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7.お嬢様と私 サイラス視点①
⑤
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「サイラスなら自由に開けていいわよ。私、ここには宝物を入れることにしているの。このしおりも普段はここに入れておくわ」
「お嬢様、ここにはもっとこう……重要な物を入れるのではないでしょうか」
「とっても重要な物ばかりよ」
そっと金庫の中を覗き込むと、そこにはリボンのついた指輪や、小さな熊のぬいぐるみなど、おそらく本来入れる物ではないものがたくさん詰め込まれていた。
「ええと、確かに大切な物ばかりだとは思いますが、ここには大きくなられた時に機密書類などを入れるのでは……」
「まだスペースはあるから大丈夫よ!」
お嬢様は得意げに言う。これでいいのだろうかとは思ったが、お嬢様がにこにこ顔で嬉しそうにしているので、つい「いいですね」なんて同意してしまった。
金庫の中で、お嬢様の宝物たちの上に自分の作ったしおりが置かれているのを見ると、なんだかくすぐったいような気持ちになる。
「それにしても、この番号はちょっとわかりやす過ぎはしませんか? ほとんどお嬢様の誕生日と一緒ではないですか」
「だって複雑すぎると忘れてしまうじゃない」
「他人からもわかりやすくなってしまいますよ」
「いいの! 私の誕生日だけだと足りなかったから、サイラスの誕生日も加えておいたの。だから大丈夫よ」
「え?」
お嬢様は得意げな顔をして言う。確かに、番号の最後は私の生まれた日と同じ数字だった。
「サイラスの誕生日なら絶対忘れないわ」
お嬢様がにこにこしながらそう言うので、顔が熱くなる。
お嬢様が誕生日を覚えていてくれたことも、番号を決めるときに私の誕生日を組み入れることを思いついてくれたことも、とても嬉しい。
「サイラスも何か入れたい物があったら自由に使っていいからね!」
お嬢様は笑顔で言った。
アメル公爵家に代々伝わる金庫なんて、恐れ多くてとても使う気にはなれない。けれどお嬢様が楽しそうなので、それは言わずにお礼を言っておいた。
***
「サイラス。エヴェリーナがよくお前の仕事を邪魔しているようですまないな。雇い主の娘だからと言って毎回つき合ってやることはないんだぞ」
ある日、旦那様のお部屋に書類を持っていくと、書類を受け取った旦那様はついでのようにそう言った。私は慌てて首を横に振る。
「邪魔だなんてとんでもありません。お嬢様はいつも私を気にかけてくださるので、とても感謝しております」
「そうか? お前が迷惑していないのならいいが」
旦那様はそう言うと少し考え込む。
「サイラス。エヴェリーナの専属執事になるつもりはないか? あの子は随分お前を気に入っているようだし、お前の言うことなら聞くようだから」
「私がお嬢様の……? しかし、私は貴族の出ではありませんし、お嬢様と一つしか変わりませんし、お嬢様の専属執事を務めるには不十分かと……」
「なに、全ての世話をお前に任せるわけではない。必要なときはもちろん別の使用人をつけるさ。ただ、エヴェリーナをよく見ておいて欲しいのだ。貴族の娘があんまりお転婆だと、将来ろくな駒にならないのでな」
旦那様はあっさりした態度で言う。「駒」という言葉には大分引っかかりを覚えたが、願ってもない提案に心臓の音が早くなった。
「かしこまりました。ご期待に沿えるよう、力を尽くさせていただきます」
旦那様は満足げな顔をして、厳かにうなずいた。お辞儀をしてから、落ち着かない気分で部屋を出る。
お嬢様の部屋に行き、「専属執事になったのでこれからは何でもお申しつけください」と伝えると、お嬢様は大変喜んでくれた。
「じゃあ、これからはサイラスともっといっぱい遊べるのね!」
お嬢様はきゃっきゃっと嬉しそうにしている。遊ぶのではなくてお世話をするんですよ、と訂正したが、お嬢様は聞いているのかいないのかずっとにこにこするばかりだった。
あんまり可愛らしく笑うので、それ以上何か言う気にはなれなかった。
「お嬢様、ここにはもっとこう……重要な物を入れるのではないでしょうか」
「とっても重要な物ばかりよ」
そっと金庫の中を覗き込むと、そこにはリボンのついた指輪や、小さな熊のぬいぐるみなど、おそらく本来入れる物ではないものがたくさん詰め込まれていた。
「ええと、確かに大切な物ばかりだとは思いますが、ここには大きくなられた時に機密書類などを入れるのでは……」
「まだスペースはあるから大丈夫よ!」
お嬢様は得意げに言う。これでいいのだろうかとは思ったが、お嬢様がにこにこ顔で嬉しそうにしているので、つい「いいですね」なんて同意してしまった。
金庫の中で、お嬢様の宝物たちの上に自分の作ったしおりが置かれているのを見ると、なんだかくすぐったいような気持ちになる。
「それにしても、この番号はちょっとわかりやす過ぎはしませんか? ほとんどお嬢様の誕生日と一緒ではないですか」
「だって複雑すぎると忘れてしまうじゃない」
「他人からもわかりやすくなってしまいますよ」
「いいの! 私の誕生日だけだと足りなかったから、サイラスの誕生日も加えておいたの。だから大丈夫よ」
「え?」
お嬢様は得意げな顔をして言う。確かに、番号の最後は私の生まれた日と同じ数字だった。
「サイラスの誕生日なら絶対忘れないわ」
お嬢様がにこにこしながらそう言うので、顔が熱くなる。
お嬢様が誕生日を覚えていてくれたことも、番号を決めるときに私の誕生日を組み入れることを思いついてくれたことも、とても嬉しい。
「サイラスも何か入れたい物があったら自由に使っていいからね!」
お嬢様は笑顔で言った。
アメル公爵家に代々伝わる金庫なんて、恐れ多くてとても使う気にはなれない。けれどお嬢様が楽しそうなので、それは言わずにお礼を言っておいた。
***
「サイラス。エヴェリーナがよくお前の仕事を邪魔しているようですまないな。雇い主の娘だからと言って毎回つき合ってやることはないんだぞ」
ある日、旦那様のお部屋に書類を持っていくと、書類を受け取った旦那様はついでのようにそう言った。私は慌てて首を横に振る。
「邪魔だなんてとんでもありません。お嬢様はいつも私を気にかけてくださるので、とても感謝しております」
「そうか? お前が迷惑していないのならいいが」
旦那様はそう言うと少し考え込む。
「サイラス。エヴェリーナの専属執事になるつもりはないか? あの子は随分お前を気に入っているようだし、お前の言うことなら聞くようだから」
「私がお嬢様の……? しかし、私は貴族の出ではありませんし、お嬢様と一つしか変わりませんし、お嬢様の専属執事を務めるには不十分かと……」
「なに、全ての世話をお前に任せるわけではない。必要なときはもちろん別の使用人をつけるさ。ただ、エヴェリーナをよく見ておいて欲しいのだ。貴族の娘があんまりお転婆だと、将来ろくな駒にならないのでな」
旦那様はあっさりした態度で言う。「駒」という言葉には大分引っかかりを覚えたが、願ってもない提案に心臓の音が早くなった。
「かしこまりました。ご期待に沿えるよう、力を尽くさせていただきます」
旦那様は満足げな顔をして、厳かにうなずいた。お辞儀をしてから、落ち着かない気分で部屋を出る。
お嬢様の部屋に行き、「専属執事になったのでこれからは何でもお申しつけください」と伝えると、お嬢様は大変喜んでくれた。
「じゃあ、これからはサイラスともっといっぱい遊べるのね!」
お嬢様はきゃっきゃっと嬉しそうにしている。遊ぶのではなくてお世話をするんですよ、と訂正したが、お嬢様は聞いているのかいないのかずっとにこにこするばかりだった。
あんまり可愛らしく笑うので、それ以上何か言う気にはなれなかった。
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