おや? 婚約者の様子が……

りんごちゃん

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 チャラい、チャラすぎる。

「初めまして、ソフィア嬢。俺はルバーニ。バニーって呼んでね」

 オスカー様を押しのけて、ルバーニ殿下は私に挨拶をしてきた。
 一応、オスカー様の背中に隠れてるんだけどな。ルバーニ殿下、ちょっと強すぎじゃない?
 ルバーニ殿下のデート相手たちは貴族で、オスカー様が私のことを監禁するほど溺愛していることを知っているのだろう。とんでもないものを見るように青ざめた顔でルバーニ殿下を見つめてた。彼女たちはここから離れるようにどんどん後ずさってる。
 私も逃げたい。

「はじめまして、殿下。ソフィア・ロマンスと申します。このような格好でのご挨拶となり申し訳ございません。正式な場でご挨拶できればよかったのですが」
「ああ、全然気にしないでいーよ。俺、堅苦しいのって苦手だし。あ、でも……」

 そう言ってルバーニ殿下はオスカー様を押しのけて私の手を取る。咄嗟に手を引こうとしたけど、思った以上に力が強くて手を引けなかった。

「かわいくて綺麗な格好したソフィーちゃんは見たかったかな」

 ドゴンッとなにかが落ちた音が聞こえた気がする。
 私の手の甲に口付けしたルバーニ殿下に冷や汗が止まらない。オスカー様の方が見れない。オスカー様を見るのがこわい。
 本気? ルバーニ殿下、本気なの? オスカー様の本気の魔力にそんな平然としてられるの? こわい。ラスボスこわい。
 グッと私の肩を引き寄せてルバーニ殿下から引き離したオスカー様の顔が見れません。

「一国の王子が友好国の王太子の婚約者に手を出す気?」
「まさかぁ。俺はなにもしないよ。ただの挨拶だって。オスカーはそんなに余裕がなくて大丈夫なの?」

 ひぇ……。
 なんで、どうして。なんでルバーニ殿下はそんなにオスカー様を挑発するの? 嫌がらせなの? こわい。無理。
 私の肩を掴むオスカー様の力が強過ぎて、私の肩が死にそう。やめて、まだ私は健康な身体でいたいの。
 でもここで身動ぎなんてしたらオスカー様が頭おかしくなりそうだから、動くに動けない。こわいよぅ……。
 そしてとうとうこの場には私とオスカー様とルバーニ殿下以外いなくなった。ルバーニ殿下と一緒にいたご令嬢方はいつのまにか避難していた市民たちと一緒に遠巻きに私たちを見つめてる。私もそっち側に行きたい。

「余裕がないなんて当たり前でしょう。僕は彼女相手だといつだって余裕がない」
「それ、危ないんじゃないの~? そんなんで結婚して大丈夫なの?」
「余裕がないのは心底愛してる証だと思うけど。それがわからないなんて人を愛したことがないんじゃない?」

 胃が痛い。とっても胃が痛い。
 にこにこと笑顔でやり取りしてるオスカー様とルバーニ殿下。声がなければきっと絵になるんだろうなぁ、と思う。
 側で聞いてる私は本当に恐怖で倒れそうだけど。

「お、オスカー様、早く店に行きましょう? これ以上お引止めしては悪いわ」
「そうだね。じゃあ、ルバーニ。僕らはここで……」
「俺も二人と一緒にいたいな」
「は?」
「だって、ほら。俺と一緒にいた彼女たち、オスカーたちに遠慮していなくなっちゃったし」

「三人でデートしよ」

 それは、なんていう地獄ですか………。

「無理」
「じゃあ、ソフィーちゃん。俺とデートしない?」
「え、と……」
「ルバーニ。いい加減にして」

 苛立ちを隠さないオスカー様がルバーニ殿下から私を隠す。
 ルバーニ殿下はなにを考えてるんだろう。普通に考えたら王太子の婚約者になんて手を出さないと思うけど。
 やっぱりこの国の乗っ取りを考えてるのかな。それで手始めに私から情報を取ろうとして……? それにしては婚約者の前で口説こうとするなんて杜撰。

「ソフィー、行こう」
「でも、」
「……なぁに。ソフィーはまさかルバーニと一緒がよかったの?」
「まさか! けれど、友好国の王子を市中に一人にしてもいいものかと……」
「そうだよ。護衛もいない俺を一人にするとか、悲しいな~」

 我が国の乗っ取りを考えてるかもしれないとはいえ、ルバーニ殿下は友好国の王子様。そんな人を護衛もなしに一人にするのは国際問題に関わる可能性がある。
 そうなったらルバーニ殿下を接待しているオスカー様の王太子としての責任問題になる。私が関わったせいでオスカー様の王位が揺らぐなんて、そんなのは絶対イヤ。
 だけど、ほんとお願いだからルバーニ殿下は黙ってほしい。ほんと。お願いしますから。

「僕よりも、あいつを取るの……?」

 ルバーニ殿下に届かないような本当に小さい声でオスカー様が呟いた。

「そんな、ちがっ、」
「いいよ、わかった。そうだね。友好国の王子を一人にするわけにはいかないもんね」

 焦燥感を感じて声を荒げたけど、オスカー様の冷え冷えとした声に遮られる。
 どうしよう。オスカー様が、今まで聞いたことないくらい暗くて冷めた声をしてる。

「やった、話がわかるね。オスカー、ソフィーちゃん」
「仕方ないよ。けど、ソフィアのことをソフィーって言うのはやめてね。ルバーニがソフィアのことをそういう風に呼んでたら、周りの人間が誤解するかもしれないだろ?」
「あははは、気をつけるよ」

 オスカー様はルバーニ殿下に私は大切な人だからと注意するけど、私に触れていた手は私から離れていた。
 それがまるでオスカー様の心のようで不安になって、オスカー様の名前を呼んだ。

「オスカー様……?」
「どうしたの、ソフィア」

 にっこりと、オスカー様は笑ってる。その笑顔は普段と変わりない。けれどオスカー様のはっきりとした拒絶に私は気付いてしまった。

 だって、オスカー様は私のことをソフィアなんて呼ばないもの。

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