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第二章
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しおりを挟む「ギャレットがグレンドールへ!?」
私の涙が止まり、今日あった出来事を話すとアンリ様は珍しく冷静さを欠いた様子で聞き返してきた。
私の手の痣もギャレットがつけたものだと知ると眉間に皺を寄せ何かを考え込んでいる。
「エルフィリアよく聞いて欲しい。おそらくあなたはギャレットに目をつけられてしまった。」
目をつけられる…?一体どういう事?
「ギャレットはあなたを我が物にしようとするはずだ。」
「我が物……?私を? 」
アンリ様は真剣な顔で頷き私を再び抱き寄せた。
「何て事だ…!!エルフィリア…!!」
私を抱く腕の力の強さに苦しくなる。
「アンリ様…苦しい……」
しかし腕の力が弱まる事はない。
「エルフィリア…嫌だ…あなたまで奪われたら私は…私はもう生きていけない…!!」
その声は切なく、聞いている私まで心を抉られるような悲しい悲しい叫びだった。
アンリ様はどんな気持ちでその言葉を言っているのだろう。正確には私がいなくてもアンリ様は生きて行ける。でもアンリ様は私を奪われたら生きて行けないと言った……。
「…もしも私に何かあっても……」
口は勝手に動き出す。本当は言いたくもない、思ってもいない事なのに。
「グレンドールの優秀な魔法使いならアンリ様の命を繋ぐ事が出来ます……。」
私の言葉にアンリ様の顔が苦しそうに歪む。
その表情に私の胸もドクドクと激しく音を刻み、嫌なものが身体を駆け巡った。
心と反対の事を口にすると、人はこんな状態になってしまうのか。手は震え、かきたくもない汗が身体のあちこちから吹き出る。汗は出ているのに身体は冷たく、まるで凍ってしまったかのように硬い。
その時だった。
アンリ様の瞳から一粒の涙が落ちた。
……私は何をしているんだろう。
会いたくて会いたくてここに来たのに。
それなのに自分の心を偽って。
アンリ様の涙がどんな意味なのかはわからない。でも悲しいから泣いているんだ。私のせいで。
伝えたいのはこんな言葉じゃない。
こんなんじゃどんなに頑張ったって未来で誰も幸せになれない。自分ですらも。何のために…私は何のために戻ってきたの…?少なくともこんな事のためじゃない。
あの時の私だって本当は何か出来たかもしれないんだ。素直になって、アンリ様という人をちゃんと見ていれば、もう少し違う結末が待っていたかもしれない。
「…アンリ様……」
声が震える。怖い。拒絶されてしまうのが。
「アンリ様はあの日現れたのが私じゃなくて他の誰かだったら力を受け取った……?」
ずるい聞き方をしてるのわかってる。
それでもどうしても聞きたかった。アンリ様の口から。“エルフィリア以外からは受け取らない”と。
「…受け取ったと思うよ。」
彼は私の目を真っ直ぐに見つめて言う。
ショックだ。わかっていたけどものすごくショックだ。
私が特別な訳じゃない。たまたま来たのが私だっただけなんだ……。
目頭はひどく熱く、けれど込み上げるものを必死で堪えた。生きようとするアンリ様の気持ちを泣いて否定する訳には行かない。
すると私の様子を見ていたアンリ様はすぐに慌てるようにして次の言葉を紡いだ。
「でもエルフィリアとするように唇からは絶対に受け取らない。どんなに時間がかかろうと手から貰っていたよ。それに…こんな風に自分のベッドに誘う事も、抱き合って眠る事もしない。それは絶対だ。」
絶対に?どうして?そんなのわからないじゃない…。
「私はずるいんだ。」
「ずるい…?アンリ様が?」
彼はばつの悪そうな顔をしている。
どんなところがずるかったと言うのだろう。
アンリ様はいつもどんな時でも私の言葉を信じてくれた。優しく包んでくれていた。
それに…どっちかといえばずるいのは私の方だわ。私は臆病者の意気地無し…。
「きちんと気持ちを伝えるのが怖くて…魔力を貰うためだと理由をつけて…本当はただあなたに会いたかったんだ。あの日…あなたが私のところに来てくれた日に私はあなたを………。いや、どんなに言葉を並べても駄目だ。」
アンリ様は真剣な顔をして私に向き直る。
これから何を言われるのだろう。
“君とはただ魔力をもらうためだけの関係だ”とか?“余計な期待はしないでくれ”かもしれないわね…。
けれどアンリ様がくれたのは、そのどれでもなかった。
「愛してるよエルフィリア。」
魔力を貰うためじゃない口付けが、優しく私に降りてきた。
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