千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

11.やさぐれた器用貧乏

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 ぱちぱちぱち。

 俺が勝利を確信したのとほぼ同時に、背後から手を叩く音がした。

「いやー、お見事お見事。今回のゴーレムは結構自信作だったんだがねぇ。まさか五分足らずでやられちゃうとは、超越スキルと武器の使用禁止の縛りじゃ足りなかったかな」

 拍手をしながら現れたのは、俺の師匠であるレニさんだ。彼女は俺の正面に回り込むと、頭をぽんぽんと撫でてくる。

「ちょっ、やめろよ師匠。俺はもう十五だぞ。子供じゃないんだからそんなので喜ばないっての……」
「んー? あたしにとっちゃあまだまだ子供だよ」
「そりゃ師匠と比べたら大抵の人間が子供みたいなものだろうけど……」

 昔と比べ身長もだいぶ伸び、あと一歩で大人の仲間入りできるくらいに成長した俺だが、師匠の年齢と比較されてしまったならば子供扱いされても仕方がない。
 というのもこの人、どう見ても二十代半ばの容姿だというのに、これで齢千歳を過ぎているガチの年寄りなのだ。

 なんでも、師匠が持つ超越スキル【時魔法】の力で老化を止めているらしい。しかもこれは常時行われているらしく、力の何割かはこのアンチエイジングに注ぎ込んでいると以前熱弁されたことがある。

 ……まあ千歳ってのは本人の談なので眉唾物だが、この八年でシワのひとつも増えていないところを見ると、まるっきり嘘というわけでもないのだろう。

「……若作りババア」
「あ?」

 ふと漏れてしまった本音をきっかけに、それまで俺の頭を優しく叩いていた手に力がこもり、頭を鷲掴みにされる。

「い、いててててっ! そんな馬鹿力で頭を思い切り……掴むなっての!」
「はぁ……ったく、いつからこんなクソガキになってしまったのやら。髪だって染めちゃってからして」
「この髪は師匠のせいだからな!?」

 真っ黒だった俺の髪は、前髪の一部が白く変色してしまった。
 これはかっこつけとか心境の変化とかで染めているわけじゃなく、実験の過程で受けた過度なストレスによって、髪の一部分が白髪化してしまったのだ。

 かれこれ二年近くこのままなので、もう元には戻らないだろうと諦めている。

「なんだよーそんな突っかかってきて。昔はもっと素直でいい子だったのになあ。いつからこんな荒んだ性格になってしまったのやら」
「それも師匠のせいだからな!? ――っていうか早く頭から手を離せって、痛いから! あいたたたたっ!」

 師匠が言うように、性格やら言葉遣いやらが荒くなってしまった自覚はある。でも、仕方がなくないか?

 スキル習得のためとはいえ、毎日のように行われる地獄の実験の数々。何度もゴーレムに潰されそうになったり、【毒耐性】スキル獲得のために毒キノコをたらふく食わされたり、水中に何分も沈められたり、他にもいろいろ……数えきれないほど死にかけて、その度にいくつものトラウマが増えていく日々。
 
 そんな殺人級の無理難題を、毎日毎日嬉々として俺に押し付けてくる師匠に殺意を抱くのはごく自然なことだろう。
 ……とはいえ、反撃したところでまるで敵わないのはわかりきっている。俺ができることといえば、態度や言葉遣いで遺憾の意を表す他ない。ささやかな抵抗ってやつだ。

「ははは、あたしのせいか!」

 ようやく俺の頭から手を離した師匠は、まるで他人事みたいに笑った。ぐっ、新たに内なる殺意が目覚めそうだ……!
 しかし、次の瞬間には師匠のからっとした笑顔が優しさを感じる微笑みに変わった。

「……まあ、その、なんだ。辛い思いをさせてしまったかもしれないけど、それでも少年は投げ出さずにあたしに付き合ってくれた。感謝しているよ」

 ……なんだよ。ずるいってその顔は。
 怒るに怒れなくなってしまうじゃないか。

 この八年間、むかつくことは山ほどあったけど、ひとりきりだった俺をここまで導いてくれたんだ、どちらかと言えば感謝している。

「師匠……お、俺も。俺だって感謝――」
「じゃ、そういうことで次の実験いってみようか!」
「いつか殺す!!」

 したり顔で再び俺を地獄の縁へ叩き落とす師匠に対し、俺は最大限の愛情表現サムズダウンで応えた。
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