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しおりを挟む「どういうことだ!!」
王太子ローレンスは荒ぶっていた。
なぜならラザフォード侯爵家に向かわせた使者が目的も果たさずに帰ってきたからだ。
「殿下!も、申し訳ございませんでした!!」
「謝罪はいい!なぜこんなことになったのかと聞いている!!」
「そ、それが……ラザフォード侯爵邸になぜかイアン殿がおられまして」
「イアンが!?」
「はい。どうやらイアン殿はアナスタシア殿下の命を受け、アーヴィング・ラザフォードの身辺を警護しているようです」
イアンはローレンスと同い年の乳兄弟で、子供の頃からずっと一緒に育った仲だ。
幼い頃は、水の早飲み競争をして吐いたり、冬のみぞれ混じりの日に、下穿き一枚で王宮の池で泳いだりして周りを泣かせたものだ。
ちなみにイアンが騎士団へ入ることになったのも、二人で騎士団の詰め所の壁にそれはそれは下品な落書きをして、当時の団長に取っ捕まったのが原因だ。ローレンスは王太子だったので入団はさせられなかったが、頭蓋骨がへこむかと思うほど強烈な拳骨をくらった。
王太子に拳骨などと正気の沙汰ではない。しかしグランベル国王である父と王妃である母の教育方針は非常におおらかであり、悪いことをしたら相応の罰が下ることを息子が経験するのを大いに歓迎していた。
そんなこんなでローレンスにとってイアンはただの幼馴染みというだけではなく、誰よりも信頼できる護衛兼側近であった。
だが気安い関係を許しているからこそぶつかることも多々ある。
先日揉めたのも、イアンがローレンスのプライベートに口出ししてきたからだ。
最終的につかみ合いの喧嘩に発展し、イアンは護衛を降りると言って古巣へ戻って行った。
どうせしばらくして頭が冷えたら戻ってくるだろうと高を括っていたローレンスだったが、予想は外れ、いつまで経ってもイアンは戻って来なかった。だから、不本意ではあるがそろそろこちらから折れて迎えに行ってやろうと思っていたのだ。
それなのに、イアンがまさか妹に手を出そうとしている男の護衛についたとは。ローレンスは絶句した。
ローレンスは使者を下がらせると椅子に腰を下ろし、深いため息をついた。
イアンは昔から本心を隠すのがうまい男で、気安さを許していてもどこか線を引いたような控えめな態度には、ローレンスの家族も好感を抱いていた。
イアンの生家の爵位は子爵家とそう高くはないが、母親が王太子の乳母、そして自身は側近も兼ねた護衛を務め禄を得ることで、少貴族にありがちな領地の赤字経営もなんとか免れている。
ローレンスは、いずれはイアンの爵位を引き上げることを検討していた。
それはひとえに幼馴染だからこそ知り得た彼の本心のためだ。
子爵では、王女を娶ることなどとてもできないから。
「それなのになんでそんな奴の護衛なんか引き受けたんだよ……」
幼馴染みの心がこれほどわからなくなったのは、初めてのことだった。
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