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第二部
2.違和感 アデル視点
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今日は月に一度のリディアとのお茶会の日だ。
今までは父上に命令されて仕方なく出向いていたが、今日はちゃんと交流しようと決めていた。
しかし、その決意はお茶会が始まって三十分ほどで早くも折れそうになっている。
「アデル様、アデル様。それでこの紅茶なんですけどね、我がクロフォード家で母が開発した美容薬品をエイムズ領の領主様に贈りましたら、大変お喜びになられて。お礼に貴重な茶葉を贈ってくださったんです!」
「あ、ああ。そうか。そんなに貴重なものをありがとう。リディア」
「母の開発した美容薬品の評判、アデル様もご存知でしょう? どんな傷もたちまち治して、老いた肌も若返らせると大人気なんですよ。ほら、お母様も四十代後半とは思えないくらいお若いでしょう? ……アデル様、ちゃんと聞いてます?」
「ああ、もちろん。夫人は確かにお若いな」
「どうやって開発したんだと皆に聞かれているようですが、作り方がわかったって誰も完成させられませんわ。だって、クロフォード家の魔力を込めて作っているんですもの。
クロフォード家には魔力が無限と言っていいほどありますから。王家も我が家と関係がつながっていれば安泰ですわね」
「ああ、頼もしいよ」
半ばうんざりした気持ちで相槌を打つ。
正直に言おう。うっとうしい。
リディアに婚約解消してもいいと言われてから、そこまで彼女を追い詰めていたことを反省し、最近は真剣に話を聞くよう努力し始めた。
学園でも以前のように避けたりせず、すれ違えば声をかけ、時折カフェに誘ったりしている。
しかし、どうにもうまくいかない。
彼女の話は主にクロフォード家がどれだけすごいのか、そんなクロフォード家と繋がりを持てる王家はどれだけ幸運なのか、他家では到底クロフォード家に敵わないという話が大半を占めている。
生家への愛が深いのはいいことだが、聞かされるこちらとしては面倒になる。
それでも、噂で判断せず、彼女本人と向き合うと決めたのだから、と己を鼓舞するようにリディアに笑顔を向ける。
目が合うと、リディアの顔が赤くなった。
「アデル様、最近変わりましたね。前は私の話なんて聞き流して、すぐに理由をつけてどこかへ行ってしまったのに……」
「今までのことは悪かったよ。これからはちゃんと君と向き合うと決めたんだ」
「嬉しい、アデル様……!」
リディアは感激したように口を手で覆うと、腕に抱きついてきた。彼女の柔らかな肌。どうしてだろう。私は目の前の彼女のことが好きなはずなのに、抱き着かれてもちっとも嬉しくない。
彼女といると、好意と嫌悪がないまぜになる。
「アデル様、フィオナ様との関係、ちゃんと切ってくださいました?」
腕にすがりついたまま、リディアは上目遣いで言った。
「……またその話か。そもそも最初からフィオナとはただの友人でやましいことは何もないと言っているだろう。最近はすれ違っても挨拶もしていないよ」
「まぁ、それはよかったです」
リディアは頬を緩めて言う。
フィオナとは、あの食堂での騒動以来、一度も話していない。
時折すれ違うが、彼女は私に気づくとさっと目を逸らしてどこかへ行ってしまう。当然だ。あの場で私は、自分の言葉でフィオナが追い込まれることを理解して、リディアの味方についたのだから。
彼女がどうして形見を壊されたなんて嘘をついたのかはわからない。
けれど、嘘をつくまで追いつめられていた彼女の心境を思うと、胸が重くなる。私はそんな彼女を切り捨ててしまった。
「アデル様? 何を考えているんですか?」
「いや、なんでも」
「アデル様、フィオナ様のことなんて考えないでくださいね。言っては何ですけれど、大勢の見ている前で嘘を吐くような方とは関わって欲しくはありませんわ」
「……わかっている」
やけに冷たい声で言うリディアに、思考が揺れていく。
本当に、嘘を吐いたのはフィオナだったのか?
浮かんできた疑問を、慌てて振り払った。
今までは父上に命令されて仕方なく出向いていたが、今日はちゃんと交流しようと決めていた。
しかし、その決意はお茶会が始まって三十分ほどで早くも折れそうになっている。
「アデル様、アデル様。それでこの紅茶なんですけどね、我がクロフォード家で母が開発した美容薬品をエイムズ領の領主様に贈りましたら、大変お喜びになられて。お礼に貴重な茶葉を贈ってくださったんです!」
「あ、ああ。そうか。そんなに貴重なものをありがとう。リディア」
「母の開発した美容薬品の評判、アデル様もご存知でしょう? どんな傷もたちまち治して、老いた肌も若返らせると大人気なんですよ。ほら、お母様も四十代後半とは思えないくらいお若いでしょう? ……アデル様、ちゃんと聞いてます?」
「ああ、もちろん。夫人は確かにお若いな」
「どうやって開発したんだと皆に聞かれているようですが、作り方がわかったって誰も完成させられませんわ。だって、クロフォード家の魔力を込めて作っているんですもの。
クロフォード家には魔力が無限と言っていいほどありますから。王家も我が家と関係がつながっていれば安泰ですわね」
「ああ、頼もしいよ」
半ばうんざりした気持ちで相槌を打つ。
正直に言おう。うっとうしい。
リディアに婚約解消してもいいと言われてから、そこまで彼女を追い詰めていたことを反省し、最近は真剣に話を聞くよう努力し始めた。
学園でも以前のように避けたりせず、すれ違えば声をかけ、時折カフェに誘ったりしている。
しかし、どうにもうまくいかない。
彼女の話は主にクロフォード家がどれだけすごいのか、そんなクロフォード家と繋がりを持てる王家はどれだけ幸運なのか、他家では到底クロフォード家に敵わないという話が大半を占めている。
生家への愛が深いのはいいことだが、聞かされるこちらとしては面倒になる。
それでも、噂で判断せず、彼女本人と向き合うと決めたのだから、と己を鼓舞するようにリディアに笑顔を向ける。
目が合うと、リディアの顔が赤くなった。
「アデル様、最近変わりましたね。前は私の話なんて聞き流して、すぐに理由をつけてどこかへ行ってしまったのに……」
「今までのことは悪かったよ。これからはちゃんと君と向き合うと決めたんだ」
「嬉しい、アデル様……!」
リディアは感激したように口を手で覆うと、腕に抱きついてきた。彼女の柔らかな肌。どうしてだろう。私は目の前の彼女のことが好きなはずなのに、抱き着かれてもちっとも嬉しくない。
彼女といると、好意と嫌悪がないまぜになる。
「アデル様、フィオナ様との関係、ちゃんと切ってくださいました?」
腕にすがりついたまま、リディアは上目遣いで言った。
「……またその話か。そもそも最初からフィオナとはただの友人でやましいことは何もないと言っているだろう。最近はすれ違っても挨拶もしていないよ」
「まぁ、それはよかったです」
リディアは頬を緩めて言う。
フィオナとは、あの食堂での騒動以来、一度も話していない。
時折すれ違うが、彼女は私に気づくとさっと目を逸らしてどこかへ行ってしまう。当然だ。あの場で私は、自分の言葉でフィオナが追い込まれることを理解して、リディアの味方についたのだから。
彼女がどうして形見を壊されたなんて嘘をついたのかはわからない。
けれど、嘘をつくまで追いつめられていた彼女の心境を思うと、胸が重くなる。私はそんな彼女を切り捨ててしまった。
「アデル様? 何を考えているんですか?」
「いや、なんでも」
「アデル様、フィオナ様のことなんて考えないでくださいね。言っては何ですけれど、大勢の見ている前で嘘を吐くような方とは関わって欲しくはありませんわ」
「……わかっている」
やけに冷たい声で言うリディアに、思考が揺れていく。
本当に、嘘を吐いたのはフィオナだったのか?
浮かんできた疑問を、慌てて振り払った。
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