千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

10.成長した器用貧乏

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 ――ユーリがレニと出会った日から八年が過ぎた。

 レニのもとで修行……もとい実験の被害者(?)として過酷な日々を生き抜いてきたユーリは、伸長も伸び十五歳の立派な青年へと成長した。

 そして相変わらず今日もまた、ユーリはレニの無茶苦茶な『実験』に振り回されているのであった。





 ガシャン、ガシン。
 ジャキン、ズドン。

「右、左、上――っ!? 地中からかよっ!?」

 同時にを襲う、特殊合金で造られた四体のゴーレム。八年前の土人形と違い、三メートル近くあった体長は成人男性程度へと縮み、形状も人間に近い。
 当然、そのぶん軽くなり、スピードは昔と比べ物にならない。だからといってパワーで劣るのかというと、そんなことはない。単純な質量こそ劣るが、膂力に関してはむしろ上がっている。

 そんなスタイリッシュハイパワーな新型ゴーレムが、上下左右あらゆる方向から同時に攻撃をしかけてくるのを【直感】スキルで感じとり、【見切り】スキルと併用してなんとかして回避する。

 ……くそ、他の三体の後ろで姿を隠しつつ意識外の地面から攻撃してくるなんて、レニさん師匠も相変わらず意地が悪いというかなんというか……。

「ファイアウォール!」

 【詠唱破棄】した【炎魔法】を使用し、炎の壁でゴーレムたちの行く手を阻みつつ、バックステップで距離をとる。
 ……が、ゴーレムは炎を無視して突っ込んできた。

 うーわ、この程度じゃ足止めにもならないのかよ。

「ん?」

 追撃に備え身構えている最中、あることに気が付いた。

「三体のゴーレムしか追撃しに来ていない……?」

 炎の壁を抜けてきたゴーレムは三体。そうなると残りの一体はどこだ? 
 結界の横幅ギリギリまでファイアウォールを広げたから、こちら側に来るには炎の中を突っ切る必要がある。まさか、また地中から来るのか?
 そう思い【索敵】スキルで気配を探ると、残る一体のゴーレムはまだ炎の壁の向こう側にいる。他の三体が突破できるのに、同じようにしないのは何故だ……?

 いや、悩んでいても仕方がない。とにもかくにも試行錯誤を重ねるしかないだろう。師匠の造ったゴーレムが一筋縄でいかないのは俺が一番よく知っている。

「よし、物は試しだ。ウォーターボール三連発!」

 俺は【多重詠唱】と【水魔法】で生成した三つの水球を、三体のゴーレムそれぞれに向かって放つ。
 
「グ、ゴゴ……」

 ウォーターボールは全弾命中。すると、ゴーレムのうち一体の動きが明らかに鈍くなったことに気が付く。

「……ははーん、そういうことか……っと!」

 まだまだ元気な二体の猛攻を捌きつつ、これまでの状況を分析した俺は、ある結論に至った。

 おそらく四体のゴーレムには、それぞれ弱点となる属性が設定されている。【水魔法】の中でも最下級の攻撃魔法、ウォーターボールですら明らかに効いていることがその証拠だ。

 弱点以外の属性はほぼダメージがないようだが、一体ずつ弱点を突いていけば倒しきれるはずだ。
 ファイアウォールで足止めできた一体。そしてウォーターボールで動きが鈍ったもう一体……弱点は火属性と水属性だな。そうなると、おそらく各ゴーレムは四大属性……すなわち火、水、風、土のどれかが弱点として設定されている可能性が高い。

 …………さすがの師匠も四大属性以外の属性を弱点にするなんて意地の悪いことしてこないよな?

「ま、まあいいや。とりあえず残る二体のゴーレムの弱点を確定させる! ロックバレット、ウインドカッター!」

 師匠のしたり顔が頭に浮かんだが、それを振り払いつつ【土魔法】と【風魔法】をそれぞれ弱点が確定していないゴーレムへと向けて放つ。
 
「っしゃあ! 大当たり!」

 運のいいことに各々の弱点を突いたらしく、魔法が命中したゴーレムは明らかに動きを鈍らせた。よし、これで各ゴーレムの弱点属性は把握したぞ。

 ……っと、ファイアウォールの効力が切れて最初に分断したゴーレムが動き始めたか。ちょうどいい、お前から片付けさせてもらおう。

「フレイムジャベリン・三連!」

 俺が使える最高位の【火魔法】を、【多重詠唱】で三発同時に火属性が弱点のゴーレムへと撃ち込む。

「ちっ、一発躱されたか」

 距離が離れていたこともあり、三本の炎の槍のうちひとつは躱されてしまったが、続く二本はゴーレムの右脚と胸部へと突き刺さり、そこから勢い良く燃え上がる。
 魔法によって炎上したゴーレムは膝から崩れ落ち、やがてその動きを止めた。

「っし、結果オーライ!」

 運良く今の一撃で胸部にあった核を破壊できたのだろう。これで残るはあと三体だ。

「しかし見事に核の位置がバラバラだな……」

 【弱点看破】のスキルでゴーレムの核の位置を見抜けているのだが、ゴーレムごとに核の位置がバラけているのだ。
 胸部、頭部、腹部……ひどいやつだと右足の先に核があるやつもいる。こんなんタンスの角にぶつけただけで死ぬぞ……。いや、弱点属性以外は効かないから大丈夫なのか?
 
 ……ああもう、余計なことを考えさせられるな俺。まんまと師匠の思惑にはまってしまったときのあの憎たらしいしたり顔を見たくないだろう。

「一気に終わらせる……って、ええっ!?」

 次のゴーレムを倒しにかかろうとした瞬間、俺は自分の目を疑った。
 さっきフレイムジャベリンを放ってからほんの数秒しか経っていない。だというのに、核を破壊したはずのゴーレムが再び形を取り戻し、活動を再開していたのだった。
 ついでに、他のゴーレムも弱点を突いて動きを鈍らせていたのに、ダメージなどなかったかのように元の俊敏な動きを取り戻している。

「嘘だろ。完全に回復している……? まさか――」

 思い当たる節があり、【魔力視】スキルでゴーレムたちの周囲に存在する魔力の流れを視る。
 ……やはりそうだ。四体のゴーレムは魔力の糸で繋がっている。これは厄介極まりない。

 たとえ一体のゴーレムの核を破壊したとしても、他のゴーレムより生成される魔力を供給することで核ごと再生してしまう。つまり、四体のうち一体でも稼働しているゴーレムがいる限り、無限に立ち上がってくるってわけだ。

 しかも、再生にかかる時間はほんの数秒と化け物じみて早い。
 このことから導き出される攻略法は、各ゴーレムの弱点属性をほぼ同時に核へと叩き込む……といったところだろう。
 ……ったく、なんつーいやらしいゴーレムなんだ。造った奴の顔が見てみたい。

「ま、無理難題を押し付けてくるのはいつものことか。……うん、そうだな、まずはこの手でいこう」

 俺の中に蓄積されたスキルや経験をもとに、ゴーレムを倒す方法が瞬時にいくつか頭に浮かんだ。
 その中のひとつを実行するため、ゴーレムの攻撃をいなしながら準備を整えていく。

 今から実行しようとしている方法は単純明快。各属性の広範囲魔法をぶっ放して核を破壊するというものだ。
 少々雑な手段だが、直径十メートルほどの結界内すべてを対象とする範囲魔法を放てば回避することは不可能だろう。
 ただ、俺の【多重詠唱】スキルのレベルは3。同時に発動できる魔法は三つまでだ。なので使える属性も最大三つ、どうしても一体のゴーレムが残ってしまう計算だ。

 【詠唱破棄】スキルがあるので魔法を連射できないこともないが、それでもあのゴーレムを倒せるほどの威力を込めた魔法を使うには、次の発動まで数秒かかってしまう。
 そのわずかな時間で回復されてしまう可能性が捨てきれないため、ここは念には念を入れて全ゴーレムを同時に破壊したいところだ。

 そこで俺が思い付いたのは、

「複数の属性を持つ魔法で倒す……!」

 本来ならば、異なる属性を内包した魔法は存在しない。だが、それを可能にするスキルならば存在する。
 
 そのスキルの名は【合成魔法】。俺がこの八年の実験の中で習得した上位スキルのひとつだ。

 その効果は単純明快。二つの魔法を合成させることによって、新たな魔法を作り出すことができる……といったものだ。このスキルを使えば、複数の属性を併せ持つ魔法を作り出すことも容易だ。

「よっ、ほっと」

 ゴーレムの攻撃を躱しながら、ゴーレムを二分するように誘導する。その結果俺が挟み込まれる形になったが、これでいい。
 
 ……いくぞ、【合成魔法】スキル発動。

 【炎魔法】フレイムジャベリン+【土魔法】ロックバレット。
 【水魔法】ウォーターフォール+【風魔法】トルネード。

 右手と左手を起点として、【多重詠唱】を用いて、二つの合成魔法を同時に発動させる。

「【多重詠唱】マグマバレット、ジェットスパイラル!」

 火の力によって熱せられ赤熱した数多の土塊、そして風の力によって高速で回転する水の奔流。
 二つの属性を内包した魔法が放たれ、ゴーレムをあっという間に飲み込む。

「やったか……?」

 魔法を撃ち終わり、視界が晴れてくる。

 弱点属性を含むとはいえ、複合属性が効果的なのかは未知数だ。そして、威力のほうも足りているかわからない。もし破壊しきれていなかった場合、すぐに次のプランへと移らなくてはならない。
 そのため、俺は臨戦態勢を崩さずに、魔法を受け動きが止まっている四体のゴーレムの様子を観察していた。

「……おっ、魔力の繋がりが切れている。ってことは、やった……やったぞ!」

 【魔力視】スキルを使い、魔力の相互供給が切れていることを確認したので、ふぅと息を吐き肩の力を抜く。

 十秒が過ぎてもピクリとも動かないゴーレムを見た俺は、ようやく勝利を確信することができたのだった。
 
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