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第二部
1.噂好きのメイド
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ここから二部になります。
雰囲気が暗くなるのでご注意ください。
◆ ◇ ◆
どうして人は醜悪な話をおもしろがるのだろう。
どこそこの誰がひどい目に遭ったとか、あの人が最低な行いをしたとか。そんな話に胸がうずいてしまうなんて。
趣味が悪いことは自覚しながらも、私は今日もメイドの噂話を心待ちにしている。
「リディアお嬢様! 知ってます? とある伯爵家のご令嬢の話なんですけど、婚約者に婚約破棄されちゃったんですって。「真実の愛を見つけた」なんて言って。
でも、そのご令嬢の元に、なんと公爵家のご令息が求婚なさったそうで。なんでも、その公爵令息様はずっと伯爵令嬢に片思いしていたんですけれど、婚約者がいたのでどうにもできなかったんですって!
公爵令息様を敵に回した元婚約者とその恋人は、街を追い出されて落ちぶれちゃったらしいですよ。いい気味ですよねぇ」
部屋に掃除をしにやって来た私の専属メイドであるローレッタは、仕事もそこそこにかしましく噂話を始めた。
私は窓辺に立って外の景色を眺めながら、ローレッタの話にじっと耳を傾ける。
彼女の頭の中は、いつもどのうちの娘さんがどうしたとか、どの家とどの家の関係が拗れたとかいう貴族たちのゴシップでいっぱいだ。
どこからともなく新しい噂を仕入れてきては、待ちきれないとでも言うように私の部屋に来てぺらぺらとしゃべり立てていく。使用人としての礼儀なんてあったものじゃない。
けれど私がローレッタを怒ることはない。
掃除が大雑把だろうが、運んできた食事がこぼれていようが。私は彼女の口から出てくる噂話が好きなのだ。
このクロフォード公爵家でローレッタが私以外の者に仕えたら、彼女はたちまち鞭打たれて、外へ放りだされてしまうだろう。
私が彼女を自分専属のメイドから外すことはあり得ないので、その心配はないのだけれど。
「ねぇ、リディアお嬢様。これは知ってます? ウィンストン家のご令息の話。彼は──……」
「ローレッタ。よその家の話もいいけれど、私は我がクロフォード家の評判を聞きたいわ。私のうちは、外でどんな風に言われているの?」
尋ねると、ローレッタはたちまち嬉しそうな顔になった。彼女は自分から噂話をするのも好きだが、人から噂を求められるのが何よりも好きなのだ。
ローレッタはまるで小鳥が歌うようにペラペラと軽やかに話し始める。
「では、お兄様のブラッド様のお話を! ブラッド様、魔法騎士としての称号を受けて間もなく討伐に参加して、中級の魔物を三体狩るって偉業を成し遂げたらしいです! ブラッド様のことが心配でずっと森のそばで待っていた妹君のシェリル様も涙を流して喜んだそうで」
「あら、シェリルはお兄様の討伐を見に行ってたのね。知らなかったわ。確か平日でしょ?」
「……リディア様はお兄様の初討伐の日も平然としてましたね。冷たいですよねぇ」
「別にいいじゃない。お兄様の初討伐だからって学校を休んでまで見に行く方が変なのよ」
「いいですけれど! ブラッド様、実力もですが、公爵家という安全な場所にいられる立場にありながら討伐に参加したこと自体をとても褒められていました。現当主である公爵様も大臣でありながらしょっちゅう討伐に出向いているし、尊敬すべき方たちだと、みんな口々に褒めています」
ローレッタは三つ編みを揺らしながら、力を込めて言う。私の口からはつい乾いた笑みが漏れる。
「だって、クロフォード家の魔力があればけがをする心配なんてそうそうないものねぇ。それで評判が上がって、王家から勲章も報酬ももらえるなら、参加しない手はないでしょう」
「あぁ、お嬢様! また意地悪な顔してます」
「失礼ね、生まれつきこういう顔なのよ」
「アデルバート様の前ではあんなに可愛らしかったのに」
ローレッタがそんなことを言うので、私は思いきり顔をしかめた。
このメイドは先日も登校日に私の後をついてきて、私がアデル様と中庭で話す様子を陰から見ていたのだ。
「よかったですね、リディアお嬢様! アデルバート様の初恋はお嬢様なんですって!」
「大きな声で言わないでちょうだい……」
私は恥ずかしくなってローレッタから目を逸らした。
雰囲気が暗くなるのでご注意ください。
◆ ◇ ◆
どうして人は醜悪な話をおもしろがるのだろう。
どこそこの誰がひどい目に遭ったとか、あの人が最低な行いをしたとか。そんな話に胸がうずいてしまうなんて。
趣味が悪いことは自覚しながらも、私は今日もメイドの噂話を心待ちにしている。
「リディアお嬢様! 知ってます? とある伯爵家のご令嬢の話なんですけど、婚約者に婚約破棄されちゃったんですって。「真実の愛を見つけた」なんて言って。
でも、そのご令嬢の元に、なんと公爵家のご令息が求婚なさったそうで。なんでも、その公爵令息様はずっと伯爵令嬢に片思いしていたんですけれど、婚約者がいたのでどうにもできなかったんですって!
公爵令息様を敵に回した元婚約者とその恋人は、街を追い出されて落ちぶれちゃったらしいですよ。いい気味ですよねぇ」
部屋に掃除をしにやって来た私の専属メイドであるローレッタは、仕事もそこそこにかしましく噂話を始めた。
私は窓辺に立って外の景色を眺めながら、ローレッタの話にじっと耳を傾ける。
彼女の頭の中は、いつもどのうちの娘さんがどうしたとか、どの家とどの家の関係が拗れたとかいう貴族たちのゴシップでいっぱいだ。
どこからともなく新しい噂を仕入れてきては、待ちきれないとでも言うように私の部屋に来てぺらぺらとしゃべり立てていく。使用人としての礼儀なんてあったものじゃない。
けれど私がローレッタを怒ることはない。
掃除が大雑把だろうが、運んできた食事がこぼれていようが。私は彼女の口から出てくる噂話が好きなのだ。
このクロフォード公爵家でローレッタが私以外の者に仕えたら、彼女はたちまち鞭打たれて、外へ放りだされてしまうだろう。
私が彼女を自分専属のメイドから外すことはあり得ないので、その心配はないのだけれど。
「ねぇ、リディアお嬢様。これは知ってます? ウィンストン家のご令息の話。彼は──……」
「ローレッタ。よその家の話もいいけれど、私は我がクロフォード家の評判を聞きたいわ。私のうちは、外でどんな風に言われているの?」
尋ねると、ローレッタはたちまち嬉しそうな顔になった。彼女は自分から噂話をするのも好きだが、人から噂を求められるのが何よりも好きなのだ。
ローレッタはまるで小鳥が歌うようにペラペラと軽やかに話し始める。
「では、お兄様のブラッド様のお話を! ブラッド様、魔法騎士としての称号を受けて間もなく討伐に参加して、中級の魔物を三体狩るって偉業を成し遂げたらしいです! ブラッド様のことが心配でずっと森のそばで待っていた妹君のシェリル様も涙を流して喜んだそうで」
「あら、シェリルはお兄様の討伐を見に行ってたのね。知らなかったわ。確か平日でしょ?」
「……リディア様はお兄様の初討伐の日も平然としてましたね。冷たいですよねぇ」
「別にいいじゃない。お兄様の初討伐だからって学校を休んでまで見に行く方が変なのよ」
「いいですけれど! ブラッド様、実力もですが、公爵家という安全な場所にいられる立場にありながら討伐に参加したこと自体をとても褒められていました。現当主である公爵様も大臣でありながらしょっちゅう討伐に出向いているし、尊敬すべき方たちだと、みんな口々に褒めています」
ローレッタは三つ編みを揺らしながら、力を込めて言う。私の口からはつい乾いた笑みが漏れる。
「だって、クロフォード家の魔力があればけがをする心配なんてそうそうないものねぇ。それで評判が上がって、王家から勲章も報酬ももらえるなら、参加しない手はないでしょう」
「あぁ、お嬢様! また意地悪な顔してます」
「失礼ね、生まれつきこういう顔なのよ」
「アデルバート様の前ではあんなに可愛らしかったのに」
ローレッタがそんなことを言うので、私は思いきり顔をしかめた。
このメイドは先日も登校日に私の後をついてきて、私がアデル様と中庭で話す様子を陰から見ていたのだ。
「よかったですね、リディアお嬢様! アデルバート様の初恋はお嬢様なんですって!」
「大きな声で言わないでちょうだい……」
私は恥ずかしくなってローレッタから目を逸らした。
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