千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第二章 王都アニマ

25.認められる器用貧乏

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「二人とも熱くなりすぎです! これは模擬戦闘だってわかっていますか!?
 特にギルドマスター、あなたは当ギルドの最高責任者なんですよ? まだ正式登録も済ませていない若者に大怪我を負わせようものなら、ギルドの威信に関わります!」

 アイシャさんは怒り心頭だ。それこそ頭から蒸気を小刻みに噴出しているんじゃないかと錯覚しそうなほどに。
 そんな彼女が、小走りでこちらへと近づいてくる。

「い、いやだなアイシャくん……このボクがそんなヘマをする男に見えるかい?」
「見くびらないでください。私、目はいいんです。ちゃんと見えてましたからね、ギルドマスターが左手の剣を使って攻撃しようとしたところを」
「も、もちろん寸止めするつもりで――」
「そのわりには目が本気でしたけど? そもそも、右腕しか使わないと宣言したのでは? 自ら試験官に名乗り出るなんて無茶をしておきながら、約束のひとつも守れないなんて上の立場に立つ人間としてどうなんですか?」
「――すいませんでしたー!」

 アイシャさんに早口で捲し立てられ、どんどんと身体が縮こまっていたギルドマスターは、最終的には反論する余地を奪われ、見事な土下座を披露していた。

 あのプライド高そうな男が土下座をするなんてな。実は彼女が冒険者ギルドの影の支配者なのかもしれない。

 ……とまあ、そんなことを考えているうちに、説教は終わったようだ。
 ギルドマスターはゆっくりと立ち上がり、深紅のマントについた土を払いながらこちらへ向き直る。

「いやあユーリくん、素晴らしい実力だったよ! ボクの見立てに間違いはなかったようだ」

 ギルドマスターは、俺の肩をバシバシと叩きながら、馴れ馴れしくそう言った。
 さっきまでアイシャさんに叱られて意気消沈していた人物とは思えないほどの切り替えの速さだ。

「あ、ああ……そうか?」
「そうともさ! 試験は問題なく合格だよ」

 それはなによりだ。これで、これから冒険者としての活動ができるわけだな。

「本気を出していなかったとはいえ、このボクとあれだけ打ち合えれば、Cランク……いや、Bランクぐらいの実力はあるんじゃないかな」
「はあ……そりゃどうも」

 確かに、ギルドマスターは片腕で戦うというハンデを背負っていた。本来なら二刀流であり、単純に考えて手数が倍になるのだとすると、ああも打ち合うことはできなかったかもしれないな。

「……そこで、だ。ユーリくん。キミに提案がある」
「提案?」
「ああ、アイシャくんの説明どお、本来ならFかEランクからのスタートなんだが……キミの実力を考慮して……そうだな、ボクの権限でBランクへ推薦しても構わないと考えている」
「ちょ、ギルドマスター!? いきなりBランクだなんて、それはあまりにも……!」

 ギルドマスターの突拍子もない一言に、それまで黙って会話を聞いていたアイシャさんが、慌てて口を挟む。
 それもそうだろう。冒険者になっていきなりBランクに昇格だなんて、破格の待遇すぎる。なにか裏があるのではと疑いたくなるぐらいだ。

 ……いや、あるんだろうな。この男が何かを企んでいたのは、最初からずっと感じていた。

「アイシャくんも見ていただろう? ユーリくんの実力はどれだけ低く見積もってもCランク以上だ。そんな有望株を、規則だからって低ランクの依頼しか回してやれないのは、じつにもったいない。それに、今は魔物の活発化の影響で、猫の手も借りたい状況だろう?」
「ギルドマスター……最初からそのつもりだったんですね。……ですがユーリさんはまだ若いですし、他の冒険者たちと軋轢を生むことになりかねませんよ?」
「冒険者は実力主義だよ。最初は色々と難癖つける輩もいるかもしれないけど、実績で黙らせればいいさ。それに、Sランク冒険者の中にはユーリくんより年下がいるじゃないか。年齢は関係ないよ」

 ……なにやら俺そっちのけで二人が口論を始めてしまった。
 正直、別に髙ランクスタートじゃなくていいんだけどなぁ。最初からそのつもりだったし。
 このまま口論を続けられても面倒だし、率直に俺の意思を伝えるとしよう。

「ええと……ちょっといいか?」

 会話に割って入ったことにより、白熱した口論は中断され、注目が俺へと集まった。

「試験を一足飛ばしで受けさせてもらったんだ、もうこれ以上便宜を図ってもらうのは気が引けてしまう。だからこの話は断らせてもらいたい」
「……ふむ、いいのかいユーリくん? どれだけ実力があろうとも、冒険者ランクを上げるにはそれなりの時間がかかる。こう言っちゃなんだが、低ランクの依頼の報酬では安宿に粗末な食事でその日暮らしの生活をするのが精々だろう。推察するに、ユーリくんにはなるべく早くまとまった資金が必要だと見受けられるのだが?」
「む……」

 ……当たりだ。

「その点、ベテランとして認められるBランクともなると受けられる依頼の種類は増えるし報酬も跳ね上がる。そうだね……一日で金貨の四、五枚を稼ぐのも不可能じゃない」
「ぐ……」

 根なし草の身なので、その日暮らしの生活になることに抵抗はないのだが、今俺が宿泊している『銀の魔女亭』は食事を付けると普通の宿より金がかかる。
 だからといって宿を変えるつもりは微塵もない。王都に滞在する間の拠点にしようと考えているので、普通以上の収入は必須だ。

 以前カールのおっさんの依頼で金貨二枚の報酬を得たのは、運良くいろいろな条件が重なったおかげだ。冒険者の資格がない俺が同じような依頼を見つけるのは、不可能に近いだろう。

 ――そう考えれば、Bランクへの飛び級推薦を得られる今この状況も同じように貴重なのかもしれない。

「報酬額以外にもいろいろとあるぞ。例えばBランク以上の冒険者は各地の関所を通り放題!
 各地の冒険者ギルドが提携している店舗や施設での優待割引や無料使用!」
「む……」
「それに、だ。その若さで高ランク冒険者って肩書きがあれば、女の子にモテモテだぞ! このボクのようにね! そう、あれは四年前だったかな。そばかすがチャーミングな花屋のデイジーちゃんが、ボク宛のファンレターをおずおずと取り出し――」
 
 高ランクになることの利点を口早に語っていたギルドマスターだったが、気が付いたら話が脱線し、惚気話が始まっていた。

 おいおい……何が悲しくてそんな話を聞かされなきゃいけないんだ。ほら、アイシャさんもあんたのことを白い目で見ているぞ。

「わ、わかった! あんたの推薦を受けることにする。だから一旦落ち着いてくれ!」

 話が長引きそうな気配を感じたので、慌ててギルドマスターの提案を承諾することを告げる。
 モテる云々はともかく、他の特典が魅力的なのだ。関所を自由に通れるようになるのもBランク以上っぽいしな。

「――なんだい、これからがいいところなのに。……まあいっか、ユーリくんがその気になってくれて、ボクは嬉しいよ」

 ギルドマスターはきょとんとした表情を見せ、そのあとすぐに含みのある笑みを浮かべるのだった。
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