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一章

魔物達への強襲と影

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 二人ともすごいな。
 俺は魔物達の前に地面に着地するだけだが、ミラもイルミナも着地した瞬間にそれぞれ電撃波と着地による衝撃波を放ち何体もの魔物を蹴散らした。
 俺も負けてられない。
 ジャイアントベアの顔面を鷲づかみにして、そのまま大量の魔物達が居るところに投げ込む。
 その巨体は大きくアーチを描き魔物の軍勢のど真ん中へと落下していった。

「グォォォォォ!」 

「ハッハァ!何言ってるかわからないけど、怒っていることだけはわかんぜ!」

 一部の魔物は、ジャイアントベアの体重を支えることが出来ずに下敷きになって潰れている。
 それでも圧倒的に数の暴力だよな。
 次から次へと魔物が押し寄せてくる。
 俺はイルミナほど、肉体を飛ばすことのできる身体能力は持ってない。
 だから両足で頭を引っかけてホールド。
 そのまま身体をくねらせて首の骨を外して頭に掌底、脳震盪を引き起こして倒れてる間に絶命させるを繰り返す。

「雑魚達は俺に見向きもしないし、貴族達にもがんばってもらわないとな」

 俺も全員の首をへし折るのはキツいし、時に風魔法の真空波で首を切断するのも忘れない。
 ただクレくらい魔力効率がよくないと、いくら燃費の良い風魔法でも上級魔法の真空波で首を切断するのに現在内包されてる魔力の1割も持って行かれる。
 つまり連続で10発しか使えない。
 まぁ他の魔法は一発や二発くらいしか使えないからかなり効率が良いんだけどな。
 大体魔力が二分くらいで満タンに回復するから、インターバルが二分。
 俺はかなり魔力回復速度が速いらしい。
 精霊達の魔力回復スピードが一分で、人間の魔力回復の速度が5分が平均と考えたらかなり異常だろう。
 だって俺は精霊よりも内包されてる魔力が高いのだから。
 それでもまぁこれだけ数がいれば疲労はしていく。
 どのくらい時間が経ったかわからないが、100体ほど倒した辺りでさすがに疲れが出てきた。
 
「はぁ、疲れるな」

 俺は一瞬、汗を拭うために服で顔を拭いた。
 しかしその隙を見逃す魔物達ではない。

「ウォォォォォ!」

「あぁうるせぇ!もう鬱陶しい!」

 裏拳でジャイアントベアの鼻を思い切り叩く。
 するとジャイアントベアは鼻を抑え込んで、腕を右に左に振り回した。
 ジャイアントベアは鼻が弱点で、動きを抑制するのにかなり有用だ。
 だから俺はひるませたジャイアントベアを鷲づかみにして別の個体へとぶつける。
 さすがにジャイアントベア同士だと潰し合うということは起きないが、それでもその巨体を立て直すには時間がかかる。
 そこでボアソルジャーがすかさず剣を突いてくる。
 この装備作ってんのかな?

「でも剣術は大したことないな。ちょっと速い程度だ。ってことはその鎧が堅いのかね」

 胸プレートに向かって思いきり拳をぶつける。
 かってぇ。
 凹ませるくらいは出来ると思ったのに。

「でも鎧の継ぎ目が、お前らの弱点だろ。真空波!」

 関節が途切れて、ボトボトとバラバラ死体へと変わる。
 うぇ、気持ち悪い。
 さすがに人型をバラバラにするのはちょっと来るものがあるな。
 鼻をつく鉄の匂いも不快だ。

「さっさと終わらせてやる!」

「カタカタカタカタカタ!」

 四体の動くスケルトンが現れる。
 でもなんか生前は光輝な人間だったような服装だ。
 あ、これ多分スケルトンキングか。
 こいつもAランクの魔物だ。

「カタカタカタカタカタ!」

「水の中級魔法、ハイドロバングルか!」

 ハイドロバングルはドブのような水に推進力を付けて放出する魔法。
 土が混じっているため、そのまま喰らえばそれだけで傷だらけだ。
 更に地面は雨でぬかるんでいるので、その威力は計り知れないな。
 殺傷能力が低く、使用MPの量から花そそでは中級だったが、ダメージが入りやすいから乱用していた奴も多いと聞いた。
 まぁ俺格闘しか使ってないから知らないけど。

「喰らわないぜ!シールド」

 風の下級魔法のスローウィンドがパリィして相手の態勢を崩す魔法だ。
 そしてこのシールドは文字通り攻撃を防ぐ魔法で属性は無い。
 どの種族もシールド魔法だけは同じ魔力消費量だ。
 込める魔力量によってはどんな魔法でも防げる。
 基本的に普通に起動した場合、普通に起動した下級魔法しか防ぐことができない。
 ゲーム内ではボタンを長押しにすることで、シールドの強度が増していってた。

「魔法を使う知性的な魔物でも基本的に魔力を余計に込めて放つことはない。と言うより放てないが正しいか」

 逆に俺がハイドロバングルを返して色々と巻き込んでいく。
 傷だらけになったところで、頭を蹴りで吹き飛ばし、心臓のコアを思いきり殴って砕いた。
 アンデット系の魔物は胸にあるコアを壊せば、活動を停止する。
 これは魔力切れを起こしても停止するらしい。
 クレが言ってたから事実はわからないけど、あいつが言うならきっとそうなんだろうな。

「それにしてもAランクってどれも中ボスクラスだな。ダンジョンボスってどういう括りになってるんだろうなこの世界」

 たしかに命懸けのこの世界で、行動パターンなんて早々記録出来るもんじゃないだろうし、出来ても一応魔物生物だから、変な動きすることがある。
 闘いとは無縁の現代日本の前世の知識を持つ俺が、どうしてこんな風に命懸けの闘いも臆さずに闘えているかというと、クレの指導の賜物だ。
 あいつ平気で俺一人に魔物狩りをさせたり、獣を素手で倒させたりとかなり鬼畜だった。
 まぁおかげで、Aランクが大量に居ても臆さず闘えるけどな。
 俺の脇からゴブリンやリザードマンと言ったD級の魔物達はどんどん通り抜けていっている。
 だが気にしない。
 Aさえ通さなければあとは向こうでなんとかしてくれるだろう。

「ったくきりがねぇな!」

 魔物達が共闘し始めやがった。
 生存本能か?
 ジャイアントベアが俺に覆い被さろうとして、視界を遮っている間に後ろからもう一体のジャイアントベアが遮っていたジャイアントベアごと、攻撃を仕掛けてくる。
 当然、俺は防げないから避けるしかないんだが、これはかなり作戦的だ。
 気づけば俺の周りが大体そんな感じで動いてる。
 あぁ、これはあれだな。
 さっきから崖から俺達の事を見てる奴らのしわ------

「この!」

「お、敵さんついに出てきた」

 上からローブを着た男が振ってきた。
 大きな大剣を振り下ろしてくるので、俺はスローウィンドで大剣ごと彼を吹き飛ばす。
 シールドはあくまで魔法を防ぐ物であって、物理攻撃には対応できてはいない。
 すぐさま立て直した男は、俺に向き直り大剣を構えている。

「へぇ、やるねぇ」

「よくも我々の邪魔をしてくれた。貴様の命で購ってもらう」

 まぁ邪魔をしてたらそのうち来ると思ってたけどね。
 丁度三人いた。
 俺がこいつを対応するのはたしかだが、他の二人がここに居ないところを見るに、両方ともミラとイルミナのトコロに言ったんだろうな。
 
「命って、B級脚本家かよ。今時そんなこというキャラいねぇぞ」

 二人は大丈夫だろうし、俺はきっちり仕事をするだけだ。
 でもまぁ競争してる余裕はないよな。



 ボクは絶対勝つよ。
 普段奥手なリアスくんに背中を流してもらうんだ。
 そしてあわよくば既成事実を作って------

「あぁ、ボクは何を考えてるんだ」

「ウォォォォォ!」

「もう!今良い気持ちなのに!天雷!」

 天雷は最上級魔法の一つ。
 お父さんが作った雷神の魔法。
 がんばればリアスくんは修得できそうだけど、今のところこれを使えるのはボクだけ。
 次々と空から電撃を流し爆撃する。
 トドメは電撃波だね。
 ボクは着地同時に電撃波を放ち、魔物達の動きを封じたり、丸焦げにしたりした。
 着地でこれだけの被害を出せるんだから、ボクにはまず魔物には負けないよね。

「近寄ってこないでよ。丸焦げになっちゃえ!ショックボルト!」

 ショックボルトで十分だよね。
 ボクはショックボルトはほぼ魔力を消費しない。
 雷神はそれだけ雷属性の魔法と相性が良い。
 リアスくんに雷属性の魔法は防がれた事があるどころか、拮抗したことすらない。

「臭い。焦げた匂い」

 当然感電して真っ黒になったしたいから、かなり臭う。
 まるで初めてリアスくんと出会った時みたい。

「リアスくん結構デリカシーないから、匂いなんて気にしてなかったんだろうけど、あの時結構臭かったんだよね」

 風呂に何日も入らないとこんな匂いがするんだよね。
 不自由な暮らしをしてたイルミナですら、こんな匂いしなかったのに。
 なんか詠唱を唱えてる魔物がいる。
 あ、スケルトンキングとかは天雷だけじゃ仕留めきれなかったんだ。
 全力で放てばよかった。

「五百体は倒さないと、リアスくんに背中を流してもらうのはボクだ!うぁぁぁ!ライトニングスピア!」

 雷属性の上級魔法ライトニングスピアは、切れ味抜群の電気の魔法。
 まっすぐだったり曲がったりと、線上に進んでいく雷属性の魔法。
 殺傷能力も高いから、さっきの天雷ほどじゃないけど、魔物に風穴を開けていく。
 次々とライトニングスピアで貫いていく。
 気持ちいい!

「久々に魔法を全力で放つことができて楽しい!」

 リアスくんやなによりボク自身を守るためとはいえ、普段から力を隠して居るのは結構ストレスになる。
 だって精霊って魔法を放出したくなるんだもん。
 クレセントおじさんはいいよ。
 常に領地の風を吹かしてストレス解消してる。
 でもボクの場合雷属性だから隠すのは大変だし、ナスタリウムと契約してることになってるから火属性の魔法くらいしか放つことができなかった。
 人間は基本的に魔力量が少ないから、契約している精霊の得意属性以外の魔法を放つことが難しい。
 だからそれを隠すために、雷属性はほとんど使うことが許されてなかった。
 ただでさえボクの魔法は強力だし、火属性の精霊と契約しているとは思えない規模になっちゃうから。

「でもこれからこれを隠さないでいいとなると肩身が広い思いだよ!」

 でもリアスくん、魔法を放ってヒャッハーする女の子とどう思うかな?
 初めて彼と出会ったときは、おじさんがお節介を焼いたと思ってたけど、お父さんとお母さんを失って寂しい思いをしていたボクには、彼との日々は楽しかった。
 そしていつの間にかお父さんとお母さんを忘れてしまって、薄情だと思ってたボクはある日家出をした。
 三日くらい家を空けていたボクを、彼はずっと探してくれていたらしいのだ。
 おじさんがいくら言っても、寝る間も惜しんで探してくれてたらしい。
 ボクを見つけるなり、膝に頭を乗せて死んだように眠り始めたんだけどね。
 それから彼はボクに取ってかけがえのない、新しい家族になったんだ。

「リアスくんのことが今は心から大好きだ。い、いつかはリアって呼びたいな・・・」

 精霊は名前の入った略称やあだ名を親しい人だけに呼ばれると嬉しい。
 ボクはミラってリアスくんに呼ばれるのがすごい嬉しいんだ。
 婚約者になるんだからお母さんにだけ許していたあだ名を呼ばせる事を仕方なく許したけど、今ではリアスくんに呼んで欲しい。
 でもやっぱりあだ名や略称って言うのは、キスと同じくらい精霊に取っては嬉しくも恥ずかしいこと。
 だからおじさんもリアスくんのことを略称やあだ名で呼んでない。

「あ、でもでも!やっぱり夫婦生活では、そう言ったやりとりもしたいよね。キャー!」

 気づけば周りには魔物達の死体の山が気づかれていた。
 あ、途中から数えてなかった。
 どのくらい殺したかな?

「戦場で考え事とは良い度胸ね!」

 ライトニングスピア?
 雷属性の魔法をボクに撃ってくるなんて、かなり度胸のある人が現れる。
 あぁ、さっきからボク達に視線を向けてた奴らだ。
 リアスくんは索敵魔法で、イルミナは超感覚で多分気づいていただろう。

「ボク良い気分だったんだけど!」

 もちろんライトニングスピアなんて、シールド魔法を貼るまでもない。
 握りつぶす。

「全くさっきのAランクの魔物を倒す手腕と良い、化け物ね・・・」

「お褒めにあずかり光栄だよ。ほら、これおかえし。ライトニングスピア」

 しかし彼女にライトニングスピアは届かない。
 何故か、彼女の持つ剣へとライトニングスピアが向かって行き相殺されたのだ。

「ふふっ、驚いたかい?アタイの剣は電気を吸収する避雷針さ。つまりあんたがどれだけ雷魔法が強力でも、アタイに雷魔法は届かない!」

「えー、めんどくさいのが出てきたなぁ」

 このままじゃAランクの魔物を倒すのに支障が出るよ。
 はぁ、仕方ないなぁ。

「あんたらの所為でアタイ達の計画はぱぁさ!責任は取ってもらうよ!」

「責任?それを言ったらボクもリアスくん背中流させ計画がぱぁだよ!」

 頭きた!
 彼女には、この世界には理不尽が溢れてるって事を思い知らせてあげないと!



 高く飛び上がったは良いですけど、このまま魔物達の群れに飛び込むだけってのは芸がないですよね。
 だったら少しだけ面白い者を見せてあげましょうか。
 リアス様の反応を見るに、力を隠さなくてイイっぽいので。
 クレセント様と何か話されたのでしょうね。
 精霊と話が出来るのは羨ましい限りです。
 それもリアス様の前世の知識と何か関係あるのでしょうかね?

「それじゃあ行きましょうか!身体強化魔法解除。部分強化魔法:腕!」

 部分強化魔法は身体強化魔法と違って、身体の一部位にのみしか魔法を施すことができません。
 しかし燃費は身体強化魔法の1割りほどの魔力で発動が可能なため、魔力の少ないわたしでも込める魔力量がかなり高くなります。
 つまりその腕を地面に叩き付ければどうなるか。
 例えぬかるんでても関係ないです。
 地面に叩き付けると同時に空気が爆ぜ、着地地点の魔物達に衝撃波が放たれる。
 魔法を使わないわたしだけの範囲攻撃です。
 リアス様から魔術陣の書き方を教わったときに作り出した、固有魔法オリジナルの部分強化の魔法は、他の誰にも真似することができないです。

「まぁ地面にいる場合は身体強化魔法のが、コスパがいいので使わないんですけどね」

 衝撃波は重力や摩擦力、その他諸々が重なって空中からの落下の時のみに発生できる代物ですから。
 地上にいるときは、身体の全部位が強化されている方が闘いやすい。
 魔物の頭なんてこんにゃくとほとんど同じ感覚で吹き飛ばせますからね。
 
「それにしてもミライ様があんなことを提案すると言うことは、背中をリアス様に流して欲しいのでしょうね」

 誰が一番多く魔物を倒せるか。
 そんなの速度的にわたしが一番早く倒せます。
 どれだけ強い魔物を倒せるかなら、ミライ様に部がありますけどこのルールならわたしに負けはないです。
 しかしわたしは思う。
 負けてもいいんじゃないかと。
 わたしを助けてくれたリアス様やミライ様の肩を揉んだり、背中を流すことができるなんて、これほどご褒美があるだろうか?
 わたしは幼い頃にシュバリンと契約したことにより、羽根の生えた豚の見た目も相まって親から疎まれていました。
 でも怪我をしていたシュバリンを、わたしは放って置けなかったから仕方ないですね。
 更にアルゴノート領の領主達は、貧困に苦しむ我々を他所に贅沢を続けていて、終いには領地全体が飢餓に苦しめられることになりました。
 わたしは商家の生まれで兄が一人居ました。
 飢餓になると共に、わたしへの食事を減らし兄の食事はそのままという生活を強いられた上に、豚と契約して魔力がほとんど残ってなく、付与魔法の道具も使えないわたしは実の親からも兄からも暴力を振るわれて、助けなんて来るはずもなく、心も身体もボロボロになっていきました。

「あの時の生活はかなり苦しかったんですよね!」

 ボアソルジャーの顔を見ると兄や父を思い出し、イラッときたので思いきり蹴り飛ばしてやります。
 あの豚顔が脳裏に焼き付いて仕方ないです。
 なにせ、貞操を実の兄と父に奪われそうになりましたからね。
 さすがに実の妹や娘に何を考えていたんでしょう。
 もう絶望していたわたしに抵抗する術もなく、服を破かれてあわやというところで兄が吹っ飛んでいき雷撃が通り過ぎました。
 現れたのはミライ様です。
 あの時の怒りの形相は忘れることができないです。

「助けに来て下さったと言うのに、わたしですら怖かった」

 そのとき、父にもイチモツを顔面に付けられていたわたしは、動けずにいたところで顔に赤い液体がびちゃりとついたことを思い出すと、笑いがこみ上げて来ますね。
 リアス様が、父を虚勢してくれたんですから。
 リアス様はミライ様とは違って優しい笑顔で、わたしの手を取って下さった。
 そしてわたしを保護して下さった。
 あのリアス様とミライ様はわたしにとって王子様と勇者様ですね。
 
「何不自由のない生活を送り、純潔が今も守られているのは、リアス様とミライ様のおかげ。だけど、手加減するのは性分に合いませんね。それに二人に対しても失礼だ」

 だからわたしは全力で魔物達を蹴散らしていく。
 腕を振るわれようとも、ギリギリで身体をのけぞらしてそのまま回し蹴りやバク転蹴りを喰らわせて首を飛ばす。
 唯一使える身体強の魔法は、わたしが素手で魔物と闘えるまで強化されているため、殴るだけで大体の魔物は屠れます。
 しかし防御力は上がっているわけじゃないので、爪なんかで切り裂かれたらまぁ大怪我を負いますね。
 治癒魔法を使えないわたしには一撃一撃が、死んでしまいかねません。
 それでも10分ほどで100体は倒せました。
 あと大体300体くらい倒せば一位の可能性は高いです。
 二人とも魔物を狩る速度がわたしより遅くとも、同じ時間に殺せた魔物の数の違いなんて精々30体程度でしょうからね。
 500体殺せば確実に一位でしょうけど、まぁその前に魔物が居なくなってるのが目に見えてます。

「しかもこういった邪魔者が出てきますからね」

「なっ!?気配を消し取ったのに、なんでわかるんや!」

 面白いことを言う。
 この程度で気配を消していたとは。
 まぁ恐らく魔法なのでしょうね。

「気配を消すとはこうするのですよ」

 気配を消すなんて言葉は簡単じゃない。
 相手に対しての闘争心を完全に消さないといけない。
 つまり狩りの対象ではなく、息をするように狙わないといけないからです。
 首を蹴り飛ばすところで、彼は綺麗に避けた。
 ほぉ。

「どうしてわかったのでしょうか」

「危ないで姉ちゃん。敵に答え合わせするほど、ワイは甘くないで。まぁゆうなりゃ魔法ってところさかいね」

 索敵魔法というのは、使用者に感覚で物体の位置を把握する魔法です。
 つまり精霊契約で精霊に魔法を使わせてる時点で、精霊が把握したものを契約者に教えるインターバルがあります。
 だからわたし達のように魔法が使えないと、タイミングは遅れるはずです。
 
「あんさんは化け物やからな。ワイらとしても、帝国がこんな化け物を三体も抱えるのを良しとできへんのや。悪う思わんといてや。ここで死ねや」

 再び気配を絶つ魔法を使う。
 たしかにちょっとだけ違和感ありますけど、普通に闘気が消せてない時点で格闘センスは二流ですね。
 そして彼が不意打ちを得意とすると言うことは、強力な魔法が来ない事を意味している。
 つまり負ける要素がないですね。

「三人居たはずですが、二人はリアス様とミライ様のところでしょう。あなたはラッキーですね。恐怖が一番少なくて済む」

 でも彼と対峙する前にやることがあります。
 わたしは身構えた。



 エルーザは目の前の光景に息を呑んだ。
 急に上空から飛来する人間達が現れたとき、これがどこかの国の仕業と言うことは容易に判断ができた。
 だからそれなりの使い手だろう彼らが、帝国内でも指折りの実力者とわかっているリアスの元に行ったときは安心していた。

「陛下・・・どうやら私は間違っていたようです・・・」

「奇遇だね。アタシもそう思ったよ。刺客が来て邪魔してくるのは予想できたよ。でもこれは誰が予想できる?」

「すごいですね彼・・・10分間の闘いが嘘みたいです」

 最初は素手でAランクの魔物とやり合ってたり、自分達の知らない魔法をぶっ放してたり異常だと言えた。
 でも次の瞬間そんなことかわいいと三人はそれぞれ思えてしまったのだ。
 
『派手にやりましたねあの三人。これじゃあ貴族達は、最初に取り逃した魔物しか相手に出来ませんよ』

 クレの言葉から目の前でエルーザ、アデル、イルシアがみた光景がわかる。
 一瞬にしてリアス達が居た場所より奥にいた荒野の魔物達は、姿を消したのだった。
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