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180(グレン視点)

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 スペクターを吸収したルルの動きが止まった。
 しかし次には動き出し、マリア様に襲い掛かっている。
 でも流石はマリア様。
 体術はルルと互角で全ての攻撃を受け流している。

「なによ・・・あれ?」

「驚いた。やるじゃないの、あのお嬢様。ルルは剣術はともかく体術はそれなりに強いのに」

「マリア様は魔法が使えないからな。この国で魔法使いから身を守れるくらいには鍛えてんだよ」

「へぇ。んじゃ俺らも負けてらんねぇな!」

「背中預けるぜ。モモを頼む」

「おうよ!」

 俺は後方からの攻撃は気にしない。
 なにせ帝国の聖騎士様が闘うんだからな。

「グンジョー、目を覚ましてやるよ」

「・・・ろせ」

「ん?」

「・・・コ・・・ろせ」

『殺セト仰ッテイルヨウデス』

「なるほど、絶対殺してなんてやらねぇよ。行くぞヴァルカン」

『了解』

 俺はヴァルカンを発動させる。
 今のグンジョーは精霊の障気を浴びて、精霊以上に精霊らしい動きをする。
 グンジョーが手を前に掲げると水魔法が発動される。
 無詠唱か。

「だけど見えるな。イデリッサとの修行の成果だな」

『素晴ラシイ動キデス』

「お前の性能も合い待ってるよ。マグマで浸かった成果か?」

『ドウデショウカ』

 ヒカラム共和国の時はそのピーキーな動きに対応が出来なかったけど、今はそれも慣れてきた。
 グンジョーが魔法を放つよりも早くその射線から移動できる。
 ルルと違って炎の推進力での移動は出来ないけど、それでもパワーが上がってる。
 イクシードモードって奴が無くてもそれなりに闘えるな。

「イクシードモード無しでも魔装使いじゃなければなんとかなるな」
 
『イクシードモードハ、負担ガ大キイデス。出来ルダケ使ワナイデクダサイ』

「以前の俺なら破裂だもんな。まぁイクシードモード無しでもグンジョーは止めるさ」

 グンジョーの魔法連射。
 さながら水流連打ってところか。
 だがその程度じゃ俺には届かない。
 あいつの魔法は正面から闘えば俺より圧倒的に弱いんだ。

「グンジョーはグンジョーじゃなきゃ俺には勝てない!さっさと目を覚ませ」

「・・・ろせ」

 一歩で目の前に来たが、ここからだ。
 何故、魔法を使って昏倒させないか理由がある。
 障気の恐ろしさは魔法じゃない。
 どんな魔法でも防いでしまう防御力と筋力強化にある。
 俺はグンジョーの両手をしっかりと握りしめ、向こうもがっちりとしがみついている。

「パワーがやべぇ」

『障気ノ強化ハ強力デス。離レル事ヲ推奨シマス』

「わざわざ掴んだのは理由があんだよ!」

 さっきは拳が空を切っただけであれだけ吹き飛ばされた。
 この体勢は振りかぶることが出来ない。
 俺の後ろにはルルやマリア様、カインが居る。

「後ろには手を出させねぇ」

『全ク無茶ヲシマス』

「無茶でも何でもするんだ!」

 押し負けそうだからって、負けられねぇ。
 俺は巴投げの要領でグンジョーのバランスを崩して腹を蹴り、腕はがっちりと掴んで後ろの地面に叩き付ける。
 しかし向こうも力が抜けない。

「なぁ、障気の解析まだできねぇのかヴァルカン」

『今ヤッテイマス。解析完了マデ残リ3分』

「3分!?無茶言うなよーーーイデデデデ!」

 くそ、この情態で関節技決め手くんなよ。
 筋力的にも関節が外れちまう。
 
「このバカグンジョーが!ゴルドはお前とはなんも関係ねぇ!親父のしでかしたことは息子が責任を取るなんてそんな古い考えしてんじゃねぇよ!」

「・・・そンな・・・こと・・コ・・ろして・・クレ」

「逃げんな!」

 こいつはヒュプノと会話は出来てんだ。
 だから障気に完全に呑まれてるわけじゃない。
 俺が目の前にいるからこうなってるんだ。

「ヒュプノ!いるんだろ。お前の兄貴どうにかしろ」

「な、気づいていたの!?」

「当たり前だろ、鱗粉飛ばしすぎだ」

「でも僕の鱗粉兄貴に効かないんだ」

「障気が原因か!」

「兄貴ぃ。兄貴は友達を潰されて行き場のない俺を助けてくれたのに・・・」

「だったら俺に痛みを和らげる麻酔をかけてくれ」

「え、でもそれって人間にとってーーー」

「良いから早く!」

「わかった」

 痛みが人間にとって危険信号ってのはわかってる。
 でも今はそれの所為で枷がある。
 俺はザンドマンの鱗粉で痛みが薄れた。
 
「グンジョー!」

 俺は腕と肩の関節を外して、ムチで投げ回すようにグンジョーを壁に叩きつけた。
 腕と肩の関節を戻したけど、筋肉が切れたのか少し違和感がある。
 
「・・・ぐ・・・レン!」

「こっちは痛みが抑えられてるからな。体術の限界ってのは痛みだ。行くぜ」

 そう思った瞬間身体の力が抜けた。
 なんで!?
 そう思って下を見ると、足に何かが取り憑いてる。
 
「これは・・・」

『ナイトメアヒル・・噛ミツイタ者ノ魔力ヲ吸ウ昆虫型ノ魔物デス』

「ヒルは昆虫じゃねぇよ」

 しかし後方を見ると昆虫型の魔物が当たりかしこに飛んでいた。
 これがルルの言っていた昆虫型の魔物か。
 つまりこれを操ってるのはモモ・・・
 カインだけでこれ処理しきれんのか?
 いや、俺はあいつを信じるって決めた。

「この足のヒルは見逃してやる。頼んだぜ」

 別にすぐ回復する魔力だ。
 大したことねぇな!
 それよりもグンジョーを障気に戻すところだ。
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