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「違うんだ、フルール。君が俺に飲ませたのは惚れ薬じゃない。俺は惚れ薬なんて飲んでいないんだ!!」

「え?」

 私が飲ませたのは惚れ薬じゃない? そんなはずはない。私はあの日確かに、魔術師からもらった紫の液体を飲ませた。ちゃんと効果だって出ているのだ。

 あれが惚れ薬でないなら、今までのクロヴィス様の態度が説明できないではないか。


「クロヴィス様、薬の効果で思考が操られているのではなくて? 私は確かに魔術師さんから買った惚れ薬を飲ませましたわ」

「いや、そもそもその買った惚れ薬というのがな……」

「フルール様、私が説明しますよ」

 今まで黙って私たちのやり取りを見ていた魔術師が、ひょいっと割って入って来て言った。

「説明って?」

「最初から全部クロヴィス様が仕組んだってことです。フルール様に渡したあの液体、ただのぶどうジュースなんですよ。魔法でコポコポ泡立たせて怪しい見た目にしただけの。だから何の効果もありません」

「…………え?」

 急に告げられた言葉に理解が追いつかない。

 そんな私に構わず、魔術師はいたって冷静な顔で説明を始めた。


「俺、数年前に薬草を摘みに森へ行って野盗に襲われかけたことがあるんですが、その時クロヴィス様に助けてもらったんです」

「まぁ、さすがクロヴィス様ね!」

「ええ、命拾いしました。それからお礼に魔法薬や魔石を安値で売ったり、魔法関連の相談に乗ったりしていたんです。それがこの前、クロヴィス様が突然うちの店に来て、婚約者に惚れ薬を売って欲しいなんて言い出しましてね」

「え……」

「そんな高度な薬作れないと言ったら、『本物じゃなくていい。惚れ薬だと言って偽物の液体を売ってくれ』なんて言うもので」

 魔術師はあっさりした調子でそんなことを言う。私は目をぱちくりしてしまった。

「偽物の液体を売るよう、クロヴィス様が?」

「ええ。どうやら高貴な婚約者相手にどうしても素直になれないので、惚れ薬を飲まされたことにして、うまいことキャラを変えたかったみたいです」

 ぱっとクロヴィス様のほうを見る。

 彼は耳まで真っ赤にして、何とも気まずそうにしていた。


「クロヴィス様……? 今の話、本当ですか?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、今まで言ってくれた可愛いも愛してるも全部、クロヴィス様自身の言葉だったってことですか……?」

 震える声で尋ねると、クロヴィス様の顔がさらに赤くなる。それから観念したようにこくりとうなずいた。


「クロヴィス様ぁ……!!」

 私は感極まって、思わずクロヴィス様に抱き着いていた。私の勢いによろけながらも、クロヴィス様はこちらを見つめる。
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