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しおりを挟む真っ逆さまに落ちるリーリアが白目を向いた頃。
クレイグはようやく気が済んだのか、息も絶え絶えのリーリアを乗せた火の鳥は通常運転に戻った。
「少しはスッキリしましたか」
スッキリどころかげっそりだ。
文句のひとつも言ってやりたいところだが、そんな元気が残っていないのと、再び同じ事をやられたらたまらない。
それに、やり方はともかくとして、今の言葉から察するに、どうやらクレイグなりに気を遣ってくれたらしい。
リーリアは小さな声で「はい」と返事をした。
「ですが、どうしてですか」
「どうして、とは?」
「なぜ励ましてくれるのです」
クレイグにとってはリーリアとユーインの仲が拗れた方が都合が良いはず。
ならばもう少し静観する方が得策だろうに。
これでは「気にするな」とでも言われているようだ。
「別に励ましている訳ではありません。ただ、面倒な人がいたので逃げただけです」
「面倒?」
「団長ですよ。我らのね」
「我らの……イゾルデ様の事ですか」
イゾルデからしたらクレイグの方が面倒だろうに、とは口が裂けても言えない。
「その通り。キルシュ団長は随分と白の団長に毒されていましてね……さっきもおそらく私を捕まえて説教でもしようとしてたんでしょう」
白の団長とは即ちユーインのこと。
イゾルデがユーインに毒されているとはどういうことなのか。
リーリアはクレイグの言わんとすることがよく分からない。
するとリーリアの表情から察したのかクレイグは口を開いた。
「我々の力はご存知のように外敵……まぁ時に敵は内にもいますが……とにかくそれらを打ち砕くためにある。しかし白魔道師は我らがあまり前に出すぎることを良しとしない。黒魔法を用いれば、少なからず人の恨みを買うからです。争いよりも護り。それが白の団長の考えだそうですよ」
そこでリーリアはあることを思い出す。
少し前にクレイグが、アルムガルドへの侵攻を狙う西方の国に、黒魔道師を前衛に、先に打って出るべきだと父王に奏上したという噂話だ。
──あれは、事実だったのかしら
本当であれば大変な話だ。
例え相手がアルムガルドを狙っていたとしても、先に挙兵した方は諸国から侵略者の誹りを受けることになる。
リーリアは、噂話だろうと確認もしなかった自分を恥じる。
そんなこと、決してあってはならない。
「……それの何がいけないのですか?誰だって脅威に怯えるよりも、穏やかに暮らしたい。時に避けられない争いもあるでしょうが、それでも黒魔法を使わずに済めばそれに越したことはないでしょう?皆さんだって人を殺めずに済みます」
「魔物相手には躊躇なく黒魔道師に指令を出すのに?」
「魔物には知性が著しく欠如しています……人を見れば見境なく襲ってくる彼らには致し方ないのではないかと……」
「それは随分と都合のいい話ですね。人だって魔物と似たようなものですよ。戦争が起これば人は己が生き残るために人を殺す。魔物だって知性は無くとも痛みや悲しみは感じるのです。我らは何も変わらないではありませんか。それでも黒魔道師に前に出るなと?では姫様、もしあなたがこの力を持っていたとして……目の前で親兄弟が殺されたとしたらどうします?黒魔法を使って報復しますか?それとも指を咥えて見てるだけ?」
「え……?」
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