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8.リーシュの祭典
⑧
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「ミリウス様、お嬢様は贈り物よりも気持ちを大切にする方ですから、ミリウス様の感謝の気持ちは十分に伝わったと思います。どうか今日はこのまま下がらせてください」
サイラスはミリウスに向かって、どこか作り物じみた笑みを浮かべて言う。
「いや、別に俺は感謝しているわけではなく……」
「ミリウス様! いいかげんにしてください! お礼も言わずに失礼なことばかり言って! エヴェリーナ様が困ってらっしゃいますよ」
「そうですよ、ミリウス様! もう行かせて差し上げましょう」
ずっと複雑そうな顔をして私たちを見ていたミリウスの従者たちが、痺れを切らしたようにミリウスのそばまでやって来て言った。
ミリウスは二人を交互に見ながら、言い訳をするように何か言っている。
私はその隙にそっとミリウスから離れた。
「それでは、ミリウス様。またの機会に。ごきげんよう」
サイラスの腕を引っ張りながらそう言って、返事を聞く前に今度こそその場から離れる。
人々からは興味深そうに視線を投げられたけれど、構わず遠くへ進んでいった。
「あぁ、驚いた。一体なんだったのかしら?」
「……なんだったのでしょうね」
サイラスは複雑そうな顔をしている。
「一応は感謝を伝えたかったってことなのかしら。なんだかお礼を言われた気がしないけれど」
それどころか、半分以上貶されていた気がする。
「お礼というよりも、口実でしょうね……」
「口実? どういうこと?」
サイラスが憂鬱そうにつぶやくので、私は首を傾げた。一体何の口実だろう。
「いえ、何でもありません。お嬢様はお気になさらないでください」
「えー……? 気になるわ」
「気づかなかったのならそれでいいです。私は心からお嬢様の幸せを願っていますが、あのような横暴な方は選択肢から外すべきだと思うので」
「選択肢?」
サイラスがわけがわからないことばかり言うので聞き返すが、はっきりしたことは何も答えてくれなかった。
しばらく粘ってみたが曖昧な言葉を返されるばかりなので、諦めて再びお祭りの中を歩くことにした。
***
自由にお祭りを回っているとあっという間に時間は過ぎて、とうとうパレードの時間がやって来た。
辺りはすっかり暗くなっている。街中に飾りつけられたランプが眩しかった。
参加者はみんな目を輝かせながら、王族の乗る馬車がそばを通るのをいまかいまかと待ち構えている。
私とサイラスは、少し人の少ない場所で足を止めた。ここなら人混みに酔うことなく馬車が来るのを待てる。
賑やかな音が聞こえてきて、建物の影に光が現れるのが見えた。ジャレッド王子とカミリアの乗る馬車がやって来たようだ。
二人は屋根のない馬車に乗り、にこやかに人々に手を振っている。
婚約破棄される前は自分もあの場所にいたので、遠くからそれを見るのはなんだか不思議な気分だった。
「乗っている人たちはともかく、馬車は綺麗ね。きらきら光っていて」
「……お嬢様」
私がそう言うと、サイラスは心配そうにこちらを見る。サイラスはいつも私を心配するけれど、二人の乗る馬車を見ても当然私の心は落ち着いていた。
「本当に綺麗だわ」
この光景を綺麗だと感じる自分がなんだか不思議だった。
一度目の人生では想像するだけで私を苦しめた光景だというのに、実際に眺めるとただただ美しい景色がそこにあるだけだったから。
サイラスはミリウスに向かって、どこか作り物じみた笑みを浮かべて言う。
「いや、別に俺は感謝しているわけではなく……」
「ミリウス様! いいかげんにしてください! お礼も言わずに失礼なことばかり言って! エヴェリーナ様が困ってらっしゃいますよ」
「そうですよ、ミリウス様! もう行かせて差し上げましょう」
ずっと複雑そうな顔をして私たちを見ていたミリウスの従者たちが、痺れを切らしたようにミリウスのそばまでやって来て言った。
ミリウスは二人を交互に見ながら、言い訳をするように何か言っている。
私はその隙にそっとミリウスから離れた。
「それでは、ミリウス様。またの機会に。ごきげんよう」
サイラスの腕を引っ張りながらそう言って、返事を聞く前に今度こそその場から離れる。
人々からは興味深そうに視線を投げられたけれど、構わず遠くへ進んでいった。
「あぁ、驚いた。一体なんだったのかしら?」
「……なんだったのでしょうね」
サイラスは複雑そうな顔をしている。
「一応は感謝を伝えたかったってことなのかしら。なんだかお礼を言われた気がしないけれど」
それどころか、半分以上貶されていた気がする。
「お礼というよりも、口実でしょうね……」
「口実? どういうこと?」
サイラスが憂鬱そうにつぶやくので、私は首を傾げた。一体何の口実だろう。
「いえ、何でもありません。お嬢様はお気になさらないでください」
「えー……? 気になるわ」
「気づかなかったのならそれでいいです。私は心からお嬢様の幸せを願っていますが、あのような横暴な方は選択肢から外すべきだと思うので」
「選択肢?」
サイラスがわけがわからないことばかり言うので聞き返すが、はっきりしたことは何も答えてくれなかった。
しばらく粘ってみたが曖昧な言葉を返されるばかりなので、諦めて再びお祭りの中を歩くことにした。
***
自由にお祭りを回っているとあっという間に時間は過ぎて、とうとうパレードの時間がやって来た。
辺りはすっかり暗くなっている。街中に飾りつけられたランプが眩しかった。
参加者はみんな目を輝かせながら、王族の乗る馬車がそばを通るのをいまかいまかと待ち構えている。
私とサイラスは、少し人の少ない場所で足を止めた。ここなら人混みに酔うことなく馬車が来るのを待てる。
賑やかな音が聞こえてきて、建物の影に光が現れるのが見えた。ジャレッド王子とカミリアの乗る馬車がやって来たようだ。
二人は屋根のない馬車に乗り、にこやかに人々に手を振っている。
婚約破棄される前は自分もあの場所にいたので、遠くからそれを見るのはなんだか不思議な気分だった。
「乗っている人たちはともかく、馬車は綺麗ね。きらきら光っていて」
「……お嬢様」
私がそう言うと、サイラスは心配そうにこちらを見る。サイラスはいつも私を心配するけれど、二人の乗る馬車を見ても当然私の心は落ち着いていた。
「本当に綺麗だわ」
この光景を綺麗だと感じる自分がなんだか不思議だった。
一度目の人生では想像するだけで私を苦しめた光景だというのに、実際に眺めるとただただ美しい景色がそこにあるだけだったから。
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