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45 シスターside
しおりを挟む日の光を反射し、きらきらと輝く水面を滑るように船が進む。
思ったより揺れはなく快適だ。吹き抜ける風が心地良い。
風をはらむ帆を見上げながら、私は街道を行く馬車ではなく、河川を行く商船を選んで正解だったな、と独りごちた。
行く先は実家の公爵家。
3年……いや、4年ぶりになろうか。
シスターを何だと思っているのか。
厄介を寄越すわ、《慈善活動》と称して国中の様子を見聞きさせるわ。
姉使いの荒い弟の顔が浮かぶ。
でも文句は言えない。
公爵家の次期当主の座をよろしくと押しつけた私も大概だ。
愛する王女を妻に迎えたいという思惑もあったとはいえ、引き受けた弟はさぞ苦労したことだろう。
それに、弟の後ろにいるのは国王陛下だ。
……あれから10年以上も経ったのか。
第一王子を一年預かってくれと言われた時は勘弁してくれとしか思わなかった。
教育係を断った私に持ってくる話か、と。
それでも貴族たちの中に第一王子派、第二王子派が生まれはじめていた当時。
国王陛下が安心して第一王子を預けられたのは妹が夫とした公爵――私の弟と、その姉で政治とは無関係な立場――シスターとなっていた私をおいて他になかったことは想像できた。
国王陛下の頼みだ。私は第一王子を一年間預かることを引き受けた。
だが引き受けただけで、第一王子に何かしてやる気はまるでなかった。
そんな私をエミリアが変えた。
愛した彼を失って
ただ息をしているだけだった私を変えたように。
出会いは偶然だった。
たまたま立ち寄った修道院の奥からした声を聞いただけ。
『エミー』と呼ばれたその子に会ってみたかっただけ。
けれど、私が修道院の外から来たと知ると目を輝かせ外の話を聞きたがったエミリアに
私はすぐに夢中になった。
エミリアの暮らす小さな修道院に拠点を置き、修道院から《慈善活動》に出て帰ればエミリアと過ごす。
そんな日々は楽しかった。
一時疑われた伝染病ではなかったものの、治ることのない病で長く患っていたエミリアの母エレノーラは亡くなってしまったが、その日々は続く。これからは一緒に《慈善活動》に行ってもいい。そう考えもしたが。
私の《慈善活動》は危険が伴う。
影のように屈強な護衛がついていても、安全だとは言い切れない。
何よりそれでエミリアは幸せなのだろうか。
そんなふうに悩んでいるうちに、私が留守の間にエミリアは母エレノーラの家を継いだ従兄弟殿に引き取られ、別れてしまった。
父親と暮らすことになったのだと言われれば私はエミリアの幸せを祈るしかなくなった。
そのエミリアに、再び会える――。
心地良い風に気を良くして思いっきり伸びをした。
4年ぶりだ。
あの子はどんな娘に成長しただろう。
……それにしても、4年ぶりの再会場所が王宮とは。
第一王子――今は王太子だったな。
まさかあの子が、あれと結ばれることになろうとは。
思わず笑みが溢れた。
「この世は何が起こるかわからないものだな。……エミリオ」
雲ひとつない青空に、彼を感じた気がした。
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