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 かなり消耗した私達は、この場で少しだけ休んでいた。
 しかしそれを許さない者達もいる。

「ここで何をしている貴様ら!」

「彼は、あの門番さん?」

「くそっ、なんでこんなところにいるんだ!?」

「俺達は限界だ。奴が犯罪者なのは調べた限り間違いない。マリアを頼む」

「私が無力化すれば問題ないでしょ!」

「避難誘導が終わってるこの区域に居るんだ!確実にまずい!」

 確かに、避難誘導の終わってるぽいここにいるということは、独断でここに来れる実力者という事になる。
 何せここら辺の建物は超級魔法で吹き飛んでるんだから、マトモな長官ならここに派遣などしないわよね。
 それなりの実力者か、或いは状況が見えない愚か者か。

「ワタクシも闘いますわ!」

「でもマリアも魔装の使用で消耗してるじゃない」

「それでも超級魔法を受けた二人よりは動けますわ」

 確かにマリアの体術はバカにならないほど強い。
 でもそれが消耗された今使えるかはわからない。
 考えてる暇はないわよね。

「貴様ら聞いているのか!」

「マリア頼むわ!」

 高速移動で門番の懐に踏み込む。
 門番はこちらを見向きもしない。
 まるで私の移動に気付いてないような。
 でもそんな訳ないわよね?
 彼の顎目掛けて全力のパンチをぶつけようとしたその時、意外な声が待ったをかけた。

「ルル、待って!」

「え?」

 門番さんの顎に当たる直前で、マリアが静止をかけた。
 その瞬間にやっと私が目の前に迫っていた事に気づいたらしく、驚いて腰を抜かしていた。

「な、なんだ!?」

「え、嘘!?まさか本当に愚か者側!?」

「よくみたら、数日前にあった皆さんにガウリ様ではありませんか!?」

 あの時会った門番さんと同じ口調に戻った。
 拳を向けたときに勝てないと感じたのかしら?
 これは演技?

「ベニスン、ここは避難誘導区域になっているはずだ。何故ここにいる?」

 ガウリ様は自身が満身創痍なのを気づかれないために、無理矢理身体を動かしている。
 でも大丈夫なのかしら?

「避難が済んでない人間が居ないかと思ってこちらに来た次第です。そうしたらこの場が瓦礫に変わっていたため、人影が見えたのでこちらに来た次第であります」

「ふむ」

『コイツカラ敵意ハ感ジナイ。血ノ臭イハ感ジルガ、少ナクトモ敵対スル意思ハナイヨウダ』

『肯定。ヒトマズハ、身体ヲ休メル事ヲ推奨シマス』

「二人がそう言うなら、敵意はないんでしょうけど。えっとベニマスさん」

「な、なんでしょうか?」

「単刀直入に聞きます。貴方は大量の血を浴びている、つまり殺人を疑われています。そのことについてどう思いますか?」

 少なくともこれは聞いておかないと安心出来ない。
 答えを聞いたところで安心出来るかと言われたら疑問だけど。
 
「血、ですか?」

「それに貴方は私と国王陛下に対して強い怨嗟を感じました。これは主幹ですので聞き流してもらってもかまいません」

「それは・・・やはりあの時私が貴方を睨み付けていましたか?」

「はい」

 これだけストレートに聞けば隠し立てしても無駄と感じたのだろう。
 肩を落としてポロポロと喋り始めた。

「えぇ。貴女は帝国の稲妻と呼ばれるルルシア・フォン・ランダール様ですよね?」

「今は少し違いますが相違ないです」

「私はあんな駄目息子でも愛していました。だからその原因を作った国王陛下やルルシアを恨まなかった日はありません」

「それは、実に愚かなことですね」

 悲壮感漂わせる悲しい笑顔を私に向けてきた。
 本人もそれはわかっているんだわ。
 それでも家族の方が大事ってことよね。
 その関係は羨ましく思うと同時に理解もできないわ。
 親しいからこそ、罪は償わせるべきだもの。

「私もそう思いますよ。だけど家族というのはそれだけで片付くほど甘くはないのですよ」

「そうですね。私は貴方じゃないのでそこまで理解しようとも思いません」

「ははっ、はっきり物を言うお嬢さんですな。大量の血は恐らく門番の仕事中に敵対した人間達の血でしょう。マーティン様が処理しましたが、私はその血を大量に浴びてしまいました」

 マーティンの名前が出たって事は彼は囮に使われた?
 でもヴァルカンがいなければ血の方は疑われようがなかったわよね。

「それを証明出来るものは何かありますか?」

「疑り深いお嬢さんだ。残念ながら何もありません。あれは事件としては処理されていませんからね」

「処理されてない?」

「私の目の前で血飛沫を上げて木っ端微塵になりましたからね。血の痕は残ってましたが、それだけでは事件の資料を作れないとマーティン様が言っておりました」

 木っ端微塵!?
 それってディラに起きた現象と似てるわ。
 グレンの方を見ると黙って頷いた。
 まさか彼女の死も神国が関係しているって言うの?
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