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 それは王都中の貴族が集められた王宮でのパーティーのこと。エルヴィユ家にも招待状が来たので、私はお父様とお母様に連れられ参加した。

 公爵である父や公爵夫人である母の元には、休む間もなくたくさんの貴族たちが挨拶にやって来る。

 挨拶に来た貴族の中に、ロビアン伯爵がいた。

 彼は二人の息子を伴っていた。一人は跡取りだという長男で、もう一人がクロヴィス様だった。


「フルール様、はじめまして」

 伯爵に挨拶をするよう促された彼は、照れたように微笑みながらそう言った。

 その瞬間、私の胸は今まで感じたことのなかった感情で埋め尽くされた。

 なんだろう、これ。顔が熱い。心臓がどきどきする。

 クロヴィス様はパーティーに不慣れなのか、どこか落ち着かなそうにそわそわしている。凛々しい顔つきが、少しだけ困ったように歪んでいた。そんな表情がたまらなく可愛い。

 私は思わずぎゅっと彼の手を掴んでいた。


「はじめまして、クロヴィス様! フルール・エルヴィユと申しますわ! 私と仲良くしてくれたら嬉しいです!」

 勢い込み過ぎたのか、彼はこちらを見て目をぱちくりしている。私ははっとして手を離した。

 けれど、私の罰の悪そうな表情を見るとクロヴィス様はおかしそうに笑って、「私もフルール様と仲良くなれたら嬉しいです」と言ってくれた。

 私は幸せで幸せで、この感情をどこへ持って行ったらいいのかわからなかった。


 パーティーが終わって屋敷に戻ると、すぐさま彼のことを調べるために動き出した。

 年齢は私と同じ十四歳。ロビアン伯爵家の次男。

 十二歳で騎士団に入団してからみるみるうちに実力をつけていき、たった一年で近衛兵に選ばれた。

 彼との縁談を望むご令嬢は多いけれど、現在のところ婚約者は特にいないらしい。


 調べるほどに彼に興味が湧いた。どうしても彼を私のものにしたい。

 彼は次男で伯爵家の後はお兄様が継ぐようだから、うちに婿に来れば彼にとっても都合がいいのではないか。きっと喜んでくれるはずだ。


 私はクロヴィス様との婚約を取り付けてもらえるよう、お父様に頼み込んだ。

 お父様は、はじめこそ公爵家の婿が伯爵家次男か……と渋っていた。

 しかし、彼が騎士団で近衛兵を務めていることや、剣術だけでなく勉学でも優秀であること、社交界での評判もいいことなどを考慮して、ロビアン伯爵家へ婚約を打診することを決めてくれた。
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