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第一章 器用貧乏な少年、ユーリ
3.解き明かされる器用貧乏
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◇
とある日、ユーリは父ミゲルと二人、グランマード家が属するアムダルシア王国の王都、アニマへと向かう馬車の中にいた。
「ユーリ、初めての長旅だが疲れてはいないか?」
「はい父様、僕は平気です。むしろ、見たこともない景色ばかりで楽しいです」
少し弾んだ声色で紡がれたその言葉通り、ユーリは目を輝かせながら窓から外を眺めていた。
これまで、ユーリの世界はグランマード領という、小さな箱庭の中に収まっていた。人生のうち殆どを屋敷の中で過ごし、外へ出られたとしても、ミゲルの傍を離れないよう厳命されていたので、自由はなかった。
その理由も、大切に育てられた箱入り息子だからというものではなく、単にミゲルら……主に男爵婦人の『妾の子など家畜と同じ』という、ひどく利己的なものだった。
そんな境遇で育ったユーリからしたら、馬車から見えるたいして代わり映えしない景色ひとつひとつが新鮮に映っているのだろう。
いつまでもいつまでも、その双眸に焼き付けるかのように窓に張りついている。
「やれやれ……はしゃぐのはいいが、疲れて『天命の儀』の最中に眠りこけぬようにな」
「はい、もちろんです!」
ユーリが王都へと赴いているのには理由がある。
王都にある聖王教会にて、『天命の儀』を受けるのが目的だ。
『天命の儀』とは、その者が持つ『加護』を明らかにする、伝統ある儀式である。
『加護』はスキルとは違い、どれだけ努力しても習得することができない。この世に生まれ落ちたその瞬間から決められた才能のようなものだ。
「ふふふ、きっとユーリには特別な加護が備わっているに違いない。剣王の加護か? もしかしたら戦神の加護かもしれないな」
ミゲルはユーリが他人とは一線を画す優秀な加護を宿していることに確信を持っていた。
長男であるパオロは生後まもなく儀式を終えていて、【剣士の心得】という、剣に関するスキルの成長にプラス補正がかかる加護を有している。
だが、ユーリはそのパオロをも遥かに超える成長を見せた。期待するなと言う方が無理がある。
「しかし……こんなことならもっと早くに儀式を受けさせるべきだったか」
天命の儀は誰でも受けることができ、年齢制限もない。だが、その恩恵にあずかるには少なくない寄付金を教会に納めねばならない。
平民ならともかく、貴族の子息ともなれば、生まれ落ちて間もなく儀式を受けさせるのが常だ。
しかし、妾の子であり厄介者として扱われていたユーリは、この歳になってようやく自身の加護を知る機会を得たのだった。
――そして、半日にわたる移動を経て、ユーリたちは聖王教会へと到着した。
今日儀式を受けるのはユーリひとりだけだったため、待ち時間もなくスムーズに中へと通される。
あれよあれよという間に儀式は進行し、今、ユーリは光に包まれていた。
「……なんと、これはっ!?」
儀式を執り行っている立派な髭を蓄えた司祭が驚きの声を上げた。
ユーリが天命の儀を受けた直後で、ユーリの周囲から光が徐々に霧散している途中のことだった。
「ふむ……司祭よ、その驚きようからして、やはりユーリには特別な加護があったのだな?」
儀式に同伴していたミゲルが、得意気な顔で司祭へと話しかける。
「特別……そうですね。とても珍しい加護です。彼の……ユーリ君の加護は、【器用貧乏】だと判明しました」
「ん? 器用……貧乏?」
「はい、この道五十年の私でも初めて見る加護です。極めて珍しいと言えるでしょう。おそらくは世界でもユーリ君だけが持つ特別な加護です」
「おおっ、やはりユーリには才能があったのだな! して、その【器用貧乏】とやらにはどんな効果があるのだ?」
顔が密着しそうなほどに司祭へと詰め寄るミゲル。
司祭はミゲルに気圧され後退りながらも、詳細を確認するため再びユーリを注視する。
「え、ええと……様々なスキルへの適正があり、更に高い成長補正があるようですが……あっ」
「ど、どうしたのだ?」
「はい、ええと……非常に申し上げにくいのですが……ユーリ君のスキルレベル上限は3のようです。それも習得した全てのスキルに適用されるようで……」
「な……馬鹿な……!?」
ユーリの加護の効果を聞き、ミゲルは膝から崩れ落ちる。司祭の言葉は、ミゲルがユーリに抱いていた期待を打ち砕くには充分すぎたのだ。
とある日、ユーリは父ミゲルと二人、グランマード家が属するアムダルシア王国の王都、アニマへと向かう馬車の中にいた。
「ユーリ、初めての長旅だが疲れてはいないか?」
「はい父様、僕は平気です。むしろ、見たこともない景色ばかりで楽しいです」
少し弾んだ声色で紡がれたその言葉通り、ユーリは目を輝かせながら窓から外を眺めていた。
これまで、ユーリの世界はグランマード領という、小さな箱庭の中に収まっていた。人生のうち殆どを屋敷の中で過ごし、外へ出られたとしても、ミゲルの傍を離れないよう厳命されていたので、自由はなかった。
その理由も、大切に育てられた箱入り息子だからというものではなく、単にミゲルら……主に男爵婦人の『妾の子など家畜と同じ』という、ひどく利己的なものだった。
そんな境遇で育ったユーリからしたら、馬車から見えるたいして代わり映えしない景色ひとつひとつが新鮮に映っているのだろう。
いつまでもいつまでも、その双眸に焼き付けるかのように窓に張りついている。
「やれやれ……はしゃぐのはいいが、疲れて『天命の儀』の最中に眠りこけぬようにな」
「はい、もちろんです!」
ユーリが王都へと赴いているのには理由がある。
王都にある聖王教会にて、『天命の儀』を受けるのが目的だ。
『天命の儀』とは、その者が持つ『加護』を明らかにする、伝統ある儀式である。
『加護』はスキルとは違い、どれだけ努力しても習得することができない。この世に生まれ落ちたその瞬間から決められた才能のようなものだ。
「ふふふ、きっとユーリには特別な加護が備わっているに違いない。剣王の加護か? もしかしたら戦神の加護かもしれないな」
ミゲルはユーリが他人とは一線を画す優秀な加護を宿していることに確信を持っていた。
長男であるパオロは生後まもなく儀式を終えていて、【剣士の心得】という、剣に関するスキルの成長にプラス補正がかかる加護を有している。
だが、ユーリはそのパオロをも遥かに超える成長を見せた。期待するなと言う方が無理がある。
「しかし……こんなことならもっと早くに儀式を受けさせるべきだったか」
天命の儀は誰でも受けることができ、年齢制限もない。だが、その恩恵にあずかるには少なくない寄付金を教会に納めねばならない。
平民ならともかく、貴族の子息ともなれば、生まれ落ちて間もなく儀式を受けさせるのが常だ。
しかし、妾の子であり厄介者として扱われていたユーリは、この歳になってようやく自身の加護を知る機会を得たのだった。
――そして、半日にわたる移動を経て、ユーリたちは聖王教会へと到着した。
今日儀式を受けるのはユーリひとりだけだったため、待ち時間もなくスムーズに中へと通される。
あれよあれよという間に儀式は進行し、今、ユーリは光に包まれていた。
「……なんと、これはっ!?」
儀式を執り行っている立派な髭を蓄えた司祭が驚きの声を上げた。
ユーリが天命の儀を受けた直後で、ユーリの周囲から光が徐々に霧散している途中のことだった。
「ふむ……司祭よ、その驚きようからして、やはりユーリには特別な加護があったのだな?」
儀式に同伴していたミゲルが、得意気な顔で司祭へと話しかける。
「特別……そうですね。とても珍しい加護です。彼の……ユーリ君の加護は、【器用貧乏】だと判明しました」
「ん? 器用……貧乏?」
「はい、この道五十年の私でも初めて見る加護です。極めて珍しいと言えるでしょう。おそらくは世界でもユーリ君だけが持つ特別な加護です」
「おおっ、やはりユーリには才能があったのだな! して、その【器用貧乏】とやらにはどんな効果があるのだ?」
顔が密着しそうなほどに司祭へと詰め寄るミゲル。
司祭はミゲルに気圧され後退りながらも、詳細を確認するため再びユーリを注視する。
「え、ええと……様々なスキルへの適正があり、更に高い成長補正があるようですが……あっ」
「ど、どうしたのだ?」
「はい、ええと……非常に申し上げにくいのですが……ユーリ君のスキルレベル上限は3のようです。それも習得した全てのスキルに適用されるようで……」
「な……馬鹿な……!?」
ユーリの加護の効果を聞き、ミゲルは膝から崩れ落ちる。司祭の言葉は、ミゲルがユーリに抱いていた期待を打ち砕くには充分すぎたのだ。
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