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序章
前世での俺の相棒はとんでもない代物でした。
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「つ、ついに手に入れたぁぁぁああ!」
<狂戦士の襟巻き>を取りに帝都に俺達は来ていた。
さっきまで意識を失ってたけど!
俺が意識を失ってる間に、クレはミライに俺の前世のことを話していたらしく、花そそに着いて根掘り葉掘り聞いてきた。
だからアイテム探しをしている間に、話せる限りの花そその情報をミライにたたき込んだ。
なにせ俺はシナリオオールコンプした男だからな!
それはそうと、思いの外あっさり見つかって拍子抜けなんだけどな。
<狂戦士の襟巻き>は、帝都の中のスラム街のアパレルショップだった場所の金庫に保管されていた。
実はこれには裏設定があって、アパレル店は狂戦士の襟巻きの呪いとも言われる効果の、知能低下により金勘定や経営もままならなくなったため、倒産したと言う物があった。
まぁゲームにもあったが、机の上に書いている紙があるのも明白だ。
”何故こんな額で服を売ってしまったのか。この店は呪われているんじゃなかろうか”
たしかそんな感じだったと思うけど、俺はこの世界の字が読めない。
因みに金庫はクレが綺麗に刻んでくれました。
『これが<狂戦士の襟巻き>ですか・・・小汚いマフラーですね』
「あぁ、俺もそう思う。けどこいつをひとたび装備したら、それはもう爽快な速度で動くことができるんだ」
「リアスくん、でもそれってげぇむの話なんでしょ?実際に装備したら、効能違ったとかない?」
ミライの言うとおりだ。
もしかしたらタダの呪いのアイテムと貸してるかもしれないし、ゲームとの差異は確実にあるだろう。
だから今度は歩いて森に戻っている。
まだスラム街なのだが、ここはほとんどの店が倒産して市街地跡みたくなっている。
数多くの服飾店が残っていた。
ほとんどの店は服を改修してあったのだが、子供服の需要というのが、この世界ではあまりないのか、かなり残っていた。
処分するにも金がかかるし放置なんだろうな。
「上半身裸って言うのも目立つし、とりあえずあの服着るか」
身体の汚さは、クレが浄化魔法をミライのトコロに行く前に懸けてくれたからいいが、服はどうしようもなかった。
精霊でも服を生み出すことはできないらしい。
俺は比較的に保存状況の良い服を来た。
濃い深緑の服に、ベージュのズボンだ。
なんでそんな色を選んだかって、なんか軍服みたいでかっこよかったし。
「ミライの服はどうやって調達してたんだ?」
『全部ミライのお母さんの手作りですよ。収納魔法で持ってきてますよね』
「うん!お母さんとの思い出だもん」
『それに防護付与がこれでもかってくらい付与されてますので、防具にもなりますしね』
「なるほど、ミライのお母さんはすごい人だったんだな」
『ミライの母、カコさんはエルフでしたからね。魔法に関してはとてもすごいのですよ』
「え、そうだったの!?」
ミライよ、自分の母親の種族くらい知っていようよ。
この世界にもエルフっているんだ。
あ、それでクレはヒューマンとか言ってたのか。
「俺の記憶では、あ、リアスの方な。リアスの記憶ではエルフ見たことないんだけど」
『それは気づかなかっただけじゃないですか?エルフと人間は見た目では区別つかないですから』
「え、エルフって耳の長い一族じゃないの?」
でもそれならミライも耳が長くないとおかしいし、でも雷神の見た目が丸い耳だったのかもしれないか。
『耳の長いですか。ふむ、リアスの前世のヒューマン達は面白い考え方をするのですね。おそらくエルフの存在を知っている者が、区別するためにイメージを定着させたのでしょう』
へぇ、その考え方はなかったな。
「クレセントおじさん、じゃあボクは人間じゃないってこと?」
『エルフもヒューマンも見た目では判別がつきません。問題無いと思いますよ。ただエルフは草食なのですが、ヒューマンは雑食、その一点だけですね違いは』
あ、やっぱり世界共通なんだな。
エルフは肉を食べないって。
そう考えたら草食と雑食って、かなり的を射た表現の仕方だな。
「え、でもボク肉食べれるよ。草食動物って肉を消化出来ないんじゃなかった?」
『ミライは雷神とのハーフだからですよ。精霊は基本的に身体を動かすために魔力を食べます。しかし肉も植物も食べれますからね』
「へぇ、じゃあクレセントの食事はいらないのか。食費が浮くな」
『いえ、食事は必要ですよ。ヒューマンで言うタバコや酒のような物です』
なるほど、嗜好品ってわけね。
ストレス溜まるからまぁ必要だろうな。
「この世界には獣耳を生やした人間って居るのか?」
たしか作中には獣耳をしたキャラの模写があった。
ピンク色してたんだよな。
結局何の動物の耳かはわからなかったけど。
「獣耳?猫さんとか犬さんの耳生えてる人とか?」
『いえ、獣と言うくらいです。獅子や虎と言った奴らの耳をしているのでしょう!』
この感じ、獣人はこの世界には居ないのか?
少なくともリアスの記憶の中では見てないし居ないんだろうな。
まぁそこまで気になる話しでもないし、服も着たから、いよいよ<狂戦士の襟巻き>の試用運転に向かうとしよう。
「どうだ?似合うか?」
「うん、かっこいいと思うよ」
『中々似合ってると思いますよ』
微妙そうな顔してる。
いいさいいさ、今度もっとかっこいい奴を普通に買ってやるし!
「まぁ目的はこいつだからな」
『早く行きましょう。もうすぐ朝になってしまいます』
「朝になると何かまずいの?」
「あぁ、一旦家に戻らないといけないんだ。身分が保障されていないと、俺みたいな子供は暮らしていけない。食い扶持もないしな」
『ミライにもご飯が必要ですしね。紛いなりにも男爵家。貴族である以上美味しい料理はあるはずです』
「え、美味しい料理!?」
ミライが目を輝かせている。
俺はあの家で美味しい料理を出されたことがないのだが、リアスのときとは違うからな。
使用人程度なら、不敬をチラつかせて脅せば出してくるだろう。
リアスをいじめて食事も出さないような使用人だ。
優しくしてやる必要もない。
「あぁ、任せとけ。帰ったら美味しい料理を食べさせてやる」
「やったー!2年ぶりの料理だ。クレセントおじさん、魔法の授業の時間以外はボクを外に出してくれないから、いつも焼いて塩が振っただけの肉や野菜しか食べさせてくれなかったんだよ」
え、それって普通に地獄だな。
これも日本生まれが故か、いや違うな。
俺自身も1年以上まともな食事をしていなくて、美味しい食事に身体が飢えているんだ。
その倍と考えれば地獄以外の何物でも無い。
『仕方ないのです。緊急事態を招いて無駄に魔力を消費するのは、自殺行為に等しいですから』
「まぁ命には代えられないよな」
『本当にギリギリでした。あなたと出会わなければ、ミライ共々共倒れでしたよ。私の魔力も尽きかけてしまったので。かなり膨大にありましたけど、狩りをしなきゃいけないとなれば限界は自ずと来てしまいます』
あぁ、ミライの両親が亡くなる前までは両親がご飯を作っていたんだ。
そしてクレは食事が要らない。
いくら100年生きても、狩りをしなければ生きていけない状況だと、魔力が回復しないのはかなり痛手だな。
「苦労したんだな」
『えぇ、でもミライのためですから』
「おじさんそんなに無理してたんだ。ごめんなさい」
『いいのですよ。子供は大人を頼るものです』
「俺のことも頼ってくれていいからな。なにせ、前世では30歳まで生きたんだから!今生と合わせて39歳だ」
「えー、リアスくんは9歳だし、それに迷子になってたんでしょう」
『たしかに39歳が迷子はまずいでしょう』
二人とも辛口評価。
そもそも39歳なのに、9歳のミライを恋愛対象に見そうになった時点で俺終わってるんだよな。
あの頬のキスが原因だ。
俺は恋愛経験ゼロなんだよ。
あと少しで前世では魔法使いになるところだったんだよ。
『何かブツブツ言ってますけど着きましたよリアス』
「ここでいいのか?街から出てすぐじゃないか」
『えぇ、ちょうどいい獲物が居ましたから、それの実践には丁度良いかと思いまして。オトメゲーでは、素手で闘っていたのでしょう?』
クレの指す方向を見ると、光輝く瞳がこちらを睨んでいた。
そして月明かりに照らされて、見えてきたのは緑色の肌をした、服を着る前の俺のような服装をした子供だった。
もっとも口から牙が突起していて、つり目で瞳孔がないことから人間ではないことがわかる。
「あれはゴブリンか?」
「はい。ヒューマンの子供にはかなりの強敵だと思ったので」
たしかに雑魚ではあるが、それはこの世界での成人15歳を迎えた時点での、主人公の身体だったからだ。
九歳の、しかも栄養が足りていないような俺にとってはかなりの難易度と言える。
「リアス、がんばって!因みにボクはゴブリン楽勝だからね!」
「それ言う必要あったか?」
「えへへ、どやぁ!」
あ、この世界にもどやぁって文化あったんだ。
さて、俺は<狂戦士の襟巻き>を首に巻き付けた。
あ、これはヤバイ。
急激に思考が低下していく。
気づけば、俺は走り出していた。
「ウガァァァァァァ!」
「・・・」
勘に障る声ダ。
棍棒を振り下ろしてくるだろうナ。
左手で受けとめて、右手で拳を打ち込ム。
臓物をまき散らして、血溜まりが出来タ。
弱い、弱すぎル。
腹を抑えていル。
痛そうダ。
弱い奴は死ねばイイ。
俺は何度も足で頭部を潰シタ。
この血溜まりを見ても何も感ジナイ。
俺は満足できなイ。
満たされナイ
酷く咽が渇ク。
「キュゥゥゥゥ!」
「・・・」
イタチカ。
それに子供の少女。
物足りなイ。
そうだ、あれを殺せば俺の渇きは潤うだろうカ。
殺そウ、カワキヲウルオワスタメニ。
「え、ちょっとリアスくん!?」
「キュゥゥゥゥゥ!」
俺が前に飛び出すと、少女を庇うようにイタチが飛び出してキタ。
これが魔法カ。
風の刃が俺の皮膚を切り裂ク。
面白い、面白いゾ!
「ハハハハハハハ!」
「キュゥゥゥゥゥ!」
右へ左へ高速に振り回ス。
速いけど見切れない速度ジャナイ。
すばしっこいイタチダ。
右手で鷲づカム。
そして潰しタ・・・
「ハハハ!俺の勝------」
その直後目の前にイタチが現れて、俺の首に付けられた襟巻きが取ラレル。
徐々に思考が戻って来た。
う・・・これは・・・
「はぁはぁ、これはヤバイ・・・助かったクレ」
『いや、こちらに殺気を向けてきたときは、正直焦りましたよ。身体能力向上とは裏腹に、バッドステータスが着くようですね。精神汚染はしてませんか?』
「いや、わかんないけど・・・苦しいな・・・」
「リアスくん?大丈夫?胸、痛い?」
俺の心臓は前世でも味わったことないほど、鼓動が高鳴っている。
それだけに恐ろしかったのだ。
まるで途中から何か別人の思考になっているんじゃないかって。
「はぁはぁ・・・この装備は、できるだけ身につけない方がいいな」
『効能自体は協力です。命の危機を感じた時のために、持っておくのがよろしいかと。まさか素手であの惨状を作り出すとは思いませんでした』
先ほどゴブリンだった液体を見る。
あれ俺がやったのか。
感触は覚えてるし、あの時の思考や記憶はちゃんと残ってる。
「はぁ、驚いたよ。あれは俺がやったのかって思うほどに」
「あの時のリアスくん怖かった」
「女の子を怖がらせるなんて最悪だな。ごめんなミライ」
「ううん、その襟巻きの所為なんでしょ?仕方ないよ。でもできる限り使わないでほしいかな」
黙って頷いて、俺はミライの頭を撫でる。
そんな悲しそうな顔をしないで欲しいな。
それは言われなくてもそうするつもりだし。
これは危険すぎる。
何が知能低下だ。
完全に狂人になってた。
あれはゲームだからそういう設定になってただけだったんだ。
多分魔法が使えたとしても、あの状態の俺は使ってなかっただろう。
ゴブリンが臓物をまき散らした瞬間、少なからず高揚感があった。
「自分が恐ろしいと思ったのは、生まれて初めてだな」
『えぇ、その存在を知らずに装備していたらと思うとゾッとしますね。ある程度警戒した上で、この広い場所でなければ、街で討伐対象にされていたかもしれませんね』
たしかにクレの言うとおりだ。
かなり俺は軽率な行動を取った。
実際はクレと出会う予定はなかったし、一人であの襟巻きを着けていたら、本当に殺人鬼になっていただろうし、おそらくそこで生を終わらしていただろう。
いくら身体が強化されていたとしても、栄養が足りてない子供の身体だ。
体力にだって限界があるだろうし、確実に街の衛兵に殺されていただろう。
「クレに助けられたな。お前と契約して助けたことでチャラにしてくれ」
『そのような冗談が言えるなら、精神汚染の心配はないですね』
「あぁ、動悸も治まってきたし、もう大丈夫だ」
俺は立ち上がって軽くジャンプする。
うん、大丈夫そうだ。
医者じゃないからわかんないけど、とりあえずふらふらするってことはない。
「かーっ、どっと疲れたな。まだ前世の記憶を取り戻してから一日も経ってないのに・・・経験密度が濃すぎだ。こいつ、クレが管理していてくれないか?」
『いやです。帰路の道中に、あなたに収納魔法を教えますので自分で管理して下さい。万が一私が暴走したら、ミライが苦労することになるのですから』
「ボク、おじさんが暴走したら止められる自信ないよ?リアスくんでもどうにか出来たかわからないし」
『そういうことです』
「いや、収納魔法ってそんなにすぐに覚えられるものなのか?」
便利そうだし、空間を操りそうな魔法だろ?
「それにそもそも俺が魔法を覚えることができるのか?精霊がいないと魔法が使えないって設定は、精霊が魔法を使っているか唱えているかだと思ったけど違うのか?」
『普通はリアスの考えで間違いないですよ?知っていますか?そもそも私の声が聞こえること自体が異常なのですからね?』
「あ、そうだ!どうしてリアスくんはおじさんの声が聞こえるの?お母さんもおじさんの声、聞こえてなかったのに」
え、そうなの?
そういやクレと出会ったとき、意思疎通が出来るのが普通じゃないって言ってたな。
「意思疎通が出来ない以上、そもそも魔法を教えることができないってことか?」
『えぇその通りです。正確には私達精霊は、あなた達ヒューマンの言葉はわかりますから、魔法名を唱えた瞬間に、私達が魔法陣を展開しているのです』
なんか知りたくなかったな、その裏設定。
でもたしか、主人公が使役していた聖獣の台詞はあったはずだ。
「ゲームでは聖獣って奴が、主人公に話しかけてるシーンがあったんだけど、それはどうしてなんだ?」
「聖獣?」
『あぁ、あれですか。あれは精霊ではありませんよ?聖獣は聖魔法しか使えません。しかしヒューマンと話ができることから、ヒューマン達は特別な精霊と崇めているようで、彼らもそれを上手く付け入って暮らしているようですよ』
マジかよ。
あいつだけ特別だと思ったら、あいつは精霊ですらなかったのか。
あれ?でも主人公は聖魔法以外も使えたぞ?
「付け加えるとたまに全属性を使える聖獣もいるらしいよ。お母さんが言ってた!」
あ、俺の疑問はすぐに解消された。
そのたまにいる聖獣が、主人公の使役していた聖獣か。
「多分それが主人公の聖獣だろうな。魔法を教えてるシーンなんてなかったけど、主人公は魔法を使えたのかね?」
『それは無いと思いますよ。聖獣は人間を隠したと見下しています。そして彼らは聡明です。魔法を覚えた人間は聖獣を必要としなくなるのがわかっているので、そんなことしないと思います。基本的に聖獣は魔法が使えるだけで、契約することは出来ていないのです。手に刺青を付ける魔法を使用して、契約に見せているのですよ』
え、それって詐欺じゃん。
なんか神々しい存在だと思ってたのに、それ聞いたら笑えるかも。
主人公綺麗事ばっか並べててイライラしてたけど、なんかスカッとした。
俺って性格悪いな。
『敵対しても我々の足下にも及びません。そんな考え込まなくても大乗ですよ。普通の精霊だと苦戦する可能性もありますけど』
「あー、そっちの心配はしてないよ。そもそも敵対するつもりもないし、ってどうしたミライ?」
俺のことをじーっと見つめてるミライ。
しかも、ちょっと小さい声でじーっていってる。
なんだこの可愛い生物は!
「リアスくん今、すごい悪い顔してた」
「え、マジで?」
『たしかに、さっきとは違う何か企んでそうな顔でしたね』
「いやいや、別に何も企んでないから大丈夫だ。ちょっと花そその綺麗事言ってる主人公にイライラしてたから、騙されててざまぁって思ってただけだ」
「性格悪ぅ~」
『リアスの気持ちはわかりますよ。争いごとを嫌う主人公でしたよね。好ましい正確だとは思いますが、それを人に押しつけるのは違うと思います。闘いたい奴は闘えば良いと思いますよ』
そういや、こいつ雷神と闘ってあんなクレーター作るほどの戦闘狂人だったな。
余り好戦的にはならないでほしいんだけど。
「う、ミライが、ミライが眩しい!」
「何言ってるの急に?」
「いや、本当に眩しいんだって?」
「あ、ホントだ。朝日だね」
俺はミライが神々しい女神になったのかと思ったが、後ろからどんどん輝きが増してきて勘違いだったことに気づく。
「あ、朝日。朝日・・・朝日!?」
『歩いてたらかなり時間がかかっていたようですね』
「さっさと帰るぞ。捜索が出されたら面倒だ」
『ですね。戻りながら収納魔法を教えます。まずは空間をイメージして下さい------』
そして俺達がアルゴノート邸に着く頃には、俺は収納魔法だけでなく、初級魔法と呼ばれる登竜門の魔法を一人で実行できるほどまでになっていた。
最も、威力も速度も、ミライには負けているのだが。
<狂戦士の襟巻き>を取りに帝都に俺達は来ていた。
さっきまで意識を失ってたけど!
俺が意識を失ってる間に、クレはミライに俺の前世のことを話していたらしく、花そそに着いて根掘り葉掘り聞いてきた。
だからアイテム探しをしている間に、話せる限りの花そその情報をミライにたたき込んだ。
なにせ俺はシナリオオールコンプした男だからな!
それはそうと、思いの外あっさり見つかって拍子抜けなんだけどな。
<狂戦士の襟巻き>は、帝都の中のスラム街のアパレルショップだった場所の金庫に保管されていた。
実はこれには裏設定があって、アパレル店は狂戦士の襟巻きの呪いとも言われる効果の、知能低下により金勘定や経営もままならなくなったため、倒産したと言う物があった。
まぁゲームにもあったが、机の上に書いている紙があるのも明白だ。
”何故こんな額で服を売ってしまったのか。この店は呪われているんじゃなかろうか”
たしかそんな感じだったと思うけど、俺はこの世界の字が読めない。
因みに金庫はクレが綺麗に刻んでくれました。
『これが<狂戦士の襟巻き>ですか・・・小汚いマフラーですね』
「あぁ、俺もそう思う。けどこいつをひとたび装備したら、それはもう爽快な速度で動くことができるんだ」
「リアスくん、でもそれってげぇむの話なんでしょ?実際に装備したら、効能違ったとかない?」
ミライの言うとおりだ。
もしかしたらタダの呪いのアイテムと貸してるかもしれないし、ゲームとの差異は確実にあるだろう。
だから今度は歩いて森に戻っている。
まだスラム街なのだが、ここはほとんどの店が倒産して市街地跡みたくなっている。
数多くの服飾店が残っていた。
ほとんどの店は服を改修してあったのだが、子供服の需要というのが、この世界ではあまりないのか、かなり残っていた。
処分するにも金がかかるし放置なんだろうな。
「上半身裸って言うのも目立つし、とりあえずあの服着るか」
身体の汚さは、クレが浄化魔法をミライのトコロに行く前に懸けてくれたからいいが、服はどうしようもなかった。
精霊でも服を生み出すことはできないらしい。
俺は比較的に保存状況の良い服を来た。
濃い深緑の服に、ベージュのズボンだ。
なんでそんな色を選んだかって、なんか軍服みたいでかっこよかったし。
「ミライの服はどうやって調達してたんだ?」
『全部ミライのお母さんの手作りですよ。収納魔法で持ってきてますよね』
「うん!お母さんとの思い出だもん」
『それに防護付与がこれでもかってくらい付与されてますので、防具にもなりますしね』
「なるほど、ミライのお母さんはすごい人だったんだな」
『ミライの母、カコさんはエルフでしたからね。魔法に関してはとてもすごいのですよ』
「え、そうだったの!?」
ミライよ、自分の母親の種族くらい知っていようよ。
この世界にもエルフっているんだ。
あ、それでクレはヒューマンとか言ってたのか。
「俺の記憶では、あ、リアスの方な。リアスの記憶ではエルフ見たことないんだけど」
『それは気づかなかっただけじゃないですか?エルフと人間は見た目では区別つかないですから』
「え、エルフって耳の長い一族じゃないの?」
でもそれならミライも耳が長くないとおかしいし、でも雷神の見た目が丸い耳だったのかもしれないか。
『耳の長いですか。ふむ、リアスの前世のヒューマン達は面白い考え方をするのですね。おそらくエルフの存在を知っている者が、区別するためにイメージを定着させたのでしょう』
へぇ、その考え方はなかったな。
「クレセントおじさん、じゃあボクは人間じゃないってこと?」
『エルフもヒューマンも見た目では判別がつきません。問題無いと思いますよ。ただエルフは草食なのですが、ヒューマンは雑食、その一点だけですね違いは』
あ、やっぱり世界共通なんだな。
エルフは肉を食べないって。
そう考えたら草食と雑食って、かなり的を射た表現の仕方だな。
「え、でもボク肉食べれるよ。草食動物って肉を消化出来ないんじゃなかった?」
『ミライは雷神とのハーフだからですよ。精霊は基本的に身体を動かすために魔力を食べます。しかし肉も植物も食べれますからね』
「へぇ、じゃあクレセントの食事はいらないのか。食費が浮くな」
『いえ、食事は必要ですよ。ヒューマンで言うタバコや酒のような物です』
なるほど、嗜好品ってわけね。
ストレス溜まるからまぁ必要だろうな。
「この世界には獣耳を生やした人間って居るのか?」
たしか作中には獣耳をしたキャラの模写があった。
ピンク色してたんだよな。
結局何の動物の耳かはわからなかったけど。
「獣耳?猫さんとか犬さんの耳生えてる人とか?」
『いえ、獣と言うくらいです。獅子や虎と言った奴らの耳をしているのでしょう!』
この感じ、獣人はこの世界には居ないのか?
少なくともリアスの記憶の中では見てないし居ないんだろうな。
まぁそこまで気になる話しでもないし、服も着たから、いよいよ<狂戦士の襟巻き>の試用運転に向かうとしよう。
「どうだ?似合うか?」
「うん、かっこいいと思うよ」
『中々似合ってると思いますよ』
微妙そうな顔してる。
いいさいいさ、今度もっとかっこいい奴を普通に買ってやるし!
「まぁ目的はこいつだからな」
『早く行きましょう。もうすぐ朝になってしまいます』
「朝になると何かまずいの?」
「あぁ、一旦家に戻らないといけないんだ。身分が保障されていないと、俺みたいな子供は暮らしていけない。食い扶持もないしな」
『ミライにもご飯が必要ですしね。紛いなりにも男爵家。貴族である以上美味しい料理はあるはずです』
「え、美味しい料理!?」
ミライが目を輝かせている。
俺はあの家で美味しい料理を出されたことがないのだが、リアスのときとは違うからな。
使用人程度なら、不敬をチラつかせて脅せば出してくるだろう。
リアスをいじめて食事も出さないような使用人だ。
優しくしてやる必要もない。
「あぁ、任せとけ。帰ったら美味しい料理を食べさせてやる」
「やったー!2年ぶりの料理だ。クレセントおじさん、魔法の授業の時間以外はボクを外に出してくれないから、いつも焼いて塩が振っただけの肉や野菜しか食べさせてくれなかったんだよ」
え、それって普通に地獄だな。
これも日本生まれが故か、いや違うな。
俺自身も1年以上まともな食事をしていなくて、美味しい食事に身体が飢えているんだ。
その倍と考えれば地獄以外の何物でも無い。
『仕方ないのです。緊急事態を招いて無駄に魔力を消費するのは、自殺行為に等しいですから』
「まぁ命には代えられないよな」
『本当にギリギリでした。あなたと出会わなければ、ミライ共々共倒れでしたよ。私の魔力も尽きかけてしまったので。かなり膨大にありましたけど、狩りをしなきゃいけないとなれば限界は自ずと来てしまいます』
あぁ、ミライの両親が亡くなる前までは両親がご飯を作っていたんだ。
そしてクレは食事が要らない。
いくら100年生きても、狩りをしなければ生きていけない状況だと、魔力が回復しないのはかなり痛手だな。
「苦労したんだな」
『えぇ、でもミライのためですから』
「おじさんそんなに無理してたんだ。ごめんなさい」
『いいのですよ。子供は大人を頼るものです』
「俺のことも頼ってくれていいからな。なにせ、前世では30歳まで生きたんだから!今生と合わせて39歳だ」
「えー、リアスくんは9歳だし、それに迷子になってたんでしょう」
『たしかに39歳が迷子はまずいでしょう』
二人とも辛口評価。
そもそも39歳なのに、9歳のミライを恋愛対象に見そうになった時点で俺終わってるんだよな。
あの頬のキスが原因だ。
俺は恋愛経験ゼロなんだよ。
あと少しで前世では魔法使いになるところだったんだよ。
『何かブツブツ言ってますけど着きましたよリアス』
「ここでいいのか?街から出てすぐじゃないか」
『えぇ、ちょうどいい獲物が居ましたから、それの実践には丁度良いかと思いまして。オトメゲーでは、素手で闘っていたのでしょう?』
クレの指す方向を見ると、光輝く瞳がこちらを睨んでいた。
そして月明かりに照らされて、見えてきたのは緑色の肌をした、服を着る前の俺のような服装をした子供だった。
もっとも口から牙が突起していて、つり目で瞳孔がないことから人間ではないことがわかる。
「あれはゴブリンか?」
「はい。ヒューマンの子供にはかなりの強敵だと思ったので」
たしかに雑魚ではあるが、それはこの世界での成人15歳を迎えた時点での、主人公の身体だったからだ。
九歳の、しかも栄養が足りていないような俺にとってはかなりの難易度と言える。
「リアス、がんばって!因みにボクはゴブリン楽勝だからね!」
「それ言う必要あったか?」
「えへへ、どやぁ!」
あ、この世界にもどやぁって文化あったんだ。
さて、俺は<狂戦士の襟巻き>を首に巻き付けた。
あ、これはヤバイ。
急激に思考が低下していく。
気づけば、俺は走り出していた。
「ウガァァァァァァ!」
「・・・」
勘に障る声ダ。
棍棒を振り下ろしてくるだろうナ。
左手で受けとめて、右手で拳を打ち込ム。
臓物をまき散らして、血溜まりが出来タ。
弱い、弱すぎル。
腹を抑えていル。
痛そうダ。
弱い奴は死ねばイイ。
俺は何度も足で頭部を潰シタ。
この血溜まりを見ても何も感ジナイ。
俺は満足できなイ。
満たされナイ
酷く咽が渇ク。
「キュゥゥゥゥ!」
「・・・」
イタチカ。
それに子供の少女。
物足りなイ。
そうだ、あれを殺せば俺の渇きは潤うだろうカ。
殺そウ、カワキヲウルオワスタメニ。
「え、ちょっとリアスくん!?」
「キュゥゥゥゥゥ!」
俺が前に飛び出すと、少女を庇うようにイタチが飛び出してキタ。
これが魔法カ。
風の刃が俺の皮膚を切り裂ク。
面白い、面白いゾ!
「ハハハハハハハ!」
「キュゥゥゥゥゥ!」
右へ左へ高速に振り回ス。
速いけど見切れない速度ジャナイ。
すばしっこいイタチダ。
右手で鷲づカム。
そして潰しタ・・・
「ハハハ!俺の勝------」
その直後目の前にイタチが現れて、俺の首に付けられた襟巻きが取ラレル。
徐々に思考が戻って来た。
う・・・これは・・・
「はぁはぁ、これはヤバイ・・・助かったクレ」
『いや、こちらに殺気を向けてきたときは、正直焦りましたよ。身体能力向上とは裏腹に、バッドステータスが着くようですね。精神汚染はしてませんか?』
「いや、わかんないけど・・・苦しいな・・・」
「リアスくん?大丈夫?胸、痛い?」
俺の心臓は前世でも味わったことないほど、鼓動が高鳴っている。
それだけに恐ろしかったのだ。
まるで途中から何か別人の思考になっているんじゃないかって。
「はぁはぁ・・・この装備は、できるだけ身につけない方がいいな」
『効能自体は協力です。命の危機を感じた時のために、持っておくのがよろしいかと。まさか素手であの惨状を作り出すとは思いませんでした』
先ほどゴブリンだった液体を見る。
あれ俺がやったのか。
感触は覚えてるし、あの時の思考や記憶はちゃんと残ってる。
「はぁ、驚いたよ。あれは俺がやったのかって思うほどに」
「あの時のリアスくん怖かった」
「女の子を怖がらせるなんて最悪だな。ごめんなミライ」
「ううん、その襟巻きの所為なんでしょ?仕方ないよ。でもできる限り使わないでほしいかな」
黙って頷いて、俺はミライの頭を撫でる。
そんな悲しそうな顔をしないで欲しいな。
それは言われなくてもそうするつもりだし。
これは危険すぎる。
何が知能低下だ。
完全に狂人になってた。
あれはゲームだからそういう設定になってただけだったんだ。
多分魔法が使えたとしても、あの状態の俺は使ってなかっただろう。
ゴブリンが臓物をまき散らした瞬間、少なからず高揚感があった。
「自分が恐ろしいと思ったのは、生まれて初めてだな」
『えぇ、その存在を知らずに装備していたらと思うとゾッとしますね。ある程度警戒した上で、この広い場所でなければ、街で討伐対象にされていたかもしれませんね』
たしかにクレの言うとおりだ。
かなり俺は軽率な行動を取った。
実際はクレと出会う予定はなかったし、一人であの襟巻きを着けていたら、本当に殺人鬼になっていただろうし、おそらくそこで生を終わらしていただろう。
いくら身体が強化されていたとしても、栄養が足りてない子供の身体だ。
体力にだって限界があるだろうし、確実に街の衛兵に殺されていただろう。
「クレに助けられたな。お前と契約して助けたことでチャラにしてくれ」
『そのような冗談が言えるなら、精神汚染の心配はないですね』
「あぁ、動悸も治まってきたし、もう大丈夫だ」
俺は立ち上がって軽くジャンプする。
うん、大丈夫そうだ。
医者じゃないからわかんないけど、とりあえずふらふらするってことはない。
「かーっ、どっと疲れたな。まだ前世の記憶を取り戻してから一日も経ってないのに・・・経験密度が濃すぎだ。こいつ、クレが管理していてくれないか?」
『いやです。帰路の道中に、あなたに収納魔法を教えますので自分で管理して下さい。万が一私が暴走したら、ミライが苦労することになるのですから』
「ボク、おじさんが暴走したら止められる自信ないよ?リアスくんでもどうにか出来たかわからないし」
『そういうことです』
「いや、収納魔法ってそんなにすぐに覚えられるものなのか?」
便利そうだし、空間を操りそうな魔法だろ?
「それにそもそも俺が魔法を覚えることができるのか?精霊がいないと魔法が使えないって設定は、精霊が魔法を使っているか唱えているかだと思ったけど違うのか?」
『普通はリアスの考えで間違いないですよ?知っていますか?そもそも私の声が聞こえること自体が異常なのですからね?』
「あ、そうだ!どうしてリアスくんはおじさんの声が聞こえるの?お母さんもおじさんの声、聞こえてなかったのに」
え、そうなの?
そういやクレと出会ったとき、意思疎通が出来るのが普通じゃないって言ってたな。
「意思疎通が出来ない以上、そもそも魔法を教えることができないってことか?」
『えぇその通りです。正確には私達精霊は、あなた達ヒューマンの言葉はわかりますから、魔法名を唱えた瞬間に、私達が魔法陣を展開しているのです』
なんか知りたくなかったな、その裏設定。
でもたしか、主人公が使役していた聖獣の台詞はあったはずだ。
「ゲームでは聖獣って奴が、主人公に話しかけてるシーンがあったんだけど、それはどうしてなんだ?」
「聖獣?」
『あぁ、あれですか。あれは精霊ではありませんよ?聖獣は聖魔法しか使えません。しかしヒューマンと話ができることから、ヒューマン達は特別な精霊と崇めているようで、彼らもそれを上手く付け入って暮らしているようですよ』
マジかよ。
あいつだけ特別だと思ったら、あいつは精霊ですらなかったのか。
あれ?でも主人公は聖魔法以外も使えたぞ?
「付け加えるとたまに全属性を使える聖獣もいるらしいよ。お母さんが言ってた!」
あ、俺の疑問はすぐに解消された。
そのたまにいる聖獣が、主人公の使役していた聖獣か。
「多分それが主人公の聖獣だろうな。魔法を教えてるシーンなんてなかったけど、主人公は魔法を使えたのかね?」
『それは無いと思いますよ。聖獣は人間を隠したと見下しています。そして彼らは聡明です。魔法を覚えた人間は聖獣を必要としなくなるのがわかっているので、そんなことしないと思います。基本的に聖獣は魔法が使えるだけで、契約することは出来ていないのです。手に刺青を付ける魔法を使用して、契約に見せているのですよ』
え、それって詐欺じゃん。
なんか神々しい存在だと思ってたのに、それ聞いたら笑えるかも。
主人公綺麗事ばっか並べててイライラしてたけど、なんかスカッとした。
俺って性格悪いな。
『敵対しても我々の足下にも及びません。そんな考え込まなくても大乗ですよ。普通の精霊だと苦戦する可能性もありますけど』
「あー、そっちの心配はしてないよ。そもそも敵対するつもりもないし、ってどうしたミライ?」
俺のことをじーっと見つめてるミライ。
しかも、ちょっと小さい声でじーっていってる。
なんだこの可愛い生物は!
「リアスくん今、すごい悪い顔してた」
「え、マジで?」
『たしかに、さっきとは違う何か企んでそうな顔でしたね』
「いやいや、別に何も企んでないから大丈夫だ。ちょっと花そその綺麗事言ってる主人公にイライラしてたから、騙されててざまぁって思ってただけだ」
「性格悪ぅ~」
『リアスの気持ちはわかりますよ。争いごとを嫌う主人公でしたよね。好ましい正確だとは思いますが、それを人に押しつけるのは違うと思います。闘いたい奴は闘えば良いと思いますよ』
そういや、こいつ雷神と闘ってあんなクレーター作るほどの戦闘狂人だったな。
余り好戦的にはならないでほしいんだけど。
「う、ミライが、ミライが眩しい!」
「何言ってるの急に?」
「いや、本当に眩しいんだって?」
「あ、ホントだ。朝日だね」
俺はミライが神々しい女神になったのかと思ったが、後ろからどんどん輝きが増してきて勘違いだったことに気づく。
「あ、朝日。朝日・・・朝日!?」
『歩いてたらかなり時間がかかっていたようですね』
「さっさと帰るぞ。捜索が出されたら面倒だ」
『ですね。戻りながら収納魔法を教えます。まずは空間をイメージして下さい------』
そして俺達がアルゴノート邸に着く頃には、俺は収納魔法だけでなく、初級魔法と呼ばれる登竜門の魔法を一人で実行できるほどまでになっていた。
最も、威力も速度も、ミライには負けているのだが。
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