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暇つぶしの盗賊狩り

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弟くんの修業の相手をするほど、佐助は暇を持て余していた。
姉妹や娼婦たちは屋敷のメイドたちと仲良くなり、メイドたちの仕事を手伝ったりしていた。
しかも、娼婦たちは屋敷の手伝いだけではなく、ロリビッチである時読みの夜の相手をして、多額のお小遣いをもらったりしているようだった。
それに私は口を出さない。娼婦は店の常連で姉妹はサバトから救い出したからついでに連れて来ただけで、彼女たちがどうしようと勝手である。
ロリビッチにかわいがられたいなら好きにすればいいし、灰色との戦いを前に彼女たちはここに置いていくつもりだから、その方が都合がいいともいえる。
忍び二人の木刀が同時に折れた。すると、ためらうことなく二人は素手での殴り合いに移った。
稽古ではなく、死闘だ。隙間空間の扱いを練習していた弟くんも、二人の殺気に気づいて、その殴り合いに視線を向けた。
やばいとは思ったが、その場の誰も二人を止めようとはしなかったが、そこに時読みが現れた。
「あらま、派手にやってるわね」
佐助は鼻血が出ていたし、くノ一は唇が切れていた。
「さっきはしびれ薬をまいたみたいだけど、私たちの周りにはもっといいものがあるの。知ってる?」
時読みは弟くんに教えるように話し掛けた。
「おいおい、また俺の邪魔するつもりか?」
殴り合いを楽しんでいた佐助が時読みを見る
「これ、この子に強いってどういうものか見せるためのものでしょ。なら、私が口出ししてもいいじゃない」
「なっ・・・」
佐助が文句を言おうとして、急に口をパクパクさせ始めた。
「この世界には、隙間の空間があるけど、私たちのまわりには他に空気ってのが、あるのよ。ほら、風を操る魔法があるでしょ、あれで操っているのが空気なのよ」
佐助は何か言いたそうな顔で慌てていた。
「ふふふ、息ができなくて苦しい、少しは頭が冷めたかしら、ほら、水に顔をつけると息苦しくてすぐに顔をあげるでしょ、それは私たちが生きるために周りにある空気が生きるために必要だからよ。だから、それを操れば、いくら強者ぶっても、御覧の通り。どんな強者でも、空気を吸えないようにしたら、しびれ薬を撒くより、簡単に相手を弱らせられるわ」
佐助は水の中で溺れるようにジタバタして、顔が真っ赤になっていく。くノ一がそのざまに呆れつつ、彼女も拳を止めた。
「少しは頭が冷えたかしら、もういいかしら」
時読みの言葉にブンブンと佐助がうなずき、彼女は魔法を解き、彼は「ぶふぁ~」と大きく息を吸い込んだ。
「風を操る魔法は、魔法の基本だから、それを応用して空気が喉から奥に行かないようにするの。口から逆に空気を吐き出させる感じかしら」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
佐助は大きく呼吸を乱し、もうくノ一と殴り合いをする気力はなくなっていた。
「武器を取り出すのは苦手そうだから、こういう魔法も覚えてみたら。それから隙間空間から物を出すのが苦手みたいだから、一つ助言、物には念が込められるのよ」
「念?」
「ほら、呪いの指輪とか、これを持っていたら不幸になるとかいう、あれ、不幸になれっていう人の念がものに染み込んでいるからなの。呪いを込められた物が呪物、物に宿らせずに飛ばして対象者にぶつけるのが呪詛。だから、武器にお前は俺のものだ、俺が呼べばすぐに出て来いって念を込めるの、ものには魂が宿る、確かそちらの忍びさんの国の考え方よね」
「え、ええ、物を大切に扱うようにって戒めみたいなもんですね」
佐助が呼吸を整えながら答える。
「とにかく、そんな感じで、自分の扱う武器に愛着を持って囁くと、その念が移って呼ぶと使い魔みたいにすぐ出てくれるようになるわ。あなただって、その槍に愛着を持って長く使っているから、すぐに呼び出せるんじゃないかしら」
槍使いが自分の獲物をブンと振り回す。
「そうですね、道具に愛着を持って大切に扱えば、道具もそれに応えてくれると思います」
色々と教えてくれた時読みに弟くんはぺこりと頭を下げていた。
「あ、ありがとうございます。参考になります」
「それにしても、そっちのふたりは、ずいぶんと血の気が多そうね。そんなに血を流したいなら、ちょっと仕事をしてみない?」
「仕事?」
顔にあざを作った忍びふたりが首を傾げる。
「もうすぐ、ここにこの辺りの領主の使者が盗賊退治の助力にくるはずなの。盗賊のねぐらを教えるだけにしようと思ってたけど、あなたたちを見てその盗賊退治を引き受けようかなと思って」
「俺たちに盗賊退治を?」
「そうよ。それぐらい血の気があるのなら、どうかしら」
「ちょっと待ちなさいよ、そういうのは私を先に通してよね」
時読みの姿を見かけたので、私も中庭に出た。忍びは私の護衛であり、それを無視して話を進められては困る。
「あら、私の読みでは、あなたは反対しないと思ったんだけど」
「ええ、反対はしないわ。ちゃんと、報酬は出るわよね」
「もちろん、この私が、金を出さないケチに見える?」
「だから念のためよ」
「大丈夫、ここの領主は、筋は通す方だから、盗賊を退治したら、ちゃんと報奨金を出してくれるわよ」



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