ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
92 / 138
【第4章】

■第92話 : とある神経症

「水です! どうぞ!」

近くの自販機から買ってきた水を、うずくまっている男に慌てて渡す優司。
緊急事態と思しき状況に、酔いはいくらか醒めていた。

「あ、ありがとう……ございます……」

そう言いながら、男はシート状の薬をポケットから取り出し、そこから一錠を手のひらに押し出して、その薬を口に入れてから水で流し込んだ。

(ん? デパス……?)

男が取り出したシートに記された薬の名前を、なんとなく読んでしまう優司。

「はぁ……はぁ……ふぅ…………」

相変わらず、男は苦しそう。
うずくまったまま動けず、落ち着きのない様子であちらこちらへ視線を這わせている。

しかし優司は、男の様子を見ていて、逆に段々と冷静になっていた。

「あの、とりあえずあそこのベンチに座りません?」

ゆったりとした口調でそう言い放った優司。

男は、苦しそうにしながらも小さく頷き、そのまま優司に肩を借りてベンチまで辿り着いた。

男をベンチに座らせた後は、そのまま黙って様子を見守る優司。
男も、うつむいたまま何も喋ろうとはしなかった。

そして、10分ほど経った頃だった。

「ふぅ……」

男は大きく深呼吸した後、おもむろに優司の方を向いた。

「どうも、ありがとうございます。助かりました」

にこやかな表情で、優司に感謝の意を示した。

「いえ……水を持ってきただけですし」

「それが凄い助かったんですよ」

そう言って、再びうつむき気味になり、ふぅーっと軽く息を吐いた。

「……パニック障害ですか?」

突如、優司が男に問いかけた。

男は、びっくりしたような顔をしながらもすぐに返事をする。

「そうなんですよ。よくわかりましたね?」

「あの、ウチの父親が医者なんですよ。心療内科の。
 だから、イヤでも多少詳しくなっちゃって。
 ……さっき、デパス飲んでましたよね? デパスはベンゾジアゼピン系の中でも特にメジャーな薬で、軽い不眠とかでも簡単に医者が出すような抗不安薬だから、デパス飲んでるからって安易に病気の特定はできないんですけど、さっきの症状と併せて考えたらパニック障害が濃厚かな、と思って」

「はは……なるほど。
 いや、ちょっと油断しちゃってて。最近は全然発作もなくて、予期不安もうまくコントロールできるようになってたつもりだったんですけどね。
 でも、ここのところいろいろ忙しくて、今日も結構ハードなスケジュールで。
 ストレスが溜まっちゃってたみたいです」

「なるほど。ストレスが一番の大敵って言いますもんね」

「ええ、そうみたいですね。
 でも今は、自分で『ストレスがやばい』って分かってるだけいいですよ。
 昔は苦労しましたから……。いきなり動悸とか吐き気とかめまいとか絶望感とかが一気に襲ってきて、その場から動けなくなっちゃいますからね。このまま死ぬんじゃないか、ってくらい苦しくて。
 最初は、なんでこんなことになるのかの原因も全くわからなくて、かなり不気味でしたよ」

「最初はそれで思い悩む人が多いみたいです。突然激しい動悸が始まったりするから、心臓に何か異常があるんじゃないか、とか」

「やっぱり! 僕もそれは思いましたよ!
 あの動悸はハンパじゃないし。
 最初に発作が起こった時、心臓がパンクするかと思いましたもん。
 パチスロ屋にいる時にいきなり発作が襲っ――」

ここで、男は不意に言葉を止めた。

なぜ不意に黙ったのかがわからず、男の顔を凝視する優司。
男も、優司の顔をジッと見つめている。

沈黙に耐えかね、優司が口を開く。

「あ、あの……どうしました?」

「……あ、いや、なんでもないです」

「……?」

不思議そうにしている優司に対し、男があたふたしながら話しだした。

「あっ、そ、そうそう! さっきの続きなんですけど、最初の発作にはびっくりしましたよ! 一瞬何が何やら、って感じで。
 でも、今は発作のタイミングとか要因とかもわかってきてて、無駄に怯えることもなくなりましたからね。
 ようやくこの病気とも上手いこと付き合えるようになれましたよ! 最初の頃は――」

男はそのまま、問わず語りを続けた。

優司は、「話すことで不安が緩和されるなら」という思いで、そのまま話を聞き続けた。



◇◇◇◇◇◇



「あれ? 何やってんの真佐雄まさお

二人が喋りだして10分ほど経った頃だった。
優司たちを見つけた一人の男が、ふと立ち止まって話しかけてきた。

優司が困惑していると、今の今まで自分と会話していた男が返事をした。

「おぉ、慎也。お前も帰ってきたんだ?」

「ああ。昨日飲みすぎたから、今日はもういいやと思ってさ。一杯だけ飲んで帰ってきたよ。
 お前も一杯くらい飲んでいけばよかったのに」

「いや、飲んじゃうと止まらなくなりそうだったからさ。いろいろやらなきゃいけないことがあるし。
 で、帰るんだろ? 俺もそろそろ帰るつもりだったから途中まで一緒に行こうぜ」

そう言ってから、男は優司の方に向き直った。

「じゃあ、どうもありがとうございました!
 いろいろ話せてスッキリしたし、なんか助かりました!」

「いえ、特に何もしてませんし」

「いやいや、そんなことないですって!
 それじゃ、またどこかで会ったら、今度は酒でも」

「あ、はい。ど、どうも」

社交辞令とはわかりつつも、つい本気にしそうになり、軽く戸惑ってしまった。
が、すぐに落ち着き、軽く会釈をしながらニコリとする優司。

男も軽く会釈を返し、そのまま二人は駅とは逆方向へと歩いていった。

優司はベンチに座りながら、二人の去っていく姿をぼけーっと見つめていた。 



◇◇◇◇◇◇



「なんか、どこかで見たことあるね、彼。誰だっけ?」

優司との距離がある程度離れるや、すぐさま質問をした慎也と呼ばれる男。

「俺も、最初会った時にそう思ってたんだよ。
 で、しばらく思い出せなかったんだけど、話してる途中にふっと思い出した」

「ん……? で、誰?」

「ほら、前にチラっと見たじゃん。あれが夏目だよ」

「えっ?
 あ、あいつが……。
 そうか、そういえばあんな感じだったな! どおりでどっかで見たことあると思った!」

「だろ?
 俺も慎也も、今はあんまりホールで実際に稼動することがないから夏目とも遭遇する機会がなかったけど、一度だけ偶然見かけたんだよな」

「そうそう。偶然すれ違った時、ノブに教えてもらったんだよな。あれが今噂の夏目だ、って。
 30万円賭けてのパチスロ勝負、ってのをやってんだろ?
 で、バカみたいに勝ちまくってるって」

「うん」

「へぇ、彼がそうかぁ。
 ……でも、そうなってくると大変じゃん? 彼の最後のターゲット、真佐雄なんだろ?」

「……らしいね」

「名乗った?」

「いや、やめておいた」

「なんでだぁ?
 名乗っちゃえばよかったのに。
 『俺が神崎真佐雄だ~!』ってさ」

慎也と呼ばれる男は、茶化すようにそう言った。
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話