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四章

最愛の人の変貌と進化の兆し(ミライ視点)

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 リアスくんが、<狂戦士の襟巻き>を使ってしまった。
 多分イルミナが見当たらないってことは、2人でも敵わないような相手だったんだよね。
 だから幻想銃ガンズミストを使おうとしたんだよね。
 そうしてあの姿に・・・

「それでどうすんだい?」

『あのマフラーを奪うことができれば止まります』

「なんだ、簡単なことじゃないかい」

『どうでしょうね』

 リアスくんがあの姿になったのは3年前、幻想銃ガンズミストを開発した時のみ。
 あの時はリアスくんもまだ身体が出来上がってなくて、筋肉だって大して付いてなかった。
 だからボクとイルミナとおじさんの三人でもマフラーを剥がすことはできたんだ。
 でも今はわからない。
 あ、リアスくんが身体の向きを変え------

「リリィ、グランベル!!二人とも逃げて!」

 ターゲットがリリィとグランベル、そして鬼神へと向いたのがわかった。
 だから天雷を向けて彼に放った。
 だけど、今のリアスくんはあまりにも速すぎて、強すぎた。
 地上に到達した瞬間に天雷をリリィとグランベルに向けて弾いたのだ。

「え、え!?」

「くそったれ!しゃがめリリィ!」

 グランベルが天雷を剣で受けるけど、それは一番悪手!
 このままじゃグランベルが感電死する。
 ボクの魔法で、リアスくんが誘導して・・・

「グランベルダメー!」

 リリィが咄嗟にグランベルに抱きついて難を逃れた。
 よかった。
 でもこれで一つまずいことはわかった。
 リアスくんはそんなことできなかった。
 つまりそれだけ強大になっている。
 更に言えばボク達が迂闊に魔法を使えば弾かれてしまうという恐怖まで植え付けた。
 でもなんか違和感がある。

「仲間を攻撃するとは、やはり人間は外道か!」

「卑しイ血ィ!オマエは渇きを満タしテくれルのカ?」

 鬼神の太刀筋は、ボク程度の力量じゃ完全には見切れない。
 しかしそれを苦もなく素手で受けている。
 あれ、鬼神の髪が青くなった?

「骨が折れるでござるな。カムイのはどうしたでござるか」

 あの鬼神、目を閉じながら攻撃を避けてる。
 リアスくんは<狂戦士の襟巻き>をしている時に、この間合いで攻撃を避けられたことは少ない。

「リアス、どうしちゃったのよ!なんでわたし達を狙って!」

「イヒャヒャヒャヒャ!」

 相変わらず顔は微笑を浮かべてるのに、笑い方は高笑い。
 不気味な笑い方をリアスくんの身体でするのは許せない。
 
「リリィ、今のリアスくんは正気じゃない!逃げて!」

「ふむ、正気ではないでござるか。ならば拙者が供養してやろう。仲間を命を摘むような外道にはなりたくあるまい」

 鬼神が動き出した。
 鬼神の森を断絶したあの斬撃でリアスくんがやられる心配はしてなかった。
 そんなことよりも、一番最初の攻勢に出てくれるのが彼で助かってるとまで思ってしまう。
 けど、彼はおじさんやお父さん達の旧友の連れの人。

『引き締めなさい!あれは単体で止められるような甘っちょろい相手じゃありませんよ!』

「ほぅ、ますます楽しみでござる」

 おじさんの静止も引き止めて、鬼神は刀に手をかけている。
 もうこうなっては、鬼神へのヘイトは免れないよね。
 なら今のうちにせめて、リリィとグランベルをあの場から離脱させないと。

「喰らうでござ------!?」

「おソ維」

 遅いと言いながら、リアスくんは刀の柄に手をやる。
 おそらくガッチリと掴んでるんだろう。
 流石に自身が武器を抜けないとまでは思わなかったのね。

「オマエは渇キヲ満タしテくレルのカ?」

「それはごめん被るでござるよ!」

 あの体勢で刀を自らの手から捨て、自ら後ろに倒れ込み離脱する手腕は流石だけど、今のリアスくんは多分それすら読んでる。
 今のうちに二人をと思ったけど、二人の姿が消えている。
 隙をついて逃げたのかな?

「奥義を打つ余裕は見せてはくれなさそうでござるが、それでもアラートモードは強いでござるよ!」

「アハハハハ!」

 攻勢に出始める鬼神の動きは凄まじかった。
 一振り一振りに重みがあって風圧がこっちまで伝わってくる。
 けど、それ以上にリアスくんのそれは不気味なまでに恐ろしい。
 剣を素手で受け止めている。
 しかも彼はその場から動くことなく。
 それはあの姿のリアスくんを何度か見ているボク達からしても、に他ならない。

『まさかあれほど強力になって、知性まで身につけているとでも言うのですか!?』

 これが違和感の正体。
 今まで<狂戦士の襟巻き>を装備してたリアスくんは、理性も何もかもぶっ飛んで暴れ狂う獣だった。
 でもさっきボクの魔法を弾いたことと言い、完全に考えて動いている。
 リアスくんの話では、急に人格が変貌したかの様な感覚に陥る。
 それは知性のない獣で、人格が変わって仕舞えば魔法を使えないとか言ってた。
 でももし自我が生まれてたとしたら?
 少なくともアレには敵を痛ぶるだけの知性があることはわかる。
 
『ミライ、最悪は逃走を選びなさい。もし彼が魔法が使えてしまった場合、我々に勝ち目はないです』

「でも、そうしたらリアスくんが!」

 あのリアスくんを放置すれば、確実に被害が出る。
 そんなのリアスくんの心が保つかわからない。
 リアスくんは人の命を取捨選択できる人間だ。
 けどそこに後悔や懺悔と言った念がないわけがない。
 しかもそれは仕方がない犠牲と割り切っているからだ。
 リアスくんみたいな優しい人が、自分の自我を保てないそれだけで、罪のない人間を一人でも殺せば------

『えぇ、確実にリアスはありとあらゆる生物の命を奪い、いずれ人間を殺めるでしょう』

「だったら止めないと!」

『もし魔法が使えるとしたら、リアスの脅威はSランクの魔物なんて可愛いくらいになるんですよ!無理です』

「まだ使えるって決まったわけじゃ------」

「ハァァァ!」

「えんぶれむぅ!」

 しかしボクの願いは虚しく、彼は魔法を使ってしまった。
 それも極大の火柱が立ち上る魔法。
 上級魔法火炎城エンブレム
 相手を自分事魔法に包み込んだ。
 強力な魔法の反面、近距離でしか使えないために実践的な魔法ではないけれど、今のリアスくんの身体は強化されてるから使えたんだろう。
 そして火柱が止むと鬼神が倒れ伏しており、今まさにトドメを刺そうとしている。

「くっ、強すぎるで・・・ござる」

「アヘァ!」

 リアスくんが今まさに腕を振り下ろそうとしたところで、何かがリアスくんの手を穿つ。
 矢?
 一体どこから?

「鬼神の!!助かるぜクピド!オラァ!」

「止せカムイ!鬼神の二の舞になるわよ!」

「知るか!親友をむざむざ殺される様を見ていてたまるか!」

 カムイがあの場に飛び込むのは自殺行為に見える。
 でも畳み掛けるなら今しかない!
 戦力があるうちならまだリアスくんを止められるかもしれないから!

「韋駄天!おじさん達も、あの人に合わせて魔法を!援護を!」

 しかしおじさんも、それにフェンリルも全く動こうとしない。
 諦めているの?
 カムイの人は仲間じゃ無かったの?

『ミライ!言ったでしょう!逃げなさい!もう彼は我々ではどうにもならないです。責任持って私がこの手で殺します。それがリアスの為です』

 おじさんからそんな言葉は聞きたくなかった。
 リアスくんを殺す、それはリアスくんの心は確かに救われる。
 多分おじさんの言い分は誰が聞いても正しいと言える。
 だってボク達は魔法が使えない上に、身体能力が今より低かったリアスくんに苦戦したんだから。
 端的に考えて今のリアスくんは多分、帝国を簡単に一人で滅ぼせると思うし、そんなことをリアスくんが行ったらそれこそ心が壊れちゃう。
 たとえ生きていたとしても、もう二度と立ち直れないだろう。
 それが多分大人の、正しい選択なんだよね。

「いやっ!リアスくんを助けるの!」

 でも可能性がほんの少しでもあるならそれに賭けたい!
 ボクはまだ子供だから、わがままだから全部を手に入れたい。
 きっとそんなこと許されない場面だって今後生まれるけど、それでもボクは諦めたくない。

『それがどれほど大変な行為かわかっているのですか!?命を落とすかもしれない!』

「そんなの知らないよ!でも、リアスくんのいない生活なんてもう考えられないよ!」

 リアスくんはボクが両親を失ってから再び温もりをくれた。
 救ってくれた。

『貴女もリアスも、かつて自分達の不都合になると命を何個も摘むんで来ました!自分達だけそんなことが許されると、そう思って居るのですか!?』

「思ってないよ!でもリアスくんは助けられる命だよ!ボク達は助けられる命を見捨てたことは決して無かったはずだよ!」

『いいえ!時間の問題で助けられる命はたくさんありました!』

「このわからずや!もしリアスくんを殺すって言うなら、ボクはリアスくんの命が尽きたあと、自分で命を絶つよ!」

『なっ!?』

 自殺したい訳じゃない。
 ただ、リアスくんのいない世界なんていやだ。
 ボクはリアスくんと一緒に平穏にしわくちゃになるまで生きたい。
 そして出来ればリアスくんに最後を看取ってもらいたい!
 だからボクはリアスくんを助けたい!
 
「ふふっ、ヤンチャなところも、そしてその性格もインテグラルの娘らしいわね」

『スノー!他人事ですか!貴女の仲間だって危険に晒されてるんですよ!』

「あら?魔物は常に弱肉強食。たしかに私達は知性があるから、縄張り争いとか下らない理由では無闇に戦わないわ。でも命を落としたとしてもそれは実力不足で終わりなのよ。それに面白いものが見れそうだし」

「これって一体?」

 その瞬間ボクの手の甲が光始める。
 手の甲の光はどんどん強くなっていく。
 これって契約紋が光ってるよね?

『これは!』

「貴女とあの彼って結契を結んでるのよね?」

「えっと、はい」

「だったらそれは貴女が彼を救いたいと願った気持ちを成す為の力よ」

 これが。
 確かに力を感じるけど、それでも少し不安定かも。
 でも、ボクにできることがあるならやりたい!

『それを使っても、あのリアスに勝てるとは限らないですよ』

「おじさんはこの力について知ってるの?」

『えぇ、貴女の父親も同じく使っておりましたからね』

 お父さんが!
 じゃあこれは雷神特有の?
 でも契約紋が光ってるのは一体。

「その力は結契している精霊が契約者のことを信頼していないと使えない力よ」

『スノー!』

「ごめんなさいね。正直な話、鬼神と私の力はほぼ互角だから鬼神が敵わない相手に勝てる可能性はないのよ。この娘に期待するしかないの。あんなのでも一応、私の同胞だから」

 それはカムイと鬼神を指しているんだろう。
 弱肉強食の世界とは言っても好んで親しい者を失いたくはないよね。
 カムイとリアスくんの闘いはもう決着がつこうとしてる。
 カムイは汗ひとつかかないリアスくんに対して、殴る蹴るしかできちゃいない。
 このままじゃ鬼神の二の舞だよ。

「おじさん!これの使い方を教えて!」

『はぁ、言っても聞かないんでしょうね』

 聞かないよ。
 だって後悔したくないし!

『それは細君支柱フィアンコネクトと言って、結契を結んだ精霊のみが発動できるものです。かつて貴女の父もそれを使って、貴女の母を守ったのですよ』

「お父さんが」

『彼がそれを発動している時、私は彼にとてもじゃないですか勝てませんでした。その力はパートナーを守りたい、助けたいという気持ちを具現化したものです。ミライ、貴女がリアスを助けたいという気持ちを力に変えるイメージで発動してみてください』

 助けたい気持ち・・・
 リアスくんを助けたい。
 具体的な指標がないから、力が足りないで中途半端に不安定だったんだ。
 どう助けるか。
 ボクには雷しかない。
 雷しかないから、この雷でリアスくんを救って見せる!

「すごいわ!聖属性の混ざった雷属性の魔力」

『インテグラルの奴とはまた違う姿ですね』

 これが細君支柱フィアンコネクト
 さっきと違って、全く力が消えた。
 ううん、そうじゃない。
 漲る力が外へと放出されてるんだ。
 そしてまるで雷が、ボクの手足の様に言うことを聞かせることができる。

「グァあ!」

 カムイの人がこっちに飛んできた。
 見た目もボロボロだ。
 四肢が無事なのが攻めても救いかな。
 魔法が使える彼に単体で勝てるわけがない。
 おじさん達が援護してくれたら、まだ可能性があったかもしれないけど。
 彼がこのまま落とすのもなんか目覚めが悪いし、どうにか受けとめよう。
 周りにある電気の魔力はおそらく感電しない。
 なんだかわからないけどそんな気がする。
 だからこれで彼を受け止める。
 
「んぉ?」

「感電しない雷。脅威とは言えないけど面白いわね」

「違うよ。ボクの雷は------」

 頭に流れてくるこの力の使い方。
 ボクはここら一帯に雷を張り巡らせた。
 気がつけばカムイがリアスくんにつけられた傷は治ってる。
 そしてそれは鬼神も同じ。
 多分傷付いたみんなすべてを癒やすことが出来たはず。
 ボクはあまり治癒魔法が得意じゃないけど、それでもこの力があれば!

「な、なんでござるか!?」

「ヘェ・・・」

 リアスくんがこっちを見てる。
 多分あのリアスくんはボクがこの現状を生み出したことに気づいたんだ。
 でも好都合かな。
 ボクに敵意を向けてくれれば、それだけ戦況を操りやすい。

「オレノカワキヲぉぉ満たせェエエエ」

「リアスくん・・・」

 魂が汚染してるレベルで自我が壊れかかってる感じになってる。
 いや、寧ろ今まで自我が無かったと考えたら発展途上?
 あんなの発展途上にされたらたまらないよ。

「雷神の娘!遠距離支援に長けたこちらの味方が貴女を援護するわ!わたしとクレセントも援護するから後ろは気にせずやっちゃいなさい!恋人を取り戻しなさい」

 狼の見た目でウィンクされるのってなんか新鮮。
 まぁ知性があるんだから当たり前だよね。

『来ますよミライ。貴女の力を彼に見せつけてやりなさい』

「うん!行くよリアスくん!」

 リアスくんを<狂戦士の襟巻き>から助け出す闘いが始まった。
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