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 私の婚約者であるクロヴィス様は世界一素敵な人だ。

 美しい銀色の髪にガーネットの色をした鋭い目。

 伯爵家の次男に生まれ、十二歳で騎士団に入団するとみるみる頭角を表し、彼より身分が上の者たちをどんどん追い抜いて昇進していった。


 そして、現在は王族を守る近衛兵として活躍している。

 近衛兵に選ばれたのは、その身体能力はもちろん、近衛兵に要求される優美さや見目の良さを兼ね備えていたという理由も大きいだろう。

 最近では、我が国の十歳になる王子殿下の護衛に彼をと推す声も上がっている。


 将来有望な美形の騎士様なんて女の子たちが放っておくはずもなく、騎士団の訓練の合間や、出席したパーティーなどではクロヴィス様は常にご令嬢たちに囲まれている。

 彼は女の子たちには礼儀正しい態度を取りつつも、一定の距離を崩さなかった。そんなところも、周りからの評価を上げていた。

 何が言いたいのかと言うと、クロヴィス・ロビアンは大変理想的な人物ということだ。


 そして、その理想的な人物の婚約者が、この私フルール・エルヴィユなのだ。

 私はクロヴィス様と違って社交界での評判はあまりよろしくない。

 私の外見は金色の長いウェービーへアに、猫のように吊り上がった赤い目という、いかにも気の強いお嬢様といった風貌だ。

 その上身分が身分なので、私が少しでも不満を漏らせばみんな震えてぺこぺこ頭を下げてくる。

 いや、不満を漏らさずとも、希望を言っただけでそれは命令ととらえられ、言う通りに出来なければ罰が下るとみんなを震え上がらせてしまうのだ。

 私はつまらないことで人を罰するつもりなんてないのに。


 エルヴィユ公爵家の一人娘なので、寄ってくる人は数知れないけれど、みんなどこかで私に線を引いていた。

 それで問題はないと思っていた。

 寂しくないわけではないが、公爵家の娘なのだし距離があるくらいでちょうどいいのではないかと。

 しかし、十四歳のとき、パーティー会場で初めてクロヴィス様を見たとき、私は初めて誰かにどうしようもなく近づきたくなる感情を知った。
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