おや? 婚約者の様子が……

りんごちゃん

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 腰が、痛い。股も痛い。身体中が痛い。

「ごめんね、ソフィー。ソフィーがあまりにもかわいくて手加減とか忘れちゃった」

 私の腰を撫でながら、オスカー様は軽く笑う。控えめに言って鬼だと思うの。

「その代わりに、僕と一緒に城下に出かけよっか。僕と一緒なら外に出てもいいよ」
「オスカー様、大好きっ!」
「うん。僕もソフィーのこと鎖に繋いで部屋にずっと閉じ込めたいくらい愛してる」

 前言撤回。オスカー様は天使でした。ちょっと愛情表現が過激すぎるけど。ちょっとじゃない気がするけど。


 そんなわけで視察です。間違えた。視察という名のデートです。

「城下にケーキが美味しいカフェが出来たんだって。ソフィーと行きたいな、と思ってたところだったんだ」
「嬉しいです、オスカー様」

 にこにこと私もオスカー様も機嫌がいい。手は指と指が絡まって、簡単には解けそうにないように繋がれてる。
 オスカー様とこうして城下に行くなんて、何年振りだろう。義妹が出来てからはこうやって二人で出掛けるなんてことはしなかった。
 義妹が来るまでは出掛けてたのに。
 そんなところも婚約破棄すると思った原因だったと思う。
 想いが通じあってからはオスカー様の部屋に監き、いや、軟禁されてたから……。うん、ほんと、ね。不思議……。
 それにしても、護衛が見当たらないけどいいのかな。それとも私がわからないだけで隠れてるのかしら。
 きょろきょろと辺りを見渡していると、オスカー様の手が私の視界を遮った。

「ソフィー、どこを見てるのかなぁ?」
「ひゃっ!」

 耳元で囁かれて肩が跳ねる。ハッとしてオスカー様を見て、自分の行動に後悔した。
 オスカー様、目が全然笑ってないです……。
 さっさと弁解しようと口を開く。

「え、と、あの、護衛はいないのかな、と思って……」
「僕がいるのにソフィーを危険な目に合わせるわけないでしょう? 僕とソフィーのデートに邪魔な人間はいらないと思わない?」

 はい、その通りです。
 こくこくと頷いた私に満足したのか、オスカー様は繋いでいた手を離すと、そのまま腕を絡めさせてから、また手を繋いだ。
 どこからどう見ても、そう。これはバカップルというものなのでは……?
 ギュッと隙間もないくらい密着していると、オスカー様の腕に胸が当たって恥ずかしいし、胸につけられたやつが擦られてどうしても感じてしまう。

「お、オスカーさまぁ……」
「ソフィー、いくら乳首の勃起を隠しておけるからって、乳首勃てて視線で興奮しちゃダメだよ? ソフィーのかわいいさくらんぼが苦しい思いしちゃうからね。ああ、それともソフィーは痛いのが気持ちいい変態さんだから大丈夫かなぁ?」

 オスカー様の言葉にぶんぶんと全力で首を振る。
 オスカー様、まだ私が変態って言ったこと根に持ってる……。半泣きになりながら、自分は変態じゃないと繰り返す。
 私は、変態じゃありません。
 そもそもこの世界に乳首を隠すなんてそんなマニアックなプレイはないはずなのに、どうしてオスカー様は私にそれを強制してるんだろう……。ちなみに絆創膏とか、そんなものはこの世界にはない。私の乳首を部分的に隠しているのはスライムから作られたジェルのようなもの。だからひんやりとしてるし、なんかむにゅっとしてるし、これは私を感じさせるために作ったんですか、って感じのものになってる。
 乳首が勃ってるのは隠せてるかもしれないけど、絶対勃ってる。
 帰ったら絶対色々言われるやつだ。
 ちなみにこのスライムジェルは傷をカバーするためへの実用化を目指しているらしい。私を辱めるために作っているのに、それを民に役立つものとして広めるから、オスカー様は私を監禁してもそれが許されている。むしろ推奨されている。おかしいと思う。
 ……貴族公然の秘密ってなんかやだ。

「はぁ……顔が真っ赤なソフィーは本当にかわいい。食べちゃいたい」
「あ、あの、ここでは、ダメですよ……?」

 外とか無理ですよ? まだしたことがない野外プレイ。ずっとしたくない野外プレイ。まさかオスカー様が私の痴態を他の人に見られるリスクのあることはしないとは思うけど、念のため。
 オスカー様の気分によっては、野外プレイ決行ってなることがありそうでこわい。本当に。
 伺うように言った私の顔を、オスカー様がわざわざ立ち止まって覗き込む。

「それはここ以外でならいいっていうお誘いかな?」
「っ! ちがっ、ぁ、わ、ない、です……」

 反射的に違うと言おうとして、慌てて変えた。
 別にオスカー様の目が恐かったとかじゃない。ただオスカー様なら、私が違うと言った時点で「じゃあここでシたいってお誘いかな?」となるに違いないと思った。そしてその問いの答えが「はい」となるまで問いかけは終わらないループになるに違いない。
 私の答えにオスカー様はにんまりと口角を上げて楽しそうにまた歩き始めた。それにいくぶんかホッとして、私も足取り軽くオスカー様に続く。
 けれど、オスカー様の呟いた言葉に私は固まってしまった。

「そっかぁ。なら、城のてっぺんとかかなぁ。あとは裏庭もありかな。ちゃんと場所は探しとかなくちゃねぇ」

 や、野外プレイから逃げられてない……!
 ありじゃない、ありじゃありません、オスカー様。
 固まって動かない私にオスカー様は「どうしたの?」と訊ねてくださるけど、絶対わかってる。わかっててやってる。

「そ、そとは、」
「でも、ソフィー。ソフィーはここ・・以外でならしたいって誘ってくれたでしょう?」
「それは、そのぅ……」
「ダメだよ、ソフィー。王族たるもの自分の言葉を簡単に覆しちゃ」

 ほら行くよ、とオスカー様に引っ張られて、また歩き始める。
 私、まだ王族じゃないって言えなかった。まだ私ただの公爵令嬢……。一応お祖母様が異国の元王女だけど、末端だったし。王族とは言えないのでは? 言えないよね。
 だから言葉を覆しても許されるのでは?

「オスカー様、やっぱり私っ」

「あれ、オスカー?」

 意を決して言葉を出そうとしたところで、後ろから声がかけられて言葉が詰まってしまった。
 振り向こうとしたところで、オスカー様が私を隠すように私の前に立った。

「どうして君がここにいるのかな?」
「んー、暇だからさぁ。女の子たちとデートしようと思って」
「城の人間を撒いたのか……」
「だってデートに護衛は無粋でしょ?」
「だからといって、君になにかあったら問題を問われるのはこちらだよ」

 オスカー様、ブーメランになってます。オスカー様もさっき護衛はいらないとか言ってました。
 それにしても、オスカー様のことを呼び捨てにするということは、この人がルバーニ殿下?
 女の子たちとデートって、噂に違わず女好きみたい。
 顔を見てみたい気もするけど、そんなことがバレたら監禁されるのでおとなしくオスカー様の背中の服を縋るようにぎゅっと握り締める。

「それよりさぁ、オスカーの背中にいる子って? もしかして結婚前なのに浮気?」
「あ゛?」

 ピシッと空気が固まった。そしてひんやりとした冷気がオスカー様から漂ってくる。
 な、なにをおっしゃってるの、ルバーニ殿下。オスカー様相手に「浮気?」だなんて!正気か、この人!
 冬でもないのに辺り一帯に霜が降りてきた。これ、絶対オスカー様の魔力が暴走してる。民たちも私たちを恐ろしいものでも見るかのような視線で見てくるし。たぶん、みんなオスカー様が王太子って気付いてるんだよね。オスカー様、ほとんど隠す気ないもの。髪色だけしか変えてない。
 けれどあえてみんなが知らないふりをしてくれるのは、オスカー様を慕ってくれているから。息抜きのために城から出てることは知っているから、あえて知らないふりでいてくれてるのだと思う。ちなみに私も婚約者だと知られていると思うけど、監禁されてたって事実は知られてないと思いたい。
 いや、仮にも王太子が婚約者を監禁とか醜聞だし、知られてないはず。
 みんなピリピリとしてて場が凍ってる、そんな雰囲気なのに、ルバーニ殿下はへらへらと「冗談冗談~」と笑ってる。
 もはやさすが2のラスボスだわぁ、って感想しか出てこない。

「婚約者のソフィア嬢でしょ? わかってるてぇ」

 そしてチャラいな、ルバーニ殿下。
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