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1章
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しおりを挟む姿を現したアランは私を見て気まずそうに笑った。
「……お久しぶりです、マリーお嬢さん。」
品のある濃紺の生地で仕立てられた制服は、王族の護衛の印だ。
「ア、アラン………あなたまさか………」
まさか、ユリシス様の護衛だったの!?
「そう。アランは私が五歳の頃から護衛をしてくれているんだ。」
「そんなに前から!?」
考えもしなかった。だって一度もアランの姿を見た事がなかったから。
「でもユリシス様の護衛ならずっとお側にいるはずでしょう?どうして今まで一度も会えなかったの?」
「それは私が悪い。アランにはしばらくマリーに姿を見られないよう頼んでいたんだ。」
何でそんな事する必要が?わからない事だらけだ。
「マリー、私は九歳の頃、突然奇声を上げて暴れる病にかかったそうなんだ。アランの情報だけどね。」
「は?」
アランが苦虫を噛み潰したような顔でユリシス様を見ている。
突然奇声を上げて暴れる病とは、どんな難病なのか。療養院でも聞いた事が…………………
療養院……………
【兄さん、急にどうしたの?びっくりしたわ。それに……その子は……?】
【あぁ、今日はこの子の事で先生に診てもらうんだ。知り合いの息子なんだけど、急に奇声上げて暴れたりすることがあるらしい。極度の人見知りで、フードがないと人前にも出れないんだ。】
「!!!」
「思い出した? そう。あの時フードをかぶっていたのが私なんだ。」
ま、まさかあの男の子がユリシス様だったなんて…………!!
「どうしてもっと早く言って下さらなかったのですか?アランもひどいわ!ずっと黙ってるなんて!」
「………すみません………。」
アランが申し訳なさそうに頭を下げる。
でも私の気持ちも考えて欲しい。この三ヶ月、訳がわからず何度悩んだ事か。家族が何かよくない事に巻き込まれているんじゃないかとビクビクしながら過ごしたのだ。ユリシス様が私を知っていたと一言伝えてくれればこんなに悩むこともなかったのに……。
「本当にごめんねマリー。アランを怒らないでやって。全部私がアランに頼んだんだ。あの時君は人と会うのが怖いと言っていただろう?私と初めて会う時、きっとものすごく緊張しながら来るのだと思ったら、この話はもう少し打ち解けてからゆっくりしたいと思ったんだ。」
……確かに、あの時の私は大変な状態だった。
招待状が届いたとの知らせに頭が真っ白になり、更にそれが王家からと知り、絶対に断る事のできない状況に身体は震え、横でケタケタ笑う姉に怒りが頂点まで込み上げアニーのところへ駆け込んだ。
アランも黙っているのはいい気分じゃなかっただろうし………ユリシス様の言う通りだ。
「本当はもう少し前に招待状を送るつもりだったんだ。そうしたらマクシムの……オットー公爵家の事があって……。ごめんね。時期的にも君に余計な心配をさせてしまったよね。」
した。すごくした。ベッドの上を転がり回るほどに。
「私はね、君に初めて会ったあの日、君と結婚したいと思ったんだ。」
………え………!?
「ふふっ、すごい顔してるねマリー。本当だよ。アランが証人。ね、アラン?」
「………本当です。だから俺はあの日から今までずっと後悔してます……こんな人をお嬢さんの所へ連れて行ってしまった事を………。」
“こんな人を”って………アランあなた………。
「それで、ここからが私の“大切な話”。アラン、皆も少し下がっていてくれ。」
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