花は咲く

柊 仁

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別れの季節

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 二〇一〇年  三月  

 桜のつぼみも開き始め春の訪れを感じられる今日この日、僕は小学校を卒業した。

 校門前では卒業生が、泣きながら抱き合ったり記念撮影をしたりとそれぞれのやり方で別れを惜しんでいる。

 僕はといえば特に誰かと別れを惜しむことなくただ一人足早と帰路に就いた。

 卒業証書を入れた筒を片手に学校から家までの道のりを歩いて行く。



 卒業式という特別な行事がある日にそそくさと帰るなんて一般的に見れば非常識なのかもしれない。

 でもこの学校に在籍したのは一年。

 だから別に、今日が特別な日だなんて思ってない。

 悲しくないし、未練も何も無い。今も、これからも。

 どうせまたすぐに、″別れ″は訪れるから——。



 僕の両親は、僕が八歳の頃に離婚した。

 母さん達が離婚した理由なんて当時八歳の僕には到底理解出来なかった。
 でも小学校を卒業した今ならはっきりと分かる。

  僕だ。

 夜な夜な何か僕について言い合ってるのを布団の中で聞いていたから。

 聞いちゃいけないと思って無理してでも寝ようとしたたけど、母さん達の怒声は僕の眠気をかき消すほどだった。
 その時ちらと見えた父さんの顔は、今までに見たことがないほど怖かった。

 朝になればいつもの母さん達に元通り。
 夜に喧嘩していたなんて思えない程の仲の良さだった。

 二人はいつもの笑顔で僕におはようと語りかける。

 その笑顔の裏にはどんな感情があるのか、考えたくもなかった。

 気づけば、母さんはいなくなっていた。

 理由を聞いても父さんは「少しの間実家に帰省するみたいだよ」 と優しい笑顔で誤魔化すだけ。

 僕はあえてそこに深くは追求しなかった。
 何故いなくなったのかはなんとなく察していたから。



 三ヶ月の時が経っても、母さんが帰ってくることは無かった——。



 それからは僕と父さんの二人暮らしになった。

 父さんは仕事が忙しく、他県への転勤が多い。
 そうなると僕一人残すわけにはいかないので父さんは僕も一緒に連れて行った。

 そのためいくつもの小学校を転々とすることになった。

 今になって何回転校したかは覚えていない。

 ただ一つ憶えている事は、この時から僕は、″僕″自身を壊し始めた——。










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