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四章

第二皇子の状態

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 ジノアとエルーザ陛下の親子の関係をある程度修復出来たところで、話を戻していきたい。
 どんどん話が逸れていくよな。

「陛下、ガラン・・・様が二度と立てない状況とは一体どういうことなのでしょう?」

「あぁ、そうだったね。というかガランでいいよ。奴が猫を被っていたことは、奴を発見した時点での暴れ様からわかっている」

 発見した時点では暴れてたのか。
 じゃあ一体死ぬまで目が覚めない可能性まであるって、一体どういうことなのだろう?

「ガランは自室にいたんだよ。両足が切断されて、部屋中血まみれだった」

 さすがに予想外すぎて驚きを隠せない。
 皇族の両足を切断したのは恐らくセバスの仲間だろう。
 でも、セバスがジノアにやった回りくどいことをしたことから、直接的な行動はしてこないと踏んでいたのに。

「切断!?」

「犯人は!?兄上を襲った犯人がいますよね!?」

 ジノアとグレシアの二人は声を張り上げる。 
 さすがに実の兄や、弟になるかもしれなかった奴の足が切断されたらそういう反応するよな。
 犯人の目星が付いていたとしても、それが普通の反応だ。
 俺はほとんど他人だから大して何も感じてないけど。
 恐らく犯人はセバスの一味だろうな。

「落ち着け二人とも。リアスを見な。落ち着いてるだろ」

「いや、リアスは単に------」

「グレイ・・・」

 グレイが余計なことを言おうとしてたからキッと睨み付ける。
 実際、そんなことで話を止めるのもくだらないしな。
 
「犯人については現在調査中でね。発見後にこの学園にガランがいるという矛盾な情報が入ったからヒャルハッハに訪問する前にここに寄ったんだ」

「この学園に来ていたガラン兄上は・・・セバスでした」

「ふむ」

 セバスだったという単語を聞くと、エルーザ陛下は険しい顔になっていくが、驚いた様子は感じられない。
 予想していたのか?
 いや、これでうろたえていたら、皇帝は務まらないと言うことなのだろうけど。

「赤い悪魔の異名を持つ奴が犯人だとしたら厄介だな。だが、あいつが絡んでいるとするなら納得出来る部分もある。いや、セバスは幻惑魔法を使うことが出来たんだ。何故、疑うことが出来なかったんだ。と言うことはガランの部屋にあった資料は、ガランでは無くセバス物の可能性もあるか」

「どんな資料でしたか?僕の行った行為の数々は、セバスが行ったと彼自身が自供しました」

「ほぅ。資料については簡単に言うと、令嬢の家に忍び込むための資料と標的リストが事細かく書いてあった。そしてこの学園の魔力体を作る機能で、転移先が地下に書き換えられている資料。そして更には人間を魔物に近い魔人へと変貌させる薬品など、かなりグレーな物も置いてあった。セバスがそれを何食わぬ顔で、すべて計画していたとしたら末恐ろしい」

 それはどれもジノアや俺達が体験した事件の概要じゃないか。
 少なくとも魔人?へと変貌した二人の人間を俺達は知っている。
 
「今回の決闘で転移先が切り替わっていたり、薬物が投入されて魔人が発生したのは副学園長から外で聞いたよ。皆、苦労したようね」

「そこは大してですね。結果的に被害はゼロに収まってます」

 下手したら、ガーデルやパルバディは死んでた可能性が高い。
 だから被害がゼロなのはある意味、幸運だったとも言えるよな。

「僕的には、グレシア嬢に迷惑をかけてしまったので、申し訳ないですけど」

「そんな!ジノア様は悪くありませんわ。セバスが行った策略の所為ですから気にしないでくださいまし」

「いや、アタシが言えたことじゃないけど、ジノアも皇族として脇を締めなさい。まぁこの親にしてこの子ありとはよく言ったものだとは思うけどねぇ」

「はい。肝に命じます」

 実際皇族は、この国では一番狙われる存在だ。
 ピラミッド型階級社会において、トップを落とすことは国を落としたも同意だしな。

「ガランの容態だけど、牢屋に着いた途端に意識を失ったんだ。その現場はアタシも同席したからわかるけど、あいつは自信で薬品を首に投与した」

 ガランもあの薬を使ったのかよ。
 しかも生身で。

「リリィの場合は魔力体だったからなんとかなったみたいだけど、再生を繰り返す怪物になったニコラは殺すしかありませんでした。ガランはどうだったのですか?」

 ミラの言葉であの薬物の危険性を改めて実感する。
 やっぱりニコラは殺すしかなかったんだな。
 死体を持ってきたときはもしやと思ったけど。

「薬物の詳細資料は予め確認していたからね。あの薬物は予め咄嗟にゴードンがガランの両腕を切り落としたよ」

「というと?」

「あの薬物は投与前に負っていた傷は修復出来ないんだよ。だから先に腕を斬り落としておけば、怪物になったとしても対処出来るって訳ね」

 投与された瞬間が肝って事か。
 つまり投与した瞬間に首を刎ねれば、魔人になる前に殺すことは出来る訳だ。
 だとしたら、敵が投与した分には問題ない。

「敵が死に際に投与する分には問題ない。今回、リリィにガランが投げつけた薬物の所為で変貌を遂げたとつまり、味方に薬物を投与された場合治しようがないって事かよ。毒物ではないから治癒魔法は効かないだろうし」

「それって結構怖い話だよね。ボク達の誰かが魔人になったとき、対処方法は殺すしかないって事でしょ・・・」

「わたし達はかなり危険な綱渡りをしていた・・・と言うことなのでしょうか?」

 俺は今回後れを取ってから落とされた。
 絶対に大丈夫と言うことはないから、イルミナの言うとおり危険な綱渡りだ。

「薬の成分には精霊が使われていたらしいからね。困ったもんさ」

 その瞬間、当たりの空気がピリピリとしているのがわかる。
 クレが怒りにまかせて殺気を飛ばし始めたからだ。

「痛い・・一体・・・」

「落ち着けクレ!」

『こんなことが許されるのですか!人間はヒューマンは!精霊をなんだと思ってるのですか!』

「クレが怒る気持ちもわかるが八つ当たりは止せ」

 精霊契約の儀だって怒っていたクレだけど、今回は精霊の成分。
 つまり精霊の命を代償に作った薬物と言うことだ。
 到底許されることじゃないと思う。
 でもここで怒り任せに、殺気をぶつけるのは八つ当たりだろうよ。
 クレもそれがわかるから、すぐに殺気を収めた。
 神話級の精霊の殺気を浴びた俺達は冷や汗もんだけどな。

『すみません。そうですね。しかし資料は閲覧したいですね。リアス、どうにか頼んで見てくれませんか?』

「いやはや、神話級の精霊を怒らせるとは畏れ入るねセバスの奴」

「陛下、資料は閲覧出来るのでしょうか?」

 実際資料を見てみないことには、どのような成分を使っているかわからない。
 宮廷の薬物の専門医達が解析をしているだろうから俺達が見る必要はないけど、クレが見たいって言ってるんだから、相棒としてそれくらいはかなえてやらないと。

「国家機密だけど、構わないよ。アタシはこのままヒャルハッハ王国に行くから、アデルに頼んな。神話級の精霊の怒りを身に染みて浴びたしね。それに神話級の精霊は本気を出せば一時間もしないうちに、街を滅ぼすことが出来るんだろう?」

 なんだそれ?
 神話級の精霊が街でも襲ったのか?
 いくらクレでも一時間では無理だろう。

『一時間で街を滅ぼすとはどこまでの定義かわかりませんが、命の息吹を止めるだけなら可能でしょうね』

 あ、出来ちゃうんだ。
 それをしようとしたら全力で止めよう。
 多分しないだろうけど。

「出来たとしてもやらせませんよ?」

「それをヒャルハッハ王国の神話級の精霊持ちにも言ってやってほしいよ。おかげでこっちはヒャルハッハ王国に訪問するハメになったんだからね。騎士団総勢300名の大所帯での訪問さ」

 ん?神話級の精霊持ちってもしかして------

「レアンドロ殿がそんなことを行ったのですか母上!?」

 やっぱりそうだよな。
 リリィが言ってたって言う転生者でもあるレアンドロ。
 彼女が目覚めたら聞こうって話になってたけど。

「あぁそうさ。しかもうちの国境でそれを行ったらしいよ。帝国内の国境周辺の街も含めてすべてを焼き尽く被害だったから、こっちから出向くことになったんだ」

 いや、それってむしろあちら側が来て謝罪をする案件じゃないか?

「何故母上がわざわざ?」

「あいつらを帝国内に入れる口実を作りたくなかったからさ。ヒャルハッハ王国は、帝国にスパイを入れ込んでるからね。証拠を残すこと無くさ」

 なるほど、そう言われたら納得だ。
 たしかに訪問の口実を作れば、必ず護衛が入ることになる。
 そして帝国内に潜伏させることも可能だ。 

『神話級の精霊・・・焼き尽くすとなると炎神の仕業でしょうか?彼はそんなことするような方ではないのですがね』

 神話級の炎神を知っているのか。
 炎の神って言うくらいだから火の魔法を使うんだろうけど。

「危険では無いですか?」

「そんなの重々承知の上だよ。ゴードン以外にも、パーピルとスカイベルを連れてくし、最悪逃走だけなら神話級の精霊にも遅れは取らないさ。本当はパーピルとスカイベルも国境配置から変えたくなかったけど、今アタシが死んだら恐らく貴族達は逃げ出して、帝国民達が危険に晒されるから仕方ないね」

 たしかに、正直ゴードンさんだけじゃ心許ないよな。
 油断してたとは言え、俺一人に後れを取るのに神話級の精霊相手じゃ少し戦力不足は否めない。

「アタシ達がヒャルハッハ王国にいる間はこの国を頼むよリアス。アタシが言うのもなんだけど、この国の貴族は腐ってるからね。優秀な人材は私兵として護衛に回すもんだから、有事の際には大変さ」

 それがわかってるなら魔物大量発生スタンピードの時ももう少し戦力を増強して欲しかったけどなぁ。
 皇帝なんだしそれくらい出来るだろうに。

「おやおや?なんでリアスは魔物大量発生スタンピードの時は、スカイベル達がいなかったのかって思ってるね?」

 顔に出てタカ?
 俺はペタペタと顔を触る様子に陛下は笑いながら応える。

「お前さんに期待してたからだよ。家格順に戦力を配置したのも、神話級の精霊を持つお前さんならなんとか出来ると思ってさ。いやまさか精霊を護衛において、自身が自陣に突っ込んでくとは思わなかったけどね。しかもたった三人でほとんどの魔物を蹂躙し、ヒャルハッハ王国の密偵を三名も捕虜にするとは思ってもみなかったけど」

 この人、食えない人だ。
 そんな素振りなんて微塵も見せてなかったくせに。

「ハハハ、そう睨むなって。お前さんには期待してたんだよ。統治能力は少ないが将としての能力は高いと自負してるんだからさ。実際間違ってなかっただろ?」

 それはそうだけど、そうなそうと言って欲しかったよな。
 肩を叩きながら笑う彼女は、情けないこともあるけど頼りがいはあるんだよな。

「母上!やはり少し考え直してみては!」

「くどい!これは皇帝としての決定事項だ覆りはしないぞ!」

 ジノアの気持ちももっと汲み取ってやれよ。
 皇帝として必死になるのはいいけど、家族だしここは公の場でもないんだから。

「ジノア、一応陛下は帝国民と自分を天秤にかけて帝国民を優先することを選んだんだ。危険性で言えば、これが一番ベストの形だと思うぜ」

「だけど・・・」

 建前をいくら並べたところで納得しないだろう。
 結局危険なところに行くのは陛下なんだから。

「それなら陛下。ヒャルハッハ王国に入ったときに、ライザー帝国も神話級の精霊持ちを保有しているという旨を彼らに伝えて下さい」

 クレが驚いた様子を見せるも、異論自体は無いらしい。
 他に考えることも多いし、多分公表してもしなくても俺達の慎ましく平穏な暮らしへの道は遠いだろうしな。 
 セバスに俺達の事を目を付けられた上に、逃走を許してしまったんだから。
 それに学生達にも現状を見せてしまった以上、言い訳なんてしても無駄だろう。
 噂の窓口を閉めるなんてそんな簡単な事じゃない。

「いいのか?公表するのは、お前さんが卒業してからって言っていたじゃないか」

「えぇまぁ、状況が状況とは言え仕方ないでしょう?寧ろそれで陛下の安全が少しでも約束されるなら・・・違いますね。友の母の安全が守られるとしたら、それもやぶさかではない」

 俺だってそれなりのリスクを負うんだから、これで我慢してくれよとジノアに目配せする。
 意図がわかってくれたか、頷いてくれた。
 よかった。
 ここまでしてもまだ騒いだりするなら別の方法を考えるところだった。
 
「それならありがたく使わせてもらおう。神話級の精霊の契約者がライザー帝国にもいるとわかれば、彼の国も下手には手を出しては来るまい」

「はい」

「そうだな。話したいことはあらかた話せたし、アタシは行くとするかね。外でゴードンも待っているだろうし。一ヶ月はヒャルハッハ王国に滞在予定だからよろしく頼むよ」

 そういうと馬車のドアを開ける。
 ゴードンさんが、外で仁王立ちして寝てる。
 いや護衛としてそれは不味いだろう。

「おい、起きろゴードン!」

「がっ!あ、申し訳ございません陛下。かしこまりました。おい!陛下が発つそうだ!馬車の準備を」

「はっ!」

 うわー、本当に至る所に兵士がいる。
 あ、スカイベル様が此方に向かって手を振ってる。
 って跳んだ!?

「やぁ少年。さっきぶりだな」

「お久しぶりです?」

「なんだスカイベル。もうリアスとは顔を合わせていたのか。今度紹介しようと思っていたのだがな。余は先に馬車に行っておる。話があるなら簡単に済ませてすぐに来いよ」

 陛下は公の場のしゃべり方になっていた。
 一人称も余だし。
 でも女性が余とか使ってると違和感あるんだよな。
 しかも陛下の風貌だと尚更。

「了解しました。って事だから手短に話すな少年」

「用があったんですか?」

「じゃなきゃわざわざ近寄らないだろう。俺はそっちの気はないぞ?」

 ホモだと言いたいのか?
 俺だってホモじゃねぇよ!
 同性愛者にどうこう言うつもりはないけど、俺には全くその気は無い。

「グランベルの奴に、しっかりと指導をしておいた!これからは安心してくれていいぞ」

「は、はぁ。ありがとうございます?」

「ハッハッハ!気にするな。少年よ、息子は強かっただろ?」

「えぇそれはもうかなり」

 実際、慌てていたとは言え後ろを気にする余裕は作らせてもらえなかった。
 索敵魔法があって奇襲を先に仕掛けられたならまた話が変わってくるが、それでも苦戦しただろう事はわかる。
 単騎どうしての実力は似たり寄ったりだろう。
 グランベルも魔物大量発生スタンピードの時いてくれたら良かったのに全く。

「それは鼻が高いな!そこで相談だ。グランベルに魔法を教えてやってほしい」

「はぁ・・・はぁ!?」

「ふふっ、驚くな。もう数週間後夏期休業だろう?待てわかってるぞ、言うな。大丈夫だ。アルゴノート夫人には許可を取ってある」

 グレコ、あいつ!
 そういうのは断れよめんどくせぇ。

「俺は、魔法を教えることに関しては大したこと無いと思いますけど・・・?」

「嘘を吐くな。グランベルをしごいているとき、グレイやグレシア嬢が、以前より格段に動きがよかったとか抜かしていたぞ」

 グランベルめ、余計なことを。
 結局グレイやグレシアの実力を向上させたのって俺の力だけじゃないし、魔法に至ってはクレのおかげなんだからな。

「そういうわけだからよろしくな!」

「勝手なことを・・・」

 それだけ言うと、スカイベル様は再び跳躍して闘技場をあとにした。
 いや要件人間!
 勝手に話を進めて、勝手に戻って行きやがった!
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