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「とりあえず、もう少しだけ待ってみてはどうですか? その仕事を断ったのが本当に薬のせいなのかはわかりませんし。案外クロヴィス様自身が望んでいたことかもしれませんよ」

「そんなはずないじゃない! 待てないわ、こうしている間にもクロヴィス様の未来を壊しているかもしれないんだもの!!」

 私が叫ぶと、魔術師はさらに困った顔になる。

 この人は一体何を言ってるんだろう。クロヴィス様が自分で望んだことのはずないじゃないか。

 クロヴィス様は私が惚れ薬なんか飲ませたせいで、意思とは関係ない決断をさせられるはめになったのだ。

 これ以上彼の未来を壊さないために、早く何とかしないと……。


 その時、突然勢いよく扉が開いた。

 驚いて後ろを振り返ると、そこには息を切らしたクロヴィス様が立っていた。

「フルール、やっぱりここにいたか……」

「クロヴィス様、どうしてここが」

 人混みで私のことを見失ったと思っていたのに、追って来られたのだろうか。戸惑う私に、クロヴィス様はゆっくり近づいてくる。


「フルール、不安にさせて悪かった。護衛の話を断ったのは君のせいではないから、そんな顔をしないでくれ」

「違うのですわ。クロヴィス様が今そう思っているのは、作り上げられた感情なんです。クロヴィス様は覚えていないと思いますけれど、私、あなたに惚れ薬を飲ませたのですわ。本当のクロヴィス様は私のことを嫌っているのです」

「フルール、そうじゃなくて……」

 私が説明しても、クロヴィス様は顔をしかめるだけでなかなか納得してくれない。

 それだけ薬の効果が強いということなのだろうか。やはり、クロヴィス様を正気に戻すには、魔術師に戻してもらうしかないのだ。


「クロヴィス様、すぐに魔術師さんに効果を打ち消す薬を用意してもらいますわ。そうしたらちゃんと元に戻るはずです。元に戻ったら、あなたは私のことをさらに嫌いになるでしょうけれど……仕方ありませんわね。私の自業自得です」

「いや、フルール。待ってくれ」

「私、今までクロヴィス様が手に入るなら、それが公爵家の権力を使った婚約でも、惚れ薬を使った愛でも、なんでもいいと思っていました。でも、クロヴィス様の幸せを壊してまで自分の願望を叶えるなんていけないことでした。もうこんなことはやめますわ。薬の効果が切れたとき、クロヴィス様が婚約解消を望むなら……ちゃんと話に応じますから」

「だ、だから違うんだって!!」

 私が婚約解消と口に出した途端、クロヴィス様は真っ青になって私の肩を掴んできた。

 あまりに真剣な目で見られ、私は言葉に詰まる。
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