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163(ガウリ視点)

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 この狭いエリアで相手と怠慢素手での殴り合いに持っていけるのはアドバンテージに近い。
 まぁそれは相手が普通の人間だったらの話になるんだが。

「ん?魔法が透けましたね」

「一回で気づくか。少しくらい気づかないでくれたら助かるのにな」

「なるほど、貴方の神からの授かり物ギフテッドの一部ですか。ならばこちらで行きましょう」

 そうなるとやっぱり素手で来るよな。
 あの破壊力と速さが俺の命を狙ってくるか。
 
「笑っているのですか?」

「おっと、つい笑みを零した。俺も少しだけ高揚してるみたいだ」

 俺の成長した実力を試すことのできる相手。
 そしてその環境作りをマーヤとプルートがしてくれた。
 後はもう、実力を振るうだけだ。

「悪魔に取り憑かれた男のようですね。それならば貴方を救済する必要が更に出ました!」

「哀れだな。あぁ、神に盲信した人間は実に哀れだ。故にこうしよう」

 俺の後方からとても長い髭を生やした巨大な男が現れた。
 さしずめ俺の思い描く神と言ったところだ。

「デカいだけですね。見かけ倒しです。貴方は奇っ怪な幻術を使う」

「なら受けてみると良い」

 巨大な男はチェルナに向かって拳を振るう。
 誰だってこんな巨大な拳が迫ってきたら幻想だとわかっていても強ばる。
 チェルナも動揺で後ろへと飛び上がり下がった。

「どうした?見かけ倒しなんだろ?」

「性格が悪いようです。ならばこれはどうですか!」

 おっと。
 チェルナは地面を抉り掴み、それを投げつけてきた。
 だがそれも幻惑に変えてしまえばなにも問題は無い。

「なるほど、魔法も武器も全て幻覚にしてしまう能力ですか」

「さぁ、どうだろうな。俺は貴方を殺す気がないから、手の内をバラす気もないぞ」

「なるほど、舐めている!」

 高速移動か。
 少しがっかりだな。
 ワンパターンは幻惑魔法使いにとって扱いやすい。

「消えた!?」

「消えたんじゃない。最初から見失っていただけだ」

 気配すら幻惑させるこの魔法は、一度掛かってしまうと解くのはほとんど困難だ。
 俺を見えなくさせるだけだったら、見つける方法はいくらでもあるだろう。
 だが、一人だけ居たらそれは変わってくる。
 一人だけ居ることが肝なのだ。

「お前は俺を捕らえることはできないさ」

 一人居ると言うことは視線が、気配感知がどうしてもそこに行ってしまう。
 これが二人や複数ならしっかり探せる人間もいるだろう。

「ならばーーー」

「目を閉じるか。情報を取りいれなければ問題ないってところか?そう来るのは普通武人とかなんだけどな。まぁそれも織り込み済みだ」

 今度は爆音の幻惑だ。
 集中力を削ぐのが目的だが、これは目を閉じている相手にしか使えない。
 目を開けて集中していたら無意識に音なんて聞き流してしまうからだ。
 だからこそ今のこの爆音は不快なはず。

「見えました!そこだ!」

「ほぅ!」

 俺の位置を引き当てるか。
 激しい爆音の中大したものだ。

「捉えましたよ。これでもう私は貴方を見失う事は無い」

「本当に貴方は平和な国の大臣か?」

 気配を捉えたというのは本当だろうな。
 まっすぐ俺を見ているし、動けば視線を追ってきている。
 俺が見えてないはずなのにな。

「”幻想は自分の理想。幻惑は人を惑わし、幻想は人を幸福へと変える」

「気でも狂いましたか?」

「幻想と幻惑の狭間は巡り来る生と死の境”」

「どうやら本当に気が狂ってしまーーーいや、まさか!?」

 気づかないとは愚かとしか言えないな。
 だがまぁ魔法が一般的ではないのだから当たり前か。

「超級魔法:輪廻転生リーンカーネーション

 その瞬間は辺り一面が阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌を遂げる。
 さっきまで広がっていた生易しい世界とは違う。
 
「な、なんだこれは!?闇魔法の超級魔法は存在するがーーー」

「幻惑魔法の超級魔法は聞いたことがない?そうだろうな。俺も偶々完成し、詠唱を調整して作ったんだ。それよりもどうだ、俺の世界は?」

 チェルナの周りには蛇やら、亡者やらがまとわりついている。
 だがそれでもチェルナはしっかりと俺を捉えて見据えない。

「これは救済されなかった魂達。私はこういう方々を作らないために救済をしようとしているのです」

「そうか。だが気づかないか?」

「後ろから声と気配?いつの間に?」

「しっかりと捉えたつもりになっていて、反応が遅れて居るぞ」

 もうチェルナは俺を捉えることができていない。
 今、奴には俺が何処にいるかまるでわかっていないことだろう。
 そしてこの魔法は、知覚の制御を全て奪う魔法。
 精霊王にすらそれを可能にした魔法はーーー

「蛇に痛みを感じる!?なんだこれは!?」

「超級魔法だと言っただろう。この世界での出来事は現実の脳が完全に勘違いを起こす。この世界で死ねば現実での身体も死を遂げる。もちろん魂と言う意味であって、生物としては死なないぞ」

「生きたまま死ぬ・・・」

 ここに来てやっと恐怖が理性を上回ったか。
 正直並みの人間なら巨人を見ただけで恐怖が理性を上回ると思うけどな。

「なんと、なんと非道な!神をどれだけ冒涜すればその結論に至るのです!」

「神、そんなもんが居るならこの世界はもっと豊かになっているだろう!」

「それは神からの試練ーーー」

「知るか。試練を偉そうに与えるのが神だってんなら俺が殺してやる。そんなもん居てもいなくても同じだろう?」

「貴様!」

「まぁ貴方がどう叫いても俺がお前の知覚を奪ったって事に変わりはない。こんなのは効くだろう?」

 チェルナの辺りに茨のヒモが展開され、彼にまとわりつく。

「い、痛い!?うがあああ!だがこの程度で私の敬虔なる魂に傷は付かぬ!」

「だろうな」

 次は鉄の処女アイアンメイデン
 鉄で出来た棘の棺桶だ。
 奴の横に展開され、勢いよく閉ざされる。

「あがあああああああ」

「これはどうだ?」

 今度は剣を奴の周りに大量に展開され、そして鉄の処女アイアンメイデン目がけて飛んでいき貫いた。

「うっぐああああああ!だがこんなもの・・・」

「次はそいつを燃やそう。鉄ってのは密封された空間で燃やされるとその中の温度は人の身体を焼き尽くすと言われているそうだ」

「ま、待て!」

 事実がどうかは関係ない。
 これは俺がイメージした事象をそのまま自由に再現する。
 だから現実にあり得なさそうな事は再現はできない。
 
「あ、あづい!ああぁああああ!」

「まだ喋る余裕があるみたいだな」

「うぉおおおおおお!」

 驚いた。
 鉄の処女アイアンメイデンごと全てを吹き飛ばすとは。
 しかし全身は穴だらけの火傷だらけ。
 虫の息だな。

「はぁ、はぁ、貴様ぁ!」

「よく生き残ったと褒めてやる。だが、これで終わりだ」

 大量の黒い虫がチェルナの口の中に侵入していった。
 
「ふご、ふごぉおおおお」

「腹から破裂する気分を味わえ」

 そして腹が破裂したことで、彼の胴体は木っ端微塵になった。
 しかしここは幻惑空間。
 自身が鎖骨より上になっても、意識を保っている。

「貴様は神への裁きが下る!絶対に!」

「どうだかな。まぁお前の精神がどれだけ持つか、持久戦と行こうか」

「や、やめーーー」

 その後、奴の精神が壊れ尽くすまで色々な拷問をかけた。
 そしてこの世界が閉じられた時、チェルナは生きたまま死んだ。
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