23 / 23
1年後 (完結)
しおりを挟む
1年後。
私の庭に、オレンジ色の花びらに黒い線がうごめく花が咲きほこった。
「うわあ! すごいね! 素晴らしいよねっ!!」
興奮気味に言う私のそばには、首をかしげるアルがいる。
「素晴らしい…のか? まあ、数が多い分、不気味さは圧巻だ…。しかし、ライラは、あの時の花をよく育てようと思ったな…」
そう、このオレンジ色に黒い線が入っているこの花は、パトリックとアンナさんの黒い煙をすい取った時の種から咲いた花だ。
こぼれ落ちた種を、全部回収して保管してくれていたアル。
私が喜んで植えると言った時、アルは驚いた顔をしてたっけ…。
「誰からの邪気であっても、自分の手のひらからでてきた種なんだよ? やっぱり、植えたいよ!」
「ライラは死にかけたんだぞ?!」
と、アルが納得のいかない様子で言った。
でも、どんなことが起ころうと、やっぱり、どんな花に育つのか興味のほうが勝ってしまう。
パトリックとアンナさんのあの出来事から取れた種だが、数が多かったので、裏庭を全て私の庭にしてもらって、ひとつ残らず植えた。
そして、1年かかって、今日、一斉に花が咲いたのだ。
そう言えば、昨日、やっと魔力治療院から退院したパトリックから謝罪の手紙が届いたのも偶然とは思えない。
パトリックは、お兄様のルドルフ様の監視の元、厳しいと評判の他国の学園に留学するそうだ。
手紙には、「いつかライラに直接会って謝りたい。そうなれる人間に生まれ変わりたい」と書いてあった。
が、正直、私としては、もうパトリックに謝ってもらいたいとは思ってない。
パトリックへの複雑な気持ちは、彼からすい取って生れでた種を植え、世話をしている間に、とっくに、消え失せたから。
殺されかけたけれど、アンナさんに対しても同じだ。
私の身近な人たちは、この1年、私に二人のことを耳に入れないよう気を使ってくれていた。
なので、アンナさんのことも、私がしつこく聞いて、やっと、お父様が言葉を濁しながら教えてくれた。
それによると、アンナさんは、未だ不安定な精神状態のままで、拘束されて治療を受けているらしい。
自分の魔力の限界を超えて魅了をしたため、魔力のコントロールがきかない状態だったアンナさん。
そんな状態で魅了の対象者が離れてしまったことで、魔力が逆流して自分に魅了をかけ続けている状態になっているそう。そのため、他者が認識できなくなるという深刻な状況に陥っているみたい。
お父様は、裁きが受けられないことを悔しそうにしていたけれど、私としたら、その状態がまさに罰せられているように思える。
「長かったな…」
アルがつぶやいた。
「ほんとだね。一年もかかったもんね。アルも気持ち悪そうにしながらも、よく手伝ってくれたよね。ここの花たちに愛着がわいてきた?」
「…いや、まったく。…でも、花として咲いて喜んでいるような気がするな」
「やっぱり?! アルもそう思う? 私も毎回思うんだよね。…それにしても、ちょうど、アルがいる時に咲いてくれて良かった」
「花も気を使ったんだろ」
「そりゃあ、1年も世話してもらったんだもん。花たちも感謝してるよ」
アルは、学園が休みの日には、王都から辺境まで通って、この花たちの世話を手伝ってくれた。
私の変わった能力は限られた人にしか言ってないから、庭が広くなっても私が一人で世話をしている。
だから、アルが手伝ってくれて、本当に助かった。
「いや…そうじゃなくて、この花が咲いたら、ライラに言おうと思ってたことがあって…」
そう言うと、アルは手に持っていたバケツをおろし、私の方にむきなおった。
「俺はライラが好きだ。俺と結婚してくれ」
「え? …えええええっ?!」
「これからもライラと一緒にいたい。どんな不気味な花でも、育てるのを手伝う。どうだ?」
「…どうだって言われても。…アルは王子でしょ!」
「辺境伯に婿入りできるよう、とっくに外堀は埋めている。俺が、1年も、ただただ、のんきにここへ通ってたと思うか?」
そう言うと、切れ長の目を細めて、意味ありげに微笑んだ。
「だから、他のことは何も気にするな。すべてはライラの気持ち次第だ。これから先も俺と一緒にいてくれないか?」
アルの紫色の瞳が、まっすぐに私を見つめてきた。
突然の告白に驚いたけれど、すぐに心は決まった。
私は、いつの間にか、アルが来てくれる日を心待ちにするようになっていたから。
「…アルといると楽しい。アルと一緒にいたい」
そう答えたとたん、アルにやさしく抱きしめられた。
その時、いっせいにオレンジ色の花がちりはじめ、ちった先から、光の粒にかわっていく。
そして、心地のよい風にのって、光の粒は光の帯となり、空へとのぼっていった。
土に戻った自分の庭を見ながら、アルに声をかける。
「これからもどんどん不気味な種を植えていくけど、手伝ってくれる?」
「もちろんだ! 任せとけ」
「じゃあ、手始めに、王都でしか手に入らないような黒い煙をつけてきてねー。珍しい種ができたらいいなあ!」
「おい! ライラは花の種さえもらえればいいのか?!」
「そう、私は、花の種さえもらえれば満足なんだよ…。なーんて、そんなことを思ってた時もあったな」
でも、今は、アルと一緒にいられたら、それだけで大満足だ。
(完)
※ 読みづらい点も多かったことと思いますが、読んでくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました!
本編は完結しましたが、番外編を始めました。
別視点でのお話や、後日談など、のんびり書いております。
よろしかったら、そちらも読んでいただければ嬉しいです!
私の庭に、オレンジ色の花びらに黒い線がうごめく花が咲きほこった。
「うわあ! すごいね! 素晴らしいよねっ!!」
興奮気味に言う私のそばには、首をかしげるアルがいる。
「素晴らしい…のか? まあ、数が多い分、不気味さは圧巻だ…。しかし、ライラは、あの時の花をよく育てようと思ったな…」
そう、このオレンジ色に黒い線が入っているこの花は、パトリックとアンナさんの黒い煙をすい取った時の種から咲いた花だ。
こぼれ落ちた種を、全部回収して保管してくれていたアル。
私が喜んで植えると言った時、アルは驚いた顔をしてたっけ…。
「誰からの邪気であっても、自分の手のひらからでてきた種なんだよ? やっぱり、植えたいよ!」
「ライラは死にかけたんだぞ?!」
と、アルが納得のいかない様子で言った。
でも、どんなことが起ころうと、やっぱり、どんな花に育つのか興味のほうが勝ってしまう。
パトリックとアンナさんのあの出来事から取れた種だが、数が多かったので、裏庭を全て私の庭にしてもらって、ひとつ残らず植えた。
そして、1年かかって、今日、一斉に花が咲いたのだ。
そう言えば、昨日、やっと魔力治療院から退院したパトリックから謝罪の手紙が届いたのも偶然とは思えない。
パトリックは、お兄様のルドルフ様の監視の元、厳しいと評判の他国の学園に留学するそうだ。
手紙には、「いつかライラに直接会って謝りたい。そうなれる人間に生まれ変わりたい」と書いてあった。
が、正直、私としては、もうパトリックに謝ってもらいたいとは思ってない。
パトリックへの複雑な気持ちは、彼からすい取って生れでた種を植え、世話をしている間に、とっくに、消え失せたから。
殺されかけたけれど、アンナさんに対しても同じだ。
私の身近な人たちは、この1年、私に二人のことを耳に入れないよう気を使ってくれていた。
なので、アンナさんのことも、私がしつこく聞いて、やっと、お父様が言葉を濁しながら教えてくれた。
それによると、アンナさんは、未だ不安定な精神状態のままで、拘束されて治療を受けているらしい。
自分の魔力の限界を超えて魅了をしたため、魔力のコントロールがきかない状態だったアンナさん。
そんな状態で魅了の対象者が離れてしまったことで、魔力が逆流して自分に魅了をかけ続けている状態になっているそう。そのため、他者が認識できなくなるという深刻な状況に陥っているみたい。
お父様は、裁きが受けられないことを悔しそうにしていたけれど、私としたら、その状態がまさに罰せられているように思える。
「長かったな…」
アルがつぶやいた。
「ほんとだね。一年もかかったもんね。アルも気持ち悪そうにしながらも、よく手伝ってくれたよね。ここの花たちに愛着がわいてきた?」
「…いや、まったく。…でも、花として咲いて喜んでいるような気がするな」
「やっぱり?! アルもそう思う? 私も毎回思うんだよね。…それにしても、ちょうど、アルがいる時に咲いてくれて良かった」
「花も気を使ったんだろ」
「そりゃあ、1年も世話してもらったんだもん。花たちも感謝してるよ」
アルは、学園が休みの日には、王都から辺境まで通って、この花たちの世話を手伝ってくれた。
私の変わった能力は限られた人にしか言ってないから、庭が広くなっても私が一人で世話をしている。
だから、アルが手伝ってくれて、本当に助かった。
「いや…そうじゃなくて、この花が咲いたら、ライラに言おうと思ってたことがあって…」
そう言うと、アルは手に持っていたバケツをおろし、私の方にむきなおった。
「俺はライラが好きだ。俺と結婚してくれ」
「え? …えええええっ?!」
「これからもライラと一緒にいたい。どんな不気味な花でも、育てるのを手伝う。どうだ?」
「…どうだって言われても。…アルは王子でしょ!」
「辺境伯に婿入りできるよう、とっくに外堀は埋めている。俺が、1年も、ただただ、のんきにここへ通ってたと思うか?」
そう言うと、切れ長の目を細めて、意味ありげに微笑んだ。
「だから、他のことは何も気にするな。すべてはライラの気持ち次第だ。これから先も俺と一緒にいてくれないか?」
アルの紫色の瞳が、まっすぐに私を見つめてきた。
突然の告白に驚いたけれど、すぐに心は決まった。
私は、いつの間にか、アルが来てくれる日を心待ちにするようになっていたから。
「…アルといると楽しい。アルと一緒にいたい」
そう答えたとたん、アルにやさしく抱きしめられた。
その時、いっせいにオレンジ色の花がちりはじめ、ちった先から、光の粒にかわっていく。
そして、心地のよい風にのって、光の粒は光の帯となり、空へとのぼっていった。
土に戻った自分の庭を見ながら、アルに声をかける。
「これからもどんどん不気味な種を植えていくけど、手伝ってくれる?」
「もちろんだ! 任せとけ」
「じゃあ、手始めに、王都でしか手に入らないような黒い煙をつけてきてねー。珍しい種ができたらいいなあ!」
「おい! ライラは花の種さえもらえればいいのか?!」
「そう、私は、花の種さえもらえれば満足なんだよ…。なーんて、そんなことを思ってた時もあったな」
でも、今は、アルと一緒にいられたら、それだけで大満足だ。
(完)
※ 読みづらい点も多かったことと思いますが、読んでくださった方、お気に入り登録をしてくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました!
本編は完結しましたが、番外編を始めました。
別視点でのお話や、後日談など、のんびり書いております。
よろしかったら、そちらも読んでいただければ嬉しいです!
応援ありがとうございます!
42
お気に入りに追加
965
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(23件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです!
邪気が花の種になり咲いて浄化されるなんてすごい発想!
ライラが育てるから無事に咲くんだろうなあ…
私が放つ邪気もライラに託したいw
素直なライラとツンデレなアル、読んでて気持ち良いものでした。
うわあ、なんて、嬉しい!!
あんころもち様、本当にありがとうございます!
あたたかいご感想をいただき感動しております😂
ライラとアルのことも、そう言っていただけて、良かった……。
ものすごく励まされました!
最後まで読んでくださり、あたたかいご感想も本当にありがとうございました!
感謝でいっぱいです💐
一気に読みました。とても楽しかったです。ちょっと無鉄砲なアクテイブなご令嬢大好きです。続編も楽しく読ませていただいてます。
連載中から始まって、今ちょつとずつ、完結作品読ませていただいてまーす。
感想をありがとうございます!
なんと、色々読んでくださっているんですね!! ありがとうございます!
とっても、あたたかいご感想に、ドキドキいたしました! 嬉しいですO(≧▽≦)O
「ちょっと無鉄砲なアクテイブなご令嬢大好き」なんですね! 私もです(*´艸`)
楽しんでいただけたとのこと、なにより嬉しいです!
読んでくださって、あたたかいご感想までいただき、本当にありがとうございます!
大変、励まされました!
他の人に対するネガティブな気持ちが気味の悪い種になるなんて~
とっても楽しく読ませて頂きました。有難うございました。
感想をありがとうございます!
あたたかいご感想に、気持ちが舞い上がりました\(^_^)/
楽しんでいただけたなんて、嬉しい限りです!
読んでくださって、ご感想までいただき、本当にありがとうございます!
大変、励まされました!