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第二部
23.すべての後①
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※主人公視点に戻ります
◇ ◆ ◇
あの不幸なクロフォード家の事故から三ヶ月が経った。
私は学園に通いながら、クロフォード家の唯一の生き残りとしてせっせと働いている。
幼いころから搾取され続け、今は一人でクロフォード家のことに取り組む私を見る周りの視線は大変同情的だ。
クロフォード家では、長女のリディアがアデルバート殿下に婚約破棄を言い渡されたのと同じ日に、大きな爆発事故が起こった。
王家が行った調査では、地下室に溜め込んであった魔力が暴発して屋敷を半壊させるほどの爆発が起こったのだと言う。
一家は双子の妹のほうのリディアを残して、全員亡くなった。
公式には、そう発表されている。
「リディア、大丈夫か? 顔色が悪いが」
「まぁ、アデル様。大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで」
「睡眠はちゃんと取れよ。ただでさえ慣れない学園に通いながらクロフォード家の後処理に追われているんだ」
「ふふ、ありがとうございます」
心配そうに私を見るアデル様に、笑顔で言葉を返す。
私は唯一残ったクロフォード家の生き残りとして、家の後始末をする日々を過ごしていた。
王家はクロフォード家の生贄の件について調査が終わりしだい爵位を剥奪する予定でいたが、その前に当主であるお父様も後継であるお兄様も亡くなってしまった。
あとに残されたのはずっと地下室に閉じ込められていた私のみ。クロフォード家の処遇については議論が続いたらしい。
私は国王様に謁見の機会をもらい、申し出た。
「どうか私に責任を持ってクロフォード家を終わらせる役目を授けてくれないでしょうか」と。
国王様は被害者である私が責任を取る必要などないと言ってくれたが、クロフォード家の娘として責任を取りたいと言うと、いたく感動した様子で家のことを任せてくれた。
まだ若い私ではわからないことも多いだろうと、臣下を派遣までして。
すべての後始末が終わったら爵位を返上すると約束した。現在の私はおもしろいことに、名義上はクロフォードの公爵ということになっている。
クロフォードの屋敷は爆発事故により半壊したが、地下にはまだ私やさらわれてきた生贄を使って溜めた魔力が残っていた。
強過ぎる魔力は争いの種になる。
何しろこれだけの魔力があれば強大な力を手に入れることも、莫大な富を得ることもできるのだ。
私は「悪魔の壺」を守りながら、少しずつ魔力を使い続け、いずれ消滅させることに決めた。
使い切ってしまえば、たとえ国のどこかに魔獣が現れても、今までのように有利に討伐することはできなくなる。
クロフォード家という盾を失う以上、他国からの侵略にもこれまで以上に警戒しなくてはならない。
しかし、国王様はもとから一部の国民を犠牲に得た力だったのだから、これからはそれなしでやっていくべきだと魔力を使い切ることを認めてくれた。アデル様の父親らしい方だと思う。
残された魔力を使い、私はさらわれて衰弱していた人々を治療し、亡くなった人たちの遺族を探しては慰謝料としてお金を払って回った。
遺族の中には私自身もクロフォード家で搾取され続けてきたと知り同情してくれる人もいたが、事情を知らない者が圧倒的に多かった。
事情を知らない者たちは、私がクロフォードの人間だと知ると怒り狂って非難した。物を投げつけられることもあった。
不思議とそのことで悲しみや怒りを感じることはない。その人たちの目に、過去の自分が抱いた怒りを見たからかもしれない。
どんなに罵倒されようと、訪問をやめる気はなかった。
長く存在を隠されてきたとはいえ、私は間違いなくクロフォード家の血を引く者。
幼い頃から中指に嵌められた銀の指輪を眺めては、狂ったクロフォード家の歴史を終わらせることこそ私の役目なのだと、いつも自分に言い聞かせてきた。
声を荒げられようが、物を投げつけられようが、大したことではない。
しかし、アデル様は訪問で私が罵倒されることもあると知ると、どんなに忙しくても必ず同行してくれるようになった。王子の身分を隠すために変装をして。
彼は私が罵倒されるたびに、根気強く事情を説明してくれていた。
「それにしても、君には頭が下がるよ。自分を苦しめた公爵たちの罪を自ら贖って回るなんて」
アデル様は感心したように言う。
「そんなこと。アデル様こそ、毎回つき合ってくれるではありませんか」
「当然だ。君が傷つく可能性がある場所に一人で行かせるわけにはいかない」
「まぁ、嬉しいです」
「いつでも頼ってくれ。屋敷で一人で暮らすのが不安ならいつでも王宮に戻ってくればいい。私も両親も君なら大歓迎だ」
「嬉しいですわ。でも、大丈夫です。私にはローレッタがいますから」
「……そうだったな。君には私などよりずっと心強い味方がいるのだった」
アデル様はそう言って苦笑する。そうして何かあったらいつでも言うように念を押すと、去って行った。
◇ ◆ ◇
あの不幸なクロフォード家の事故から三ヶ月が経った。
私は学園に通いながら、クロフォード家の唯一の生き残りとしてせっせと働いている。
幼いころから搾取され続け、今は一人でクロフォード家のことに取り組む私を見る周りの視線は大変同情的だ。
クロフォード家では、長女のリディアがアデルバート殿下に婚約破棄を言い渡されたのと同じ日に、大きな爆発事故が起こった。
王家が行った調査では、地下室に溜め込んであった魔力が暴発して屋敷を半壊させるほどの爆発が起こったのだと言う。
一家は双子の妹のほうのリディアを残して、全員亡くなった。
公式には、そう発表されている。
「リディア、大丈夫か? 顔色が悪いが」
「まぁ、アデル様。大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで」
「睡眠はちゃんと取れよ。ただでさえ慣れない学園に通いながらクロフォード家の後処理に追われているんだ」
「ふふ、ありがとうございます」
心配そうに私を見るアデル様に、笑顔で言葉を返す。
私は唯一残ったクロフォード家の生き残りとして、家の後始末をする日々を過ごしていた。
王家はクロフォード家の生贄の件について調査が終わりしだい爵位を剥奪する予定でいたが、その前に当主であるお父様も後継であるお兄様も亡くなってしまった。
あとに残されたのはずっと地下室に閉じ込められていた私のみ。クロフォード家の処遇については議論が続いたらしい。
私は国王様に謁見の機会をもらい、申し出た。
「どうか私に責任を持ってクロフォード家を終わらせる役目を授けてくれないでしょうか」と。
国王様は被害者である私が責任を取る必要などないと言ってくれたが、クロフォード家の娘として責任を取りたいと言うと、いたく感動した様子で家のことを任せてくれた。
まだ若い私ではわからないことも多いだろうと、臣下を派遣までして。
すべての後始末が終わったら爵位を返上すると約束した。現在の私はおもしろいことに、名義上はクロフォードの公爵ということになっている。
クロフォードの屋敷は爆発事故により半壊したが、地下にはまだ私やさらわれてきた生贄を使って溜めた魔力が残っていた。
強過ぎる魔力は争いの種になる。
何しろこれだけの魔力があれば強大な力を手に入れることも、莫大な富を得ることもできるのだ。
私は「悪魔の壺」を守りながら、少しずつ魔力を使い続け、いずれ消滅させることに決めた。
使い切ってしまえば、たとえ国のどこかに魔獣が現れても、今までのように有利に討伐することはできなくなる。
クロフォード家という盾を失う以上、他国からの侵略にもこれまで以上に警戒しなくてはならない。
しかし、国王様はもとから一部の国民を犠牲に得た力だったのだから、これからはそれなしでやっていくべきだと魔力を使い切ることを認めてくれた。アデル様の父親らしい方だと思う。
残された魔力を使い、私はさらわれて衰弱していた人々を治療し、亡くなった人たちの遺族を探しては慰謝料としてお金を払って回った。
遺族の中には私自身もクロフォード家で搾取され続けてきたと知り同情してくれる人もいたが、事情を知らない者が圧倒的に多かった。
事情を知らない者たちは、私がクロフォードの人間だと知ると怒り狂って非難した。物を投げつけられることもあった。
不思議とそのことで悲しみや怒りを感じることはない。その人たちの目に、過去の自分が抱いた怒りを見たからかもしれない。
どんなに罵倒されようと、訪問をやめる気はなかった。
長く存在を隠されてきたとはいえ、私は間違いなくクロフォード家の血を引く者。
幼い頃から中指に嵌められた銀の指輪を眺めては、狂ったクロフォード家の歴史を終わらせることこそ私の役目なのだと、いつも自分に言い聞かせてきた。
声を荒げられようが、物を投げつけられようが、大したことではない。
しかし、アデル様は訪問で私が罵倒されることもあると知ると、どんなに忙しくても必ず同行してくれるようになった。王子の身分を隠すために変装をして。
彼は私が罵倒されるたびに、根気強く事情を説明してくれていた。
「それにしても、君には頭が下がるよ。自分を苦しめた公爵たちの罪を自ら贖って回るなんて」
アデル様は感心したように言う。
「そんなこと。アデル様こそ、毎回つき合ってくれるではありませんか」
「当然だ。君が傷つく可能性がある場所に一人で行かせるわけにはいかない」
「まぁ、嬉しいです」
「いつでも頼ってくれ。屋敷で一人で暮らすのが不安ならいつでも王宮に戻ってくればいい。私も両親も君なら大歓迎だ」
「嬉しいですわ。でも、大丈夫です。私にはローレッタがいますから」
「……そうだったな。君には私などよりずっと心強い味方がいるのだった」
アデル様はそう言って苦笑する。そうして何かあったらいつでも言うように念を押すと、去って行った。
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