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連載
さわこさんと、ペット その4
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
よっぽどお腹が空いていた様子の牙猫さんは、バテアさんから頂いたバニラ最中をすごい勢いで食べていました。
ですが、そんなに冷たい物ばかり食べているとお腹を壊しかねないのでは……そう思った私は、とりあえずホットミルクを作成してみました。
水飴を少々咥えまして、ぬるめ程度にしてあります。
「牙猫さん、こういった物はいかがですか?」
そう言いながら大きめのマグカップに入れたミルクを手渡してみましたところ、牙猫さんはマグカップを両手で抱えて、その中身をクンクンと匂っていたのですが、
「にゃ……いい匂いにゃ」
そう言いながら、おそるおそるといった感じで舌でミルクをすくっていったのですが、
「にゃ!」
耳をピンとたてると、すごい勢いでミルクを飲み始めた次第でございます。
「……どうやら気に入ってくれたようですね」
そんな牙猫さんの様子を見つめながら、私は思わず笑顔を浮かべていました。
すると、その牙猫さんは
「おかわり! おかわり欲しいにゃ!」
満面の笑顔でそう言いながら、空っぽになったマグカップを私に差し出してまいりました。
「はいはい、慌てなくてもまだたくさんありますからね」
私は笑顔でそう言いながらマグカップを受け取りました。
「あら?」
よく見ますと、牙猫さんの口の周辺がすごいことになっております。
はい……ミルクがべっとりと……
よっぽどこのヒットミルクが気に入ったみたいですね。
私は、くすりと微笑みながら、ポケットから取り出したハンカチで口の周りを拭いてあげました。
「うにゃ? にゃうぅ……」
顔を拭かれたためでしょうか、最初は嫌がっている感じの牙猫さんだったのですが、
「はい、大丈夫ですからね」
私が、その頭を優しく撫ではじめると、ゴロゴロと喉をならしながらご機嫌な様子で顔を拭かせてくれた次第でございます。
◇◇
その後、ホットミルクを気に入った牙猫さんは、5回もお代わりをした次第でございます。
ようやく落ち着いた牙猫さんは、私とバテアさんを交互に見つめながら。
「命の恩人にゃ。ようやく生き返った気がするにゃ」
満面の笑顔でそう言うと、私の頬に、自らの頬をすり寄せてまいりました。
おそらく、これが牙猫さんの愛情表現なのでしょうね。
私は、そんな牙猫さんの頭を撫でながら
「いえいえ、牙猫さんがいなかったら私も危なかったはずですもの。お互い様ですよ」
そう言ったのですが、それを聞いた牙猫さんは
「うにゃ。ベルはそんなことしてにゃいにゃ」
そう言いながら、私に頬ずりを続けておりました。
「ベル? 牙猫さんはベルって言うのですか?」
「うにゃ! ベルはベルにゃ」
そう言った牙猫さん……ベルは、私の顔に頬ずりをし続けていた次第でございます。
◇◇
その後、ベルにあれこれお話を聞きました。
ベルは、以前は家族と一緒に森の中で暮らしていたそうです。
ですが、あの古代怪獣族……ベル達はデカリアンと呼んでいたそうなのですが、そのデカリアン達に家を作っていた木を破壊されてしまい、一家が散り散りになってしまったのだそうでございます。
それをお聞きした私は、なんだか胸が締め付けられた気がいたしました。
家族がどこにいったのかわからない……心配でしょうがないのではないでしょか……
そんな事を思っている私の前でベルは、
「ううん。きっとみんな生きてるにゃ。きっとそのうち会えるにゃ」
笑顔でそう言いました。
……ですが、気のせいでしょうか……その笑顔が心なしか寂しそうに見えた次第でございます。
「で? ベル。あんたはこれからどうする気なの?」
私の後方に立っていたバテアさんがそう言われました。
その言葉を聞いたベルは、
「うん、もう元気になったにゃ。すぐ森に帰るにゃ」
そう言いながら立ち上がりました。
その時……私はほとんど無意識にその手を掴んでおりました。
私自身、なぜそのような行動をしたのか自分でもよくわかりません。
ですが、その手を握った私は……これは自分の意思で言いました。
「あの……ベル。よかったら、ここで一緒に暮らしませんか?」
「にゃ?」
「ここで一緒に暮らしながら、家族を探しませんか? その間のご飯は私が準備してあげますし、それに、えっと、えっと……」
私は、一生懸命考えながら言葉を続けていきました。
自分でも、なんでこんなに一生懸命になっているのか、よくわかりません。
……ですが、
ベルを、ひとりぼっちで森に返してはいけない……ひとりぼっちにしたくない……そんな気持ちが、今の私の心の中に溢れていたのだけは間違いありません。
ベルは、私の顔をジッと見つめながら、
「……ホントにいいにゃ?」
おずおずと言った感じで訪ねてまいりました。
そんなベルに、私は
「はい、構いません!」
力強くお答えいたした次第でございます。
すると、
「にゃ~!」
ベルは、嬉しそうな鳴き声を上げながら私に抱きついてきました。
私も笑顔でそんなベルを抱き留めました。
そんな私とベルの後方で、バテアさんが
「やれやれ、まぁた居候が増えるのかしら?」
そう言いながら苦笑なさっておいででした。
そんなバテアさんに、ベルを抱き寄せたまま私は肩越しに振り返りまして、
「あ、あの……すいません、勝手なことをしてしまいまして」
少々焦った感じで声をかけていったのですが、ベルが、そんな私の顔を両手で掴んだかと思うと、
「これからよろしくにゃ」
そう言いながら、私の顔……と、いいますか、ほぼ完全に口をですね、ペロペロなめて来た次第でして……
確か、猫が飼い主の顔や口を舐めてくるときは、親愛の表現といいますか、気持ちがリラックスしていて甘えたい時などにする行動と聞いたことがあります。
「ちょ、ベル……口はその、わっぷ……」
あまりにも激しく口とその周辺を舐めなわされて、私はベッドの上に倒れ混んでしまいました。
そんな私を、まるで押さえ込むようにしながらベルは私の顔をなめ回し続けています。
すると、ちょうど二階にあがってきたエミリアが、この光景に気付いたらしく、
「ワオ……さわこってば、そんな趣味が……」
そんな事を口にしながら、じっと私とベルのことを見ていた次第と言いますか……
「お願いです、ベル。一度離れてください。この体制はいろいろ誤解をわっぷ……」
そう言う私の言葉などおかまいなしとばかりに、ベルは私の口の周辺をなめ回し続けていた次第でございます。
それはもう、嬉しそうに……
◇◇
そんな経緯がございまして……バテアさんのお宅に新しい同居人が増えた次第でございます。
ベルは、古代怪獣族だからでしょうか、人型になってもとても毛深い感じでございます。
最初は毛皮の服を着ているのかと思っていたのですが、実はその毛が体毛だったことがわかって、少々びっくりしたのですが……今まで素っ裸の女の子に抱きつかれていた事実に気がついた私は、思わずあわあわしてしまった次第でございます。
私の服を着てもらってみたところ、少々大きめでした。
サイズ的にはエミリアの服の方がフィットしそうだったのですが、
「さーちゃんの服がいいにゃ」
ベルはそう言いながら、私の服に頬ずりをしながら満面の笑みを浮かべていた次第でございます。
そんなわけで、若干大きめではありますけれども、ベルには私の服を着てもらうことにした次第でございます。
その夜、居酒屋さわこさんの厨房になっておりますと、ベルが牙猫の姿で私の足下をウロウロしていました。
私の邪魔にならないように……でも、私の足にじゃれながら、嬉しそうに厨房を歩き回っているベル。
食品を扱っていますので、本来はNGではあるのですが、ベルの毛が飛散しないようにバテアさんがベルの周囲に魔法で薄い膜を張ってくれていますので、とりあえず衛生面は問題ございません。
とはいえ、調理台には絶対にあがらないこと・私が包丁を手にしているときは絶対にちょっかいを出さないこと、といった約束は事前に交わしている次第でございます。
牙猫とバレないように、その牙もバテアさんの魔法で見えなくして頂いております。
そんなベルが、気まぐれに客席の間を歩いていくと、
「ほう、可愛い猫さんですね。看板猫ですね」
ナベアタマさん達が笑顔でベルを見つめていました。
ただ、ジューイさんだけは
「ジュ!? て、食べないでくださいだジュ!?」
そう言いながら、思いっきり後ずさっていました。
そういえば、ジューイさんはハムスターそっくりな鼠人さんですので、猫のベルとは相性がよくないのかもしれません。
大慌てしているジューイさん。
そんなジューイさんを面白がって追いかけ回していくベル。
その様子を、お客様達が笑い声をあげながら見つめていた次第でございます。
ーつづく
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