ゴーストスロッター

クランキー

文字サイズ
小 中 大 特大
14 / 138
【第2章】

■第14話 : 安穏

「それにしても夏目、これからどうしていくつもりなんだ?」

飲み始めてから2時間くらい経った頃だった。

それまでくだらない話で大騒ぎしていた4人だが、不意に日高が真剣な声で優司に問いかけた。

「ん? これからって?」

「だからさ、今後の生活のことだよ。家とか仕事とか」

「ああ、そのことか……
 それについては俺も結構悩んでるんだよね。
 本当はスロ打って生活したいんだけど、なにしろ俺って究極のヒキ弱でしょ?
 とても、普通に勝ってくことなんてできないんだよなぁ……」

「まだそんなこと言ってんのかよ!
 この前も話しただろ?
 確率ってのは必ず収束するんだ。
 一時的に負けが込んだくらいでヒキが弱いとか言い出すなよ。
 ヒキなんてのは単なるオカルトだぜ?
 そんなもん存在しないんだよ! なあ、ヒデ?」

「ああ、そうだね。」

少しムキになる日高。
冷静に同意するヒデ。

「……そうだったね。悪かったよ。」

実はこの一週間、優司と日高の間で何度かこの話題で議論になった。

ガチガチの理論派である日高にとって、ヒキの話などされるだけで不快、といった様子だった。

だが、優司は身をもって「ヒキ」の強弱を感じてきた人間。
1年間高設定をツモりまくったにもかかわらず、家と貯金をすべて失ってしまうほど負けたのだから。

もちろん優司も、理論上、ヒキを語るのはナンセンスだということはわかっている。

(俺ぐらいの究極的なヒキ弱を体験しないと、理解してもらえないだろうな)

こう考えて、この話題になってもあえて争わず、すんなりと引くようにしていた。

「で、スロで食わないとすれば何をやるんだ夏目?
 それだけのウデを持ってるんだから、完全にスロから離れちまうのはまだもったいないんじゃないか?
 あのスロノートもかなり貴重だし」

「……うん」

「ちなみにさ、もし今後も打ってくつもりなら、もう少しこの地域のスロ事情を理解した方がいいぜ?
 知らなかったがために変なトラブルに巻き込まれるのもイヤだろ?」

「スロ事情?」

「ああ。グループ間のナワバリとかさ」

「そ、そんなもんあるんだ……」

「まあ、明確に決まってるわけじゃないけどな。
 このあたりは、大小いくつかのスログループがしのぎを削りあってるんだ。
 と言っても、それぞれがめちゃくちゃ仲悪い、とかそんなんはないけどね。
 でも、一応グループ同士、気を使い合ってるところはある。
 このホールはあのグループがジグマってるからあんまり荒らさないようにしよう、とか」

面倒くさいモンがあるんだな、と優司は思った。

「ちなみに、俺のグループなんて全然ちっちゃい方だよ。全員で6人だし。
 まあ、別に増やそうとも思ってないけど。
 このあたりで一番デカいグループっつったら、やっぱ神崎かんざきんとこだな。
 正確にはわかんねぇけど、多分30~40人はいそうな感じだ。あそことはトラブんなよ」

「……」

「あとは、『マルサン』ってホールでジグマってる広瀬ひろせんとことか、イベント中心で動き回ってる緒方おがたんとこも結構デカいね」

「……そうなんだ」

あまり興味なさそうに日高の話を聞いている優司。
今後どうするかも決めていないため、いまいちこの手の話に興味が持てないのだ。

とはいえ、日高が親切で説明してくれている手前、話の腰を折るのも悪い気がしたので、もう少しこの話題に乗ってみることにした。

「このへんのスロッターは、ほとんどの人がどっかのグループに属してるもんなの?」

この優司の問いに、小島が口をはさむ。

「そんなことはないっスよ。もちろん、一人で気楽に打ちたいって思ってるスロッターも多いしね。
 乾君とか大石君なんかはどこにも属してないのにかなり有名だし。
 まあ、乾君はもう滅多にこの街で見ることはないッスけど」

(そんなにいろいろ名前出されても覚えられないって……)

いきなり赤の他人の名前を連続で出されても、ただ混乱するだけ。
しかも、あまり興味のない話ならばなおさらだ。

このままこの話題を続けても、うんざり感が募るだけだと思い、別の話題を振ることにした。

「そうなんだ。
 結構名前が知られてるスロッターって多いんだね。
 ……ところでさ、藤田ってどうしてんの?」

これは、実は前から優司が気になっていたこと。
ただ話題を変えたかっただけではない。

日高が答える。

「ああ、そういえばまだ話してなかったよな? 藤田のこと。
 あいつ、今ホームレスになるのも時間の問題らしいぜ」

「え? なんで?」 

「アイツ、知っての通りスロのウデなんて全くないだろ?
 当然貯金なんて全然なくてさ。
 しかも、お前から騙し取った30万に浮かれちまってか、豪快に金を使ってたらしいんだよ。
 そこへもってきて、その30万を俺とお前で取り返しただろ?
 もう、来月の家賃を払う金もないらしいぜ」

「……」

「普通は2~3ヶ月くらい家賃を滞納しても追い出されないもんだけど、アイツの場合大家に職なしってのがバレてるから、1回でも滞納したらその場で追い出されるんだと」

「……でもさ、実家に帰りゃいいんじゃないの?」

「いや、そもそもアイツが一人暮らししてんのは、実家から勘当されて追い出されたかららしいんだ」

「へぇ……そうなんだ……」

「まあ、そのへんの詳しい話は聞いてないんだけどさ。興味もなかったし。
 アイツのことだから、なんか余計なことやらかしたんじゃねぇの?」

意外だった。
結果的にそこまで追い詰めることになっていたとは思ってもみなかったのだ。

黙り込む優司を見て、小島が喋りだした。

「どうしたんスか? まさか同情してるとか?」

「……いや、そんなことはないけど」

「そうっスよね? 元はと言えば、アイツがいけないんだし!」

珍しく、ヒデも口を開く。

「俺もそう思うよ。
 藤田は、元々皆にも嫌われてたしな。
 日高もそれは知ってたけど、こいつ、変に義理堅いからなかなか追い出せなかったんだ。
 いったんグループの人間と認めた以上は、みんながなんとなく嫌ってるからっていう曖昧な理由じゃ追い出すことはできない、って。
 まあでも、時間の問題でいつかはこうなると思ってたよ」

同情こそしていなかったが、少し罪悪感は感じていた優司。
この二人の言葉には励まされた。

「……だよね! 俺が気にすることじゃないか!」

「おう! 気にすんな夏目!
 もうアイツの話はいいよ! ガッツリ飲もうぜ!」

そう言って、ビールジョッキを高々とかかげる日高。

4人はもう一度乾杯をし、それから再び雑談が始まった。
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数 9,943
女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜 表紙

女風体験記〜今話題の女性用風俗に行ってきたので感想載せます〜

女風に行った感想書いちゃうよ! (あくまでも私が体験したことです。全てのセラピスト様が同じ様な施術をしてるわけでは無いと思います。)
恋愛 完結 短編
文字数 10,166
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか... 表紙

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。
青春 完結 短編
文字数 11,294
百合ランジェリーカフェにようこそ! 表紙

百合ランジェリーカフェにようこそ!

 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
青春 連載中 長編 R15
文字数 59,023
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。 表紙

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。
恋愛 完結 短編 R15
文字数 1,856
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。 表紙

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
青春 連載中 長編 R15
文字数 31,050
還暦の性 若い彼との恋愛模様 表紙

還暦の性 若い彼との恋愛模様

還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話
恋愛 完結 短編
文字数 12,614
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。 表紙

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ファンタジー 完結 長編 R15
文字数 564,689