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1章
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しおりを挟む人払いをした後ユリシス様は席を立ち、私の側で跪いた。
「マリエル。私は君と生涯を共にしたいと思っている。私の全てを君に捧げる。だからどうか私と婚約して欲しい。」
いつも柔和に微笑んで私を包み込んでくれるユリシス様の、こんなにも真剣なお顔を初めて見る。
本当に、本気なのだろうか。でもたった一度会っただけの私をどうしてそこまで………。
何も言えない私にユリシス様は優しく微笑む。
「マリー、隣に座ってもいい?」
コクンと頷くと、肩の触れる距離に座る。
感じる体温に、胸が早鐘を打つ。
「………あの時、アニーの脚を優しく擦る君の姿に私は衝撃を受けたんだ。公爵家のご令嬢が冷たい石の上に直に座って、平民の子の脚を楽しそうにほぐしてあげて……。」
アニーはとても寒がりだった。いくら膝掛けを増やしても顔色は良くならない。幼い私はそれが血の巡りが悪く芯から冷えた脚のせいだと気付くまでしばらくかかった。
慌てて厨房に駆け込んで湯を貰い、東屋で脚をほぐしてあげた時のアニーの笑顔は今でも忘れていない。
「あの時のアランの紹介聞いたでしょ?奇声上げて暴れる対人恐怖症の子供って、明らかに危険じゃない。それなのに君は怖がらず自分の事を話してくれた。」
深くかぶられたフードで顔は見えなかったけど、怖くなかった。私を傷付ける人達は皆嫌な空気を身体中に纏わせてるからすぐわかる。
「私はその頃この国唯一の王子で……その、何というか子供らしくない子供だった。汚い場所を生き抜く事で精一杯でね……。いつしか自分の気持ちすらよくわからないようになっていて……それなのに君には自分の心からの言葉がスラスラ出てきたんだ。」
あの言葉が、どれだけ私の支えになったか。
幽霊と言われた髪が特別な物に思えるようになったのもあの男の子のおかげだ。
「再会した君はとても美しい大人の女性になっていて、相変わらず私は君に会うと自分の気持ちが勝手にスラスラと口から出て行って……軽い男だと思ったでしょ?」
思った。水飴ぶっかけ男だと。
「でも全部本当の気持ちなんだ。君の側にいて君の優しくて綺麗な心に触れてる時だけ私は何も持たないただのユリシスになる。今ではこの時間をいつか他の男に奪われてしまうんじゃないかと思うだけで気が狂いそうになるんだ。君を誰にも渡したくない。君に触れるのは私だけじゃなきゃ嫌だ。だから………」
ユリシス様の手が私を引き寄せて、その広い胸の中にしまう。
「婚約……いや、結婚して欲しい……。」
優しく髪を撫でられる。ユリシス様の優しくて爽やかな匂いと温かい体温に、ドキドキするけど安心もしてしまう。
無意識に抱き締め返してしまった私をユリシス様は軽々と膝の上に乗せ額を合わせる。綺麗な瞳が熱を持って私を見つめている。碧なのか翠なのか、不思議なそれに見とれていると、ゆっくりと、まるでお互いの息を溶かすように近付いて、触れた。
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