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五話
しおりを挟む「ふぅ、やりきったぁ」
ルーナと別れたシセルは、すっきりとした顔で屋敷の門をくぐる。すると……家の玄関から、何やら焦った様子の両親が勢い良く飛び出してきた。
「「シセル(ちゃん)っ!」」
「うわぁッ! どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃありません! 一体今まで何処に行ってたの! 凄く心配したのよ!」
「……一応、使用人達には伝えてから出たんだけど」
「はぁ……使用人に伝える前に私達に伝えなさい。今日の仕事が一段落して漸くシセルと会えると思ったら、屋敷のどこにもいなくて……朝に一人で出ていったと言う話を聞いてどんなに心配したか」
「そうよ? まだパパもママも……シセルちゃんが一人で外出するなんて事許せる程強くないの! お願いだから、もしどうしてもお外に出たいのなら……この家の使用人を一人でもいいから連れていって?」
流石のシセルも、知らない女の子とすきすきちゅっちゅしている所を誰かに見られる訳にはいかない。そして彼は、一つ言い訳を思い付く。
「僕……実は今日、友達ができたんだ! でも、僕はあくまでその子とは対等でいたくて……使用人なんか連れて行ったら、僕がどんな風に接しても多分……意識させちゃうんじゃないかなって」
「「……シセル(ちゃん)」」
「だからさ、ほら……見習いの……僕と同じくらいの子がいたでしょ? その子を友達として連れていくとかならどうかな?」
「ふむ、だがそれは結局のところ……大人を連れて行かないで子供だけで出かけることになる。危険な事に変わりはないだろう?」
そう、もはや護衛を雇いたいとまで考えている両親からしたら……シセルと歳の近い子供を連れて行ったところで、心配する気持ちを消し去る事は出来ない。──しかし、今ここ求められているモノはお互いの『妥協点』だ。……と、そこまで思考したシセルはまだ諦めない。
(一人で出掛けるのは無理でも、複数……俺個人以外の人間を介入させたい二人には、まだ交渉の余地があるッ!)
そう意気込みながら……その気持ちを隠して交渉を続けるシセル。
「でも、僕は大人を連れていって相手を怖がらせたくない。子供だとしても、使用人……僕以外の人間から話を聞けるなら、僕が相手の子を友達贔屓《ともだちびいき》して話さない事とかでも聞けるんじゃないかな?」
安全面の話をしていては……恐らく話は平行線だ。それならば……と、別の落としどころを探し始めるシセル。
「そうね……でも」
「ふむ、分かった。そうしよう」
それでも頷きそうに無かった母の言葉を遮って、腕を組んで頷きながらシセルの言葉に同意する父。
「え?」
「……あなた?」
「まぁまぁ……もういいじゃないかソフィア。あのシセルがこんなにも難しい言葉を勉強していて、ここまで食い下がるのには……何やら私たちには譲れない思いがあるのだろう」
そんな父の言葉を聞いた……聞いてしまったシセルは──”譲れない思い”というか”譲れない思い”なんだけど。と、思いながら……内心、罪悪感を浮かべ始める。
「ふふ、分かりました。それなら私も、息子の成長を祝って……その程度のお願いくらいは聞いてあげましょう!」
(──あ"あ"胸がッ! っ苦しい!)
交渉が成立した結果、ニッコニコの両親の横で……罪悪感による苦しみに胸を押さえながら、悟られない様に笑顔を浮かべる事となってしまったシセル。
「話は終わったことだし、お家に入りましょうか!」
「ああ、そう言えばずっと外で話していたんだったな」
(いや、そうだよッ!! なんでこんな長い間ここに縛られないといけないんだ!! 別に中に入ってから話すのでも良かったよな!?)
シセルは一瞬、キレて表情を崩しそうになるが……。
(…………まぁ、それだけ心配してくれてたってことだよなぁ。今言うと面倒臭いことになりそうだから、また今度にでも二人に感謝を伝えておくか)
本来であれば、今の自分に向けられるモノではない筈の感情……両親の愛情が伝わってしまい、思わず苦笑する。
──そうして三人が仲良く屋敷に入って行くのを見て、話し合いをハラハラとした気持ちで見ていた使用人達は……ホッと安心して勤務を再開するのであった。
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