた感情が収まったのか、立っていた尻尾がふんわりと地面に降ろされた。

『普通は意思疎通すらできないのですけどね。少し良いですか』

 そう言うとイタチは俺の手の甲に口を充てる。
 すると手の甲が光り出し、渦巻きのような模様が浮かび上がった。
 なんだこれ?

『ふぅ、助かりました』

「あ、あぁ。魔力を吸ってたのか。じゃあこれはその代償とかそんな感じか?」

 貴族はこういう傷も侮蔑の目を向けてくるんだろうか。
 まぁ魔物に襲われて傷まで付いたら、何か病気が伝染るとか良いそうだな。
 比較的差別の少ない日本ですら、ありもしない事実に差別をすることがあるんだし。

『いえ、これは契約魔法であなたと私が繋がった証の様なものです』

「契約?まさかお前精霊なのか?」

 契約魔法は精霊のみが使用することのできる魔法だ。
 けど契約はお互いが同意した状態で為されるって設定じゃなかったか?
 俺はこいつに魔力を渡したい、こいつは傷を治したいという利害の一致で同意したことになったのか。

『まさか魔物を善意で助けたと言うのですか?』

「そうだが?だって意思疎通できるのに放置するなんて後味悪いだろ?」

『ふふっ、変わったヒューマンですね。あなた、名前は?』

「俺は・・・リアスだ」

『なんで間があったのですか?』

 単純に自分の名前を思い出せなかっただけなんだが。
 そういやなんかこのイタチ、追加コンテンツの課金精霊の中にあった気がするな。
 三種類あって、そのうちのひとつがこんな形のイタチだった気がする。

『無視ですか?まぁいいです。私の名前はクレセントと言います。これから末永くよろしくお願いしますね』

「あぁ、契約を結んだもんな。よろしくなクレセント・・・長いからクレでいいや」

『クレ・・・クレですか。いい響きです』

 嬉しそうにくるくると回っている。
 そこはイタチなのか。
 まぁイタチ飼ったことないし、嬉しいときそういう反応するか知らないけど。
 クレセント・・・あー!
 思い出した!
 課金精霊のイタチの名前がクレセントだ。
 クレセントは鎌鼬の見た目をした風神で、その性能は最弱威力の風魔法が最強威力の雷魔法威力にまで強化されるという効果があった。
 攻略サイトでも、クレセントが安定、クレセントを使ってれば間違いないとか、最強テンプレ構成にクレセントの名前が絶対入っていたほどだ。

「クレセントって風神じゃないか?」

『ふふっ、よくご存じで。私と契約しても魔力を8割以上も残しているだけありますね』

 え、俺ってそんなに魔力高かったんだ。
 花そそでは、精霊も装備のひとつだった。
 魔力ポイント、MPの上限を消費して装備できるというものだ。
 クレセントの唯一の欠点と言うのが、魔力の上限を1500消費しないと装備できないことだった。
 主人公のレベルをカンストさせた時点でMPが2000だと言うこと、そして一番威力の低くMP消費の少ない魔法でも50も消費することから、それがどれだけ欠点かはわかる。
 しかしそれでもクレセントが起用されたのは、雷魔法の最高威力の魔法はMPを2000も消費するのに対して、風魔法の最高威力の魔法は250しか消費しないため二回攻撃が打てるため、実質最強装備とされていた。
 何故それだけしかMPを消費しないかというと、初期の聖獣で風魔法を放つと雷魔法の1割の威力も出ないためである。
 これは風というかっこいい響きに惹かれる厨二病患者に課金させようとするメーカーの策だろう。
 それにしても、そんな風神が怪我を負わされた相手って一体?

「クレ、どうして怪我をしていたんだ?」

『ヒューマンの集団にやられました。私はこの見た目だから精霊とは思われず、魔獣や魔物と勘違いされたのでしょう。まぁ生まれてから100年余り、ずっとそんな調子でしたので、いつも通り対処するつもりでした。しかし今回は油断しましたね。魔力切れを起こし、致命傷を負ってしまいました』

 致命傷!?
 え、あの傷はそんな重たいものだったのか!?

「大丈夫なのか?」

『正直なところを話すと、あの状況であなたの助力がなければ、命は尽きていたでしょう。感謝します』

 そんな危ない状態だとは知らなかったよ。
 よかったよ通りかかって。

「あぁ、こちらこそ。俺もこの森に迷い込んで、魔物に怯えながら進むよりは心強いし助かるよ」

『そうでした。リアス、どうしてあなたのようなヒューマンの子供がこの幻獣の森にいるのですか?初めて見ましたよ』

「え、ここって幻獣の森だったの!?」 

 幻獣の森とは、高レベルな魔物が生息しており、レベル上げには最適の狩り場だった。
 まぁ余りの強さに一体倒すのに何度も殺されてるんだよな。
 エネミーがダメージを蓄積するタイプじゃなかったら勝てなかった自信はある。

『知らずにここに居たんですか』

「あぁ、ちょっと捜し物をしに帝都に行こうと思ってな。あ、帝都ってわかるか?」

『ローズの街ですね。わかりますよ。しかし、と言うことは迷子ですか』

「恥ずかしながらな」

『いえ、ですが不思議ですね。見た目はどう見てもヒューマンの子供だというのに、妙に落ち着いた雰囲気をしています。私の勝手な想像ですが、子供はもっと無邪気に暴れて言うことを聞かないものかと』

「あぁ、それは概ね間違ってないと思うぞ。実はな------」

 俺はこの世界に転生してきたこと、前世にあった乙女ゲーの舞台の世界がこの世界に酷似していると言うこと、そして俺が帝都に向かっていた理由を毒親の件も含めて話した。
 さすがに百年もの時を生きているだけあって、先ほどより見せた驚いた様子がない。
 まぁそれだけ人と会話できたことが驚いたんだろう。

「てなわけで、俺は帝都にある<狂戦士の襟巻き>を取りに行こうとして迷子になった!」

『思いの外ヒューマンの親という者はクズなのですね』

「全員が全員そういう奴らだとは限らないさ。母さんは比較的まともだったしな」

 クズなのは前世の両親と、アルジオだけだな。
 グレコは俺は母親とは思ってもいないのでカウントしない。

『しかし驚きました。輪廻転生という概念は聞いたことがありましたが、まさか異世界から輪廻転生してくるなんて』

「俺も驚いているよ。まぁさっき話した通り、前世で俺は理不尽な理由で実の親に殺された。だから今生くらいは天寿全うしたいと思ったんだ」

『それは問題ありませんね。オトメゲーというものはよくわかりませんが、あちらの世界での私の情報は正しいです。私に勝てるとしたら雷神くらいでしょう』

「雷神?」

 雷神は聞いたことが無いぞ?
 たしか残り二つの課金精霊は雷神じゃなかったはずだ。

『あ、リアスが話したカキンによる精霊に雷神はいなかったみたいですね。それでは雷神というキャラは、オトメゲーには出てこなかったのでしょうか?』

「居なかったな。モブまですべてを制覇した訳じゃないから、もしかしたらモブの中にいた可能性も否定できないが」

『そうですか・・・』

 少し悲しそうな顔をして俯いたクレ。
 知り合いだったのか?
 花そそではモブキャラにもそれぞれ個性があり、話しかけられるモブにはすべてストーリーが存在した。
 ストーリーに絡んでこないので脇役ではないのだが、それでも脇役と言って差し支えないほどのモブのキャラは濃い。
 二周目の婚約者捜しで、一通りモブキャラには話しかけたと思っていたんだけどな。
 だから雷神なんてキャラがいれば、インパクトの強さで覚えているはずだが、ここは現実だ。
 ゲームと違うことなんて、これ以外にもいっぱいあるだろう。

「知り合いか?」

『はい。これは私の予想ですが、おそらく表沙汰に出ていないか、私同様に何らかの理由でヒューマンに目を付けられて、狩られてしまったかでしょうね。精霊は契約者無しでは生きていくのはかなり厳しいですから』

 ゲーム内では精霊は装備だったし、野生の精霊なんて出てこなかったから知らないけど、契約をしないと弱いのか?

「強いのに厳しいのか?」

『えぇ、今は契約者であるあなたの魔力を補充することできるので、ヒューマンからしたら脅威でしょうね。契約していない精霊も魔力はそれなりにあるのですが、困ったことに自然回復しないもので。精霊は魔力が消えると消滅してしまいますから、契約魔法分の魔力しか残ってない精霊はかなり弱いですね』

「へぇ、じゃあ精霊にとって魔力がそのまま生命力ってことなのか」

 要はMPとHPが同じってことだろう。
 自分の命を削って行使する魔法って、精霊って実は装備として扱っちゃダメなんじゃないか?
 
『それは違いますね。魔力が尽きていなくても肉体が崩壊すれば、他の生物同様に死んでしまいます。生物が魔力欠乏症により苦しむという段階があるのに対して、精霊はそれがないだけです』

 MPが少なくなると動きが悪くなるのが魔力欠乏症だったな。
 ゲームでは動きが遅くなる程度だったが、こっちでは死に直結するんだったな。
 覚えておこう。

「その雷神もクレと同じ様に契約者がいないのか?」

『えぇ、色々と理由もありまして。差し出がましいのですが、<狂戦士の襟巻き>を取りに行ってからでいいのですが、魔力が高いリアスにお願いしたいことがあるのです』

 お願いか。
 そんな堅苦しいこと言わなくても聞くのにな。

「あぁ、何でも言ってくれよ。契約したってことは相棒ってことだろ?」

『相棒・・・えぇそうですね!リアスに雷神と契約して欲しいのです』

「俺が雷神と?それは力を付けたい俺としては願ってもない頼みだが、理由を聞いてもいいか?」

『えぇ、今の雷神は二年ほど前に死んだ友の娘、忘れ形見なのです。彼女には幸せになってもらいたい。あなたの言うオトメゲーと言うものでは、あの娘が生きているか命を落としているかはわかりませんが、少なくとも外界には出ていませんでした。あの子にはこの広い世界を見て欲しいのです』

 クレと先代の雷神の関係についてはよくわからんが、多分仲が良かったのだろう。
 じゃなければ自分の娘じゃないのにそこまで気にするはずもないだろう。

「そういうことなら、今から行くか」

『今からですか?<狂戦士の襟巻き>はよろしいのですか?』

「早いほうがいいだろう。襟巻きは欲しいけど、命には代えられないしな」

『あ、ありがとうございます!』

「って言ってもどこにいるんだ?」

『場所はわかっています。なにせ私と雷神は何度も雌雄を決しましたからね』

 雌雄を決する?
 え、仲が良かったんじゃないの?

『かつて街を一つ吹き飛ばしてしまったこともありましたので、ヒューマンもあそこまでは近づかないでしょう』

「待て、友達だったんだよな?なんでそんな命懸けの闘いを------」

『友とはそう言う者でしょう?命を突きつけ合わなくては』

「待て待て待て!俺はそんな殴り合いできんぞ!?死んじまうからな!?魔法なんて使えないんだから」

 なんでそんな俺をじーっと見つめる。
 俺に命懸けの闘いを所望するなんてたまったもんじゃないぞ。
 天寿全うするつもりなのに、ここで俺の生が終わっちまう!

『相棒にそんなことはしませんよ。そう言えば転生したばかりですものね。魔法は私が今度教えますので、とりあえず今は私が風魔法で雷神の元にお運びしますよ』

「え、魔法って覚えられるもんなの?」

『何を当たり前の事を。まぁいいですほら』

 クレが小さな手をひょいひょいと、手を招くように動かす。
 すると魔法陣が俺の足下に浮かび上がる。
 そして風が吹き始めると、ふんわりと身体が宙に浮き始めた。
 うん、俺の予想が正しければこのあと・・・

『では行きますよ!あ、口は閉じておいて下さいね。うっかり舌を噛んでも、私は治癒魔法は使えませんので!』

「うぁあああああああああああああ!やっぱりぃぃぃぃぃぃいいい!」

 予想通り俺の身体は勢いよく上空へと舞い上がる。
 ネズミが指揮する夢の国の火山を探検する車とか、富士山の麓にあるめっちゃ高いジェットコースターとか顔負けだ。
 前世で遊園地なんて高校生の時以来行ってなかったけど、なんであんな絶叫マシーンが好きだったんだろうな。
 普通に怖すぎる。
 
『じゃあ、いざ出発です。朝になるまでに<狂戦士の襟巻き>の回収まで済ませたいので飛ばしますよ!』

「ちょ、ちょっとクレさん!もう少しだけ、もう少しだけスピードを~」

『了解です!スピード上げていきますよ!』

 俺はこの時誓った。
 まず戻ったらクレには人の常識を教えようと。
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