【本編完結】マリーの憂鬱

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2章

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    その後、なかなかマーヴェル家の長男の似顔絵を直視できない私に

    「こうしちゃえばいいよ。」

    シャルル様が絵筆を滑らせていく。
    シャ、シャルル様これは………。
    彼の髪の色と同じ赤い絵の具が鼻の下に線を描く。

    「ほら、どうマリー?鼻毛~。ハハッ。」

    ついでにメガネもつけとくね、と変なメガネも描き足される。

    「辛いだろうけど彼は必ず出席するはずだよ。兄上の婚約者候補になったマリーの話を聞いていたとしたら尚更ね。だから、とりあえず顔を見ることだけは慣れておこうね。」

    これ一枚を描くのに相当な時間を費やしただろうに、シャルル様はあっさりと似顔絵に落書きをしていく。
    確かに、鼻毛が飛び出ただけで少し見るのが平気になってきた。不思議だ。

    「マーヴェルの所は…僕が生まれる前の話だから聞いたことしかないんだけど、少し家庭環境が複雑らしいよ。ダニエルは嫌な奴じゃないんだけど、少し女性にだらしないところがあるみたいでね。ジョエルと下の弟達は母親も違うらしい。」

    初耳だ……。お父様は人の噂話をするような人じゃなかったから知らなかったけど、きっと貴族の間では有名な話なのだろう。

    「僕が見たジョエルの印象は……妬みの塊……って感じかなぁ。」

    「妬みの……塊?」

    「うん。一見爽やかな好青年っぽいんだけど、ある人種に対して会話の後に睨めつけるような目をするんだ。」

    「ある人種…?」

    「そう。何て言ったらいいかな……妬みにも色々あるでしょ?お金持ちだから羨ましいとか、地位が上の人間が羨ましいとかってね。でもジョエルのはそのどれとも違う。愛されて育てられたんですねっていう人を妬むんだ。愛情を受けて育った人って一目見ればわかるでしょ?」

    確かに愛を受けて育ったであろう人は特有の雰囲気がある。ユリシス様とシャルル様もそう。

    「初対面だろうが関係なく憎悪の対象みたいなんだよ。気に入らなくて仕方ないって感じ。僕と兄上は王族だからさすがにジョエルも表情には出さないけど隠しきれてない。あれは相当拗らせてるよ。」

    可哀想な生い立ちなのかもしれないが、だからと言って私にしたことが許される訳じゃない。

    「そう。だから絶対に許してはいけないよマリー。あいつはちょっとやそっとじゃ改心なんてしない。わかるんだ。何となくね。そしてああいう奴は一度目を付けた獲物へとても執着する。」

    「許さない事は…悪い事ではありませんか?」

    でも不安で聞いてしまう。それもこんなに年下のシャルル様に。

    「悪いか悪くないか、許すか許さないか、それは他の誰でもないマリーだけが決められる事だよ。だから、自分の心の声にしっかりと耳を傾けるんだ。どうすべきなのか今は迷っていても必ず答えが出る時が来るから。だから自分の事だけ考えるんだ。相手に同情して引きずり込まれては駄目だからね。」

    真っ直ぐ私の目を見つめるシャルル様は、私の知っているどのシャルル様とも違う。
    これが王家に生まれた人なんだ。
    幼さを盾に逃げていたあの頃の私とはまるで違う。
    天使のように、ともすれば弟のようにも思っていたのかもしれない目の前の少年は、遠い先を見据える男の人の目をしていた。

    「シャルル様……。シャルル様は私よりずっと大人ですね。マリーは助けられてばかりです。何にもお返し出来るものがないのに……。」

    私がそう言うとシャルル様はやれやれと言った顔をした。

    「マリー。マリーにも大切な人がいるでしょう?その大切な人に何かしてあげたいと思っても、自分のために何かして欲しいと思った事ある?」

    それは……ない……。
    喜ぶ顔が見たいと思った事ばかり。

    「マリーは受けとる事に慣れていないんだよ。今のマリーに必要なのは、自分を大切に思ってくれる人の気持ちを素直に受けとる事だね。」

    よしよしと、子供にするように頭を撫でられる。

    「大丈夫。僕が一生マリーを甘やかしてあげるからね。」

    シャルル様は私の頭を撫でながらしっかり宿題の似顔絵を選ぶ。

    「とりあえず今日の宿題は10枚かな。ゆっくり覚えればいいから無理はしないでね。マリーが無理じゃなければ兄上との約束の日じゃなくてもいつでもおいで。待ってるから。」

    「はい…。シャルル様、今日は本当にありがとうございました。何だか憑き物が取れたような感じです……シャルル様のおかげです。」

    瞼を腫らして出てきた私に護衛のリアン様が難しい顔をしてシャルル様を見ていたけど、シャルル様は

    「違う。」

    とだけ言って私を見送ってくれた。








 
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