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第三章 調査任務
28.組み込まれる器用貧乏
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「各員、装備の点検は事前に済ませておきましたか? それと、ポーションなどの補助アイテムも、不備がないか最後にもう一度確認しておくように」
俺が白翼騎士団の馬車へ近寄ると、凛としていながら透き通った声が耳に入る。
その声の持ち主はテキパキと四名の団員たちに指示を出していることから、隊長格の人物だと推測できるのだが……その姿に違和感を覚えた。
俺より頭ひとつは低い身長、そして騎士とは思えないほどの線の細い女性だったのだ。年は俺とそう離れていないだろうし、女性と表現するよりも『女の子』と言った方が適当かもしれない。
そんな、戦いとは縁遠そうな女の子が、青い軍服の上に純白の軽鎧という、戦いの象徴みたいな格好をしていた。しかも、明らかに年上の騎士たちに淀みなく指示を出していたものだから、俺は思わず足を止め、見入ってしまっていた。
「……ん?」
ふと、その女の子と目が合った。
俺の存在に気付いた彼女は、すたすたとこちらへと近付いてくる。
まるで氷のような透明感のある青髪を後ろにひとつ結びにしており、歩を進めるたびにゆらゆらと蠱惑的に揺れる。
切れ長の目の中には、黄金色の瞳が宝石のように煌めいており、目を惹き付けてくる。
さっきとは別の意味で、目の前の女の子に見入ってしまっていた。
「あなたは?」
「……っ、ああ。ええと……今回の任務に参加する冒険者……の卵ってところだ」
ぼうっとしてるところに声をかけられたので、少し言葉に詰まってしまうが、平静を取り繕いながらなんとか言葉を返す。
ちなみに冒険者の卵と名乗ったのは、まだ冒険者としての正式な資格を手に入れてないからだ。俺が冒険者になるには、今から向かう任務を無事完遂する必要がある。
「卵……? ……ああ、あなたが冒険者ギルドから選ばれた『特別枠』ですね。概要は聞いています」
黒牙騎士団の連中と同様に不審に思われると思っていたが、この人は俺が書状を見せるまでもなく信じてくれたようだ。
「それで……私たちに何か用でしょうか? ずっとこちらを見ていたようですけど」
「ああ、相談……というか、お願いに近いんだが、俺をその馬車に乗せてくれないか?」
「私たちの馬車に? ええと……冒険者用の馬車はあちらですが……?」
彼女はそう言いながらさっきまで俺がいた地点を指差すが、残念ながらあっちの連中にはめっぽう嫌われている。
「どうも向こうの馬車に俺の席はないみたいでさ」
「……そういうことですか。悩ましいですね」
彼女は眉間に手をあてながら軽く顔を伏せ、疲れた様子で「ふぅ」と小さく溜め息を吐いた。
「騎士団と冒険者の仲が悪いのは今に始まったことじゃないですけれど、冒険者同士でも同じとは……先が思いやられますね」
騎士団と冒険者の間に確執があるってことは話で聞いている。その上、冒険者同士でもいざこざがあるとなると、上に立つ立場としては気が重いのだろう。
別に俺の方は喧嘩をするつもりはないのだが、なんだか申し訳ない気持ちになるな。
「なんか……悪いな」
「いいえ、あなたに責任があるわけじゃありません。気にしないでください」
そう言いながら俺へと視線を戻した彼女の瞳に影はなく、凛として輝いていた。
精神的な疲労を見せたのはわずか一瞬。エリート揃いの騎士団の中で上に立つには、こういった立ち振舞いが必要なんだろうな。
師匠に振り回されてキレ散らかしていた俺としては、心から感心してしまう。
「でも困りましたね……冒険者は冒険者同士でパーティを組んでもらう予定だったのですけれど、その様子ですとあなたは仲間に入れてもらえなさそうですね。かといってあなたをひとりにするわけにもにかないですし……」
「はは……面目ない」
「……では、特例としてこの任務の間、あなたを私の隊に組み込みましょう。それで問題ありませんか?」
予想外の提案に、俺は思わず目を丸くしてしまう。
「俺が……あんたらと? ……いいのか? こんな見ず知らずの人間を部隊に入れるだなんて」
「護衛任務を兼ねていると思えば問題はありません。ただし、任務中は隊長である私の指示に従ってください。いいですね?」
「あ、ああ……わかった」
「よろしい。それじゃ、そろそろ出発しますので馬車に乗って――っと、自己紹介がまだでしたね。私は白翼騎士団第七部隊の隊長、アニエス・ネージュです。よろしく」
「ユーリだ」
俺は差し出された右手を握り返す。見た目通り繊細な女の子の手をしているかと思っていたが、印象とは裏腹にしっかりとした剣士の手をしていた。
……まあそれもそうか、騎士団の隊長ともあろうものが、武術の心得がまったくないわけがない。
「ユー……リ?」
そんなことを考えていたのも束の間、アニエスはゆっくりと俺の名前を反芻していた。何か俺の名前に引っ掛かるところでもあったのだろうか。
「……どうかしたか?」
「……ごめんなさい、なんでもありません。さ、そろそろ出発の時間です、急ぎましょう」
疑念を振り払うように首を左右に振ったアニエスに連れられ、俺はアニエスたちの馬車へと乗り込む。
成り行きとはいえ、まさか俺が騎士団と共に行動することになるとは……。
過去に入団を目指したことがある身としては、試されているような気がしてちょっと緊張してしまうな。
まあ、あまり気にしすぎてもしょうがない。
俺は俺のできることをやるとしよう。
俺が白翼騎士団の馬車へ近寄ると、凛としていながら透き通った声が耳に入る。
その声の持ち主はテキパキと四名の団員たちに指示を出していることから、隊長格の人物だと推測できるのだが……その姿に違和感を覚えた。
俺より頭ひとつは低い身長、そして騎士とは思えないほどの線の細い女性だったのだ。年は俺とそう離れていないだろうし、女性と表現するよりも『女の子』と言った方が適当かもしれない。
そんな、戦いとは縁遠そうな女の子が、青い軍服の上に純白の軽鎧という、戦いの象徴みたいな格好をしていた。しかも、明らかに年上の騎士たちに淀みなく指示を出していたものだから、俺は思わず足を止め、見入ってしまっていた。
「……ん?」
ふと、その女の子と目が合った。
俺の存在に気付いた彼女は、すたすたとこちらへと近付いてくる。
まるで氷のような透明感のある青髪を後ろにひとつ結びにしており、歩を進めるたびにゆらゆらと蠱惑的に揺れる。
切れ長の目の中には、黄金色の瞳が宝石のように煌めいており、目を惹き付けてくる。
さっきとは別の意味で、目の前の女の子に見入ってしまっていた。
「あなたは?」
「……っ、ああ。ええと……今回の任務に参加する冒険者……の卵ってところだ」
ぼうっとしてるところに声をかけられたので、少し言葉に詰まってしまうが、平静を取り繕いながらなんとか言葉を返す。
ちなみに冒険者の卵と名乗ったのは、まだ冒険者としての正式な資格を手に入れてないからだ。俺が冒険者になるには、今から向かう任務を無事完遂する必要がある。
「卵……? ……ああ、あなたが冒険者ギルドから選ばれた『特別枠』ですね。概要は聞いています」
黒牙騎士団の連中と同様に不審に思われると思っていたが、この人は俺が書状を見せるまでもなく信じてくれたようだ。
「それで……私たちに何か用でしょうか? ずっとこちらを見ていたようですけど」
「ああ、相談……というか、お願いに近いんだが、俺をその馬車に乗せてくれないか?」
「私たちの馬車に? ええと……冒険者用の馬車はあちらですが……?」
彼女はそう言いながらさっきまで俺がいた地点を指差すが、残念ながらあっちの連中にはめっぽう嫌われている。
「どうも向こうの馬車に俺の席はないみたいでさ」
「……そういうことですか。悩ましいですね」
彼女は眉間に手をあてながら軽く顔を伏せ、疲れた様子で「ふぅ」と小さく溜め息を吐いた。
「騎士団と冒険者の仲が悪いのは今に始まったことじゃないですけれど、冒険者同士でも同じとは……先が思いやられますね」
騎士団と冒険者の間に確執があるってことは話で聞いている。その上、冒険者同士でもいざこざがあるとなると、上に立つ立場としては気が重いのだろう。
別に俺の方は喧嘩をするつもりはないのだが、なんだか申し訳ない気持ちになるな。
「なんか……悪いな」
「いいえ、あなたに責任があるわけじゃありません。気にしないでください」
そう言いながら俺へと視線を戻した彼女の瞳に影はなく、凛として輝いていた。
精神的な疲労を見せたのはわずか一瞬。エリート揃いの騎士団の中で上に立つには、こういった立ち振舞いが必要なんだろうな。
師匠に振り回されてキレ散らかしていた俺としては、心から感心してしまう。
「でも困りましたね……冒険者は冒険者同士でパーティを組んでもらう予定だったのですけれど、その様子ですとあなたは仲間に入れてもらえなさそうですね。かといってあなたをひとりにするわけにもにかないですし……」
「はは……面目ない」
「……では、特例としてこの任務の間、あなたを私の隊に組み込みましょう。それで問題ありませんか?」
予想外の提案に、俺は思わず目を丸くしてしまう。
「俺が……あんたらと? ……いいのか? こんな見ず知らずの人間を部隊に入れるだなんて」
「護衛任務を兼ねていると思えば問題はありません。ただし、任務中は隊長である私の指示に従ってください。いいですね?」
「あ、ああ……わかった」
「よろしい。それじゃ、そろそろ出発しますので馬車に乗って――っと、自己紹介がまだでしたね。私は白翼騎士団第七部隊の隊長、アニエス・ネージュです。よろしく」
「ユーリだ」
俺は差し出された右手を握り返す。見た目通り繊細な女の子の手をしているかと思っていたが、印象とは裏腹にしっかりとした剣士の手をしていた。
……まあそれもそうか、騎士団の隊長ともあろうものが、武術の心得がまったくないわけがない。
「ユー……リ?」
そんなことを考えていたのも束の間、アニエスはゆっくりと俺の名前を反芻していた。何か俺の名前に引っ掛かるところでもあったのだろうか。
「……どうかしたか?」
「……ごめんなさい、なんでもありません。さ、そろそろ出発の時間です、急ぎましょう」
疑念を振り払うように首を左右に振ったアニエスに連れられ、俺はアニエスたちの馬車へと乗り込む。
成り行きとはいえ、まさか俺が騎士団と共に行動することになるとは……。
過去に入団を目指したことがある身としては、試されているような気がしてちょっと緊張してしまうな。
まあ、あまり気にしすぎてもしょうがない。
俺は俺のできることをやるとしよう。
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