彼に別れを告げました

りんごちゃん

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ストーカー、こわい

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 仕事休みたい。って、言ったら宗さんのことなので、嬉々として休ませるから言わない。

「じゃあ未唯、今日は一緒に買い物して帰ろうね」

 宗さんに頭を撫でられて別れる。宗さんとは部が違うので階数も違う。エレベーターで別れて、ちょっとホッとする。
 宗さんがいたら考えたいことも考えられない。
 南雲さん、会わなくちゃダメだよね、絶対。

「はぁ……」

 大きなため息を一つ。

「おはようございます、柿原さん」
「……あ、おはよう、吉野くん」
「金曜はありがとうございました。ため息なんてついてどうしたんですか?」

 わんこ系後輩の吉野くんが心配そうに私をそう言ってくれるけど、ごめんね。今はちょっと吉野くんと話したくない。
 だって、吉野くんに飲みに誘われさえしなければ酔った吉野くんを介抱することもなかったし、酔った吉野くんに抱きつかれないで済んだと思うと、ね。

「なんでもないよ。それより今月の旅費の精算は終わった?」
「あ、まだです」
「そう、終わったら教えてね」

 ちょっと露骨だったかな。そう思いながら席に荷物を置いて、給湯室に向かう。
 さて、今日の私。仕事は真面目に、宗さんのことは一時忘れる。
 今日は三連休開け。忙しいんだから、頑張らなくちゃ!
 それにお昼は宗さんの作ってくれたお弁当が待ってる。普段は私が作ってるけど、うん……。昨夜も激しかったから、朝起きれなかったんです……。

「うん、頑張る」

 仕事仕事!



 経理の仕事は苦手だけど、とにかく淡々と進めて、お昼に一人でお弁当を食べてるとメールが来た。

 《宗さんと別れていないようですね。いつ言うつもりですか?》
「……ひぇ………」

 こわい。南雲さんからのメールなんだけど、こわい。思わずキョロキョロと周りを見る。
 どこからか監視してるとしか思えない。
 ストーカーされてるの、私たち。
 携帯片手にキョロキョロと周りを見るけど、ここは食堂。たくさんの人がいる。
 もしかして南雲さん、探偵とか雇ってるのかな……。

「未唯?」
「ひっ!」

 後ろから肩をポンと叩かれて飛び上がった。

「しゅ、宗さん……」

 び、びっくりした……。
 宗さんがくすくすと笑いながら隣に座る。
 宗さんは目立つから食堂にいる人の視線が集まってきた。
 気まずくなりながらも、宗さんを拒否できない私。なんだか一度目のお別れ騒ぎから、会社ではあまり接触のなかった宗さんがオープンになってきた。
 営業はいつもお昼の時間が決まってなくて、仕事がひと段落したら勝手にお昼だから、宗さんとお昼の時間が一緒になるのは珍しい。

「珍しいですね、一緒になるの」
「そうだね。お弁当、美味しい?」
「あ、はい。とっても」
「そう、よかった」

 なんだか今日の宗さんはいつもよりも機嫌が良さそうで首をかしげる。なにかいいことでもあったのかな。今朝は普通だったと思うけど。
 不思議そうな私に気付いた宗さんがにっこりと笑みを浮かべながら口を開いた。

「今日ね、やっと父が帰ってくるんだ」
「どこかに行ってたんですか?」
「仕事の関係でイギリスにね。ずっと未唯に会って欲しかったんだけど、やっと時間が取れそうだって言われて」

 ……んん?

「えっと、ん?」
「ほら、婚約したんだから両親に会うのも大切でしょ? だけど、うちの両親と会う前に未唯の両親にも挨拶したいな」
「……!!!」

 あ、あ、なんでここで言うのかなぁ!?
 聞き耳を立てていた人たちが、目を大きくしている。私の部署の人たちはニヨニヨしていた。課長、なんでそんなにニヤニヤしてるの? 部下が困ってるのに!
 というか、南雲さんの言葉が本当なら、宗さんの父親って、大きな会社の社長さん……。
 どうしよう、許さないって言われたら。いやいやそれよりも南雲さんのことを解決するほうが大切だ。
 南雲さんのこと、どうやって解決しよう……。

「今月中には未唯の両親に挨拶したいな」
「こ、今月中っ?」
「うん。来週か、再来週の土日のどちらか。確か未唯のお義父さんは公務員って言ってたから休みだよね。都合が良ければいいんだけど……」

 それって、二週間以内ってことじゃないの。
 え、どうしよう。どうしたらいいの。
 南雲さんの約束も二週間以内、両親への挨拶も二週間以内。どうしろって言うの?
 私、なにか悪いことしたのかなぁ……。
 なんてボーっとしてると、宗さんに肩を叩かれる。

「未唯? なんだか最近ぼーっとしてること多いよね」
「そ、うかな……」
「うん。俺が帰ってきてから。その前かな。俺が出張行ってる間? よく考えたら未唯は疲れ切ってても連絡は忘れないし」

 あ、まずい。

「そ、そんなことないですよ。宗さんの気のせいです。あの日は本当に疲れてたんです。ぼーっとしてるのは、ほら、あの、映画が気になるなーって」
「あの別れから始まるっていう?」
「そうですそれです」

 言い訳がそれぐらいしか思いつかなかった。
 私の答えに宗さんは訝しげに私を見つめる。私はにこにこと笑顔を貼り付けながら、内心冷や汗が止まらない。
 どうして、どうして私はここで別れの映画の話を切り出してしまったんだろう。胸がチクチクする。

「本当に、それで?」
「は、はい……」
「ふぅん……」

 怪しんでる。宗さんが怪しんでるぅ……。
 胡乱な目で私を見つめる宗さんに気がつきながら、甘い卵焼きを口にいれる。
 バレたらまずい。なにがまずいって、色々と。
 南雲さんのことがバレたら、南雲さんに写真を撒かれるし、宗さんの雷が落ちること間違いなし。
 なんてことでしょう。八方塞がり。どうしたらいいの、本当に。
 チラチラと携帯を見る。ちゃんと連絡しないと。今夜は無理だから、明日? 会社休むわけにもいかないし、仕事終わりに話ができたらいいんだけど、宗さんがいる……。
 嘘言ったら怒るかなぁ。怒るよね。宗さんに知られないようにこっそりと終えたいんだけどなぁ。

「未唯、さっきからチラチラ携帯を見てるけどなにかあるの?」
「っ、や、なんでもないです。大丈夫です」
「そっか。なにかあったらすぐに言ってね、未唯。解決のための手伝いなら、俺もするから」

 携帯をかばう私の手の上に宗さんの手が重なる。
 大丈夫だよね? 知らないんだよね? バレてないとは思うけど、宗さんだ。なにか知ってるのかもしれない。でも、知らないふりをしてくれてるなら、そのままでいてください。

「宗さん……」
「なに?」
「宗さんはお弁当食べないんですか?」

 私のことずっと見てるけど。

「食べるよ。いただきます」

 宗さんの意識がお弁当にいったことにホッとして、私は携帯を見た。
 ああ、憂鬱だ……。
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