21 / 61
フローラのパーティー
しおりを挟む思い出した。
フローラはこういう子だった。曇り空を割る太陽の光のような明るさで、人の心を照らしてくれるのだ。
フランツと結婚してからというもの疎遠になってしまい、会うことは少なくなってしまったが、もしもあの時彼女が側にいてくれたのなら、私も自死なんて道は選ばなかったかもしれない。
「ねえリズ、たくさん話したいことがあるんだけど、まずは飲み物を取りに行きましょ?」
笑顔のフローラに連れられて、飲み物が用意されたテーブルへと向かう。
赤と白のワイン、色とりどりのカクテルに果実水。
どれにしようか悩んでいると、背後になにか嫌なものを感じ、顔を向ける。
「え……なんで……?」
そこには小鹿のようなつぶらな瞳をこちらに向けて、所在なさげに佇む一人の女性の姿があった。
一度だけだが、ロイスナー子爵家で見たその姿は今も忘れはしない。
フランツの恋人ニーナだった。
心臓がバクバクと音を立て始め、顔から血の気が引くのがわかった。
なんでこんなところにニーナがいるのだろう。
まさか、ニーナはフローラのお眼鏡に適ったとでも?
こんなことは言いたくないが、フローラのパーティーは貴族の憧れだ。
出ようと思って出れるような場所ではない。
教養などはもちろんのことだが、参加するにはそれなりの装いでなくてはならない。
ニーナの生家は困窮する男爵家。
見るとやはりと言うべきか、ドレスはもう何年も前に廃れた形の着古されたもので、あちこちにほつれや汚れが目立つ。
もしかしたら母親のお下がりか、中古で手に入れた品かもしれない。
フローラに招待される人たちは皆良識人だから、あえて口には出さないけれど……彼女の周囲にいる人たちは、チラチラと珍しいものを見るような視線を向けていた。
「ね、ねえフローラ……あの方、あなたがご招待したの……?」
動揺を悟られないように、扇で口元を隠しながら聞いてみたけれど、返ってきた答えに私は耳を疑った。
「いいえ。私が呼んだのは彼女じゃなくて、彼女の知り合いの方よ。彼女に招待状は送っていないんだけど、一緒に入るって聞かなくて……追い返すわけにもいかないから仕方なく……ね」
「彼女の知り合い?」
「ええそう。今日は久しぶりに会えるリズを喜ばせようと思って、頑張ってすごいゲストを用意したんだから!本当に苦労したわ~。なんてったって今をときめく英雄ですもの!あちこちからお誘いが多いらしくて……って、どうしたの?リズ」
聞き捨てならない単語に身体が固まる。
英雄……?今フローラ“英雄”って言った?
ちょっと……それってまさかフランツのことじゃないでしょうね。
でも彼は社交界が嫌いだから、まさかそんな……いやでもニーナの知り合いの英雄なんて、そんな条件が当てはまる人間は世界広しといえどフランツしかいないわ!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,566
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる