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しおりを挟むそれから三日間、アルウェンはサリオンの寝室で過ごした。
熱は二日目には下がっていたのだが、サリオンからの強い要望で、大事をとって休むことになった。
いつもは執務室に向かえば夜まで戻らないサリオンだが、昼の休憩時間になるとアルウェンの元を訪れて、様子を確認すると戻って行く。
サリオンとアルウェンの仲睦まじさは、今皇宮内で一番注目を集める話のタネだった。
「お熱が下がられて、本当にようございました」
「皆に迷惑をかけてごめんなさいね」
アルウェンは、アルマが用意してくれた薬湯に口をつける。
「私どもはなにも……ほとんどは殿下がなさってくださいましたので」
アルウェンが体調を崩した三日間、サリオンは忙しい合間を縫って、なんだかんだと世話を焼いてくれた。
熱で身体が動かせない時は食事の介助まで。
そんなこと、家族にもしてもらったことがない。
だから、目の前に運ばれたスプーンに向かって口を開けるまで、かなりの時間を要した。
要は恥ずかしかったのだ。
「今、皇宮中が殿下とアルウェン様の仲睦まじさに沸き立っておりますわ」
「仲睦まじさってそんな」
──私たち、まだなにもしていないのに
アルウェンは、口から出かかった言葉を飲み込んだ。
サリオンとは毎晩一緒に過ごしてはいるものの、彼はアルウェンに房事を求めない。
子をなすことは、彼にとってもアルウェンにとっても大切な役目だというのに。
(もしかして、私がまだユラン様とのことで傷ついていると思っているのかしら……)
サリオンは、婚約者と無理矢理別れさせられたアルウェンの気持ちを思いやり、この先もずっと一緒にいるのだから、焦る必要はないと言った。
けれど、果たしてそれは本心なのだろうか。
アルウェンがそう考えてしまうのには理由があった。
あれだけ長く一緒にいたにもかかわらず、ユランはただの一度もアルウェンを女としては見てくれなかった。
婚約者の義務として、優しくしてくれていただけ。
もしかして、サリオンもそうなのだろうか。
男としての本能を奮い立たせるにはアルウェンでは物足りなくて、それで毎夜あのようにただ寄り添って眠るだけなのだろうか。
義務として結婚はしたものの、アルウェンには女性としての役割を求めていなくて、そういった相手は別にいて、秘密裏に囲っているとか──
(サリオン殿下に限ってまさかそんな……考え過ぎよね、きっと)
内容が内容だけに、自分の口から聞くのも憚られるし、なによりサリオンはそんな人間じゃないとアルウェンは信じていた。
これ以上考えても埒が明かない。
アルウェンは、次々と湧き出す疑念を頭から追いやった。
飲み終えた薬湯のカップを手に、アルマが部屋を退出した直後、再び部屋をノックする音が。
入室を許可すると、侍女のひとりが大きなバスケットを抱えて入ってきた。
「これを……アスラン殿下が私に……?」
「はい。『ご快復をお祈り申し上げます』との言伝もお預かりしました」
これをサリオンの宮まで運んできたのは、アスランの宮に勤める侍女だという。
バスケットの中には、新鮮な果物に蜂蜜に干しナツメ、チーズなどがぎっしり詰められていた。
きっと、自身の宮に届けられた貴族からの貢ぎ物を、具合の悪いアルウェンに分けてくれたのだろう。
(でも、私が体調を崩したことをどうして知ってるのかしら)
「ありがとう。あとでアスラン殿下へお礼の品を贈らなくてはね」
このことをサリオンに伝えるべきか否か。
アスランの宮でお茶をした時のサリオンの反応を見れば、彼が不機嫌にはなるのは明白だ。
けれど、隠し事だけはしたくない。
その思いは最初からずっと変わってはいない。
本当なら彼とはもっと別の──好きな食べ物や趣味とか、そういった話をしたいのだが、この調子ではまだまだ先のことになりそうだ。
アルウェンは人知れずため息をついた。
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