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第四章 魔人襲撃
EX9.捜索
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◇
「……さて、どこから探しましょう」
私、アニエス・ネージュは、会議のあと王城を出て、多くの人々が住まう城下町へと来ています。
もちろん、目的はあのとき任務を共にした男の子、ユーリを探すこと。
私に与えられた時間は二日後の正午まで
……もう昼を回っているので、実質あと四十八時間弱。
セイン団長がユーリの捜索のみに専念するよう私に命じてくださったとはいえ、この広い王都で見つけられるという保証はありません。こんなことなら、共に行動しているときに宿泊先ぐらい聞いておくべきでした。
「まずは、冒険者ギルドに行くのが妥当でしょうか……」
そう思い、私は急ぎ足で通りを歩き始めました。
彼は冒険者の卵だと自称していましたし、実際に冒険者枠で調査任務に参加していました。となると、ギルドにいる可能性が一番高いでしょう。
闇雲に探し回るよりかはよほど効率的です。
ギルドへ向かう途中で何人もの住民とすれ違いましたが、誰も私の存在に気が付くことはありません。今の私は鎧を脱ぎ、私服へと着替え、見た目は町娘と同じですからね。それに、帽子を目深に被っているので、私だとわからなくて当然です。
何故私が変装まがいなことをしているのかというと、騎士団の人間が城下町を歩いているのを見られると、人が集まってきてしまうからです。
聞いた話ですが、騎士団でも特に人気のある者は『ファンクラブ』や『親衛隊』なる集まりがあるのだとか……。
セイン団長やアリューゼ団長のような、威厳や実力のある人物にそういった熱狂的なファンがつくのなら理解できるのですが、何故だか若輩者の私にもそういった集まりが存在しているようです。
まあ、おそらく女性騎士を物珍しく思っているだけでしょう。
何はともあれ、以前セイン団長が数時間もの間、住民に取り囲まれているのを見てから、町を歩くときは変装すると決意しました。
平時ならともかく、今は時間を取られるわけにはいけませんからね。
そんなことを考えている間に、冒険者ギルドへと到着しました。
この中へ入った後も油断はできません。なにせ、冒険者の方々は決して少なくない割合で騎士団に悪感情を抱いているからです。
しかし、その懸念はすぐに解消しました。
相も変わらず大勢の冒険者で賑わっているかと思っていたのですが、入ってみると、ギルドの中は予想よりも閑散としたものでした。
……よくよく考えてみれば、それは当たり前のことですね。現在、王命で王都の外に出ることを禁じられているので、依頼の受注がままならない状況が続いているのでしょう。
冒険者の方々にとって依頼がないというのは、死活問題ですので、不満が溜まっていることは容易に想像できます。
しかし、魔人襲撃の件もあるので、明日にでも命令が撤回される可能性が高いでしょう。依頼も平時に比べ増加するはずです。
そういった意味でも、私に与えられた二日間という時間は、ユーリを探すための実質的なタイムリミットと同じと言えます。
外に出れるようになってしまえば、ユーリを見つけるのが相当困難になりますし、最悪の場合、国外へ移動してしまうという可能性も考えられます。
「人が少ないのは幸運と考えましょう。そのぶん探しやすくなりますし」
人が少ないぶん、顔もよく見える。
そう思い、私は数分の時間を費やし周囲を見渡してみますが、結局、彼らしい人影を見つけることができませんでした。
「当てが外れてしまいましたか……」
一番可能性が高い場所が空振りだったので、私はその場に呆然と立ち尽くしてしまいました。
「あれれー? お嬢ちゃん、こんなところにひとりでどうしたのかなぁ?」
ふと気が付けば、私の周囲をガラの悪い四人の男が取り囲んでいました。明らかに怪しい動きをしていたというのに、呆けすぎていたせいで近くに来るまで察知できませんでした。不覚です。
「ヒヒッ……パパでも待っているのかな? それとも、間違えて入ってきちゃったとか?」
「それは大変だ! じゃあ僕らが保護してあげないとねぇ。こんな可愛らしいお嬢ちゃんがひとりでいたら、悪い奴らに絡まれちゃうかもしれない」
……町娘の格好で来たのは悪手だったかもしれないですね。冒険者ギルドの中では逆に浮いてしまうようです。
なんにせよ、ここには彼がいないことがわかったので、事が大きくなる前にギルドを離れるとしましょう。
「いえ……人を探しに来ただけですので、気を遣っていただかなくても結構です」
そう言って、男たちの合間をすり抜けていこうとしましたが、男たちは手慣れた連携で行き先を塞いできました。
「そんなつれないこと言うなって」
そう言いながら男のひとりが私へと手を伸ばしてきました。
まったく、時間がないというのに……。仕方ありません、多少痛い目にあっていただく必要があるようですね。
その手が私に触れた瞬間、腕をとって投げ飛ばしてやろうと思っていたところでした。
「はーいはいはいはい、そこまでだよ」
素早い動きで私たちの間へと割り込み、ガラの悪い男の伸ばされた腕を掴み、捻りあげる人物が現れました。
「いててててっ! テメェ、なにしや――げっ、ギルマス……!」
「依頼が少なくて暇なのはわかるけどさ、だからってギルド内でレディをたぶらかそうとするなんて、このボクが見過すわけないでしょ」
その人物は私もよく知る人物、冒険者ギルドのギルドマスター、エヴァンさんでした。
「……さて、どこから探しましょう」
私、アニエス・ネージュは、会議のあと王城を出て、多くの人々が住まう城下町へと来ています。
もちろん、目的はあのとき任務を共にした男の子、ユーリを探すこと。
私に与えられた時間は二日後の正午まで
……もう昼を回っているので、実質あと四十八時間弱。
セイン団長がユーリの捜索のみに専念するよう私に命じてくださったとはいえ、この広い王都で見つけられるという保証はありません。こんなことなら、共に行動しているときに宿泊先ぐらい聞いておくべきでした。
「まずは、冒険者ギルドに行くのが妥当でしょうか……」
そう思い、私は急ぎ足で通りを歩き始めました。
彼は冒険者の卵だと自称していましたし、実際に冒険者枠で調査任務に参加していました。となると、ギルドにいる可能性が一番高いでしょう。
闇雲に探し回るよりかはよほど効率的です。
ギルドへ向かう途中で何人もの住民とすれ違いましたが、誰も私の存在に気が付くことはありません。今の私は鎧を脱ぎ、私服へと着替え、見た目は町娘と同じですからね。それに、帽子を目深に被っているので、私だとわからなくて当然です。
何故私が変装まがいなことをしているのかというと、騎士団の人間が城下町を歩いているのを見られると、人が集まってきてしまうからです。
聞いた話ですが、騎士団でも特に人気のある者は『ファンクラブ』や『親衛隊』なる集まりがあるのだとか……。
セイン団長やアリューゼ団長のような、威厳や実力のある人物にそういった熱狂的なファンがつくのなら理解できるのですが、何故だか若輩者の私にもそういった集まりが存在しているようです。
まあ、おそらく女性騎士を物珍しく思っているだけでしょう。
何はともあれ、以前セイン団長が数時間もの間、住民に取り囲まれているのを見てから、町を歩くときは変装すると決意しました。
平時ならともかく、今は時間を取られるわけにはいけませんからね。
そんなことを考えている間に、冒険者ギルドへと到着しました。
この中へ入った後も油断はできません。なにせ、冒険者の方々は決して少なくない割合で騎士団に悪感情を抱いているからです。
しかし、その懸念はすぐに解消しました。
相も変わらず大勢の冒険者で賑わっているかと思っていたのですが、入ってみると、ギルドの中は予想よりも閑散としたものでした。
……よくよく考えてみれば、それは当たり前のことですね。現在、王命で王都の外に出ることを禁じられているので、依頼の受注がままならない状況が続いているのでしょう。
冒険者の方々にとって依頼がないというのは、死活問題ですので、不満が溜まっていることは容易に想像できます。
しかし、魔人襲撃の件もあるので、明日にでも命令が撤回される可能性が高いでしょう。依頼も平時に比べ増加するはずです。
そういった意味でも、私に与えられた二日間という時間は、ユーリを探すための実質的なタイムリミットと同じと言えます。
外に出れるようになってしまえば、ユーリを見つけるのが相当困難になりますし、最悪の場合、国外へ移動してしまうという可能性も考えられます。
「人が少ないのは幸運と考えましょう。そのぶん探しやすくなりますし」
人が少ないぶん、顔もよく見える。
そう思い、私は数分の時間を費やし周囲を見渡してみますが、結局、彼らしい人影を見つけることができませんでした。
「当てが外れてしまいましたか……」
一番可能性が高い場所が空振りだったので、私はその場に呆然と立ち尽くしてしまいました。
「あれれー? お嬢ちゃん、こんなところにひとりでどうしたのかなぁ?」
ふと気が付けば、私の周囲をガラの悪い四人の男が取り囲んでいました。明らかに怪しい動きをしていたというのに、呆けすぎていたせいで近くに来るまで察知できませんでした。不覚です。
「ヒヒッ……パパでも待っているのかな? それとも、間違えて入ってきちゃったとか?」
「それは大変だ! じゃあ僕らが保護してあげないとねぇ。こんな可愛らしいお嬢ちゃんがひとりでいたら、悪い奴らに絡まれちゃうかもしれない」
……町娘の格好で来たのは悪手だったかもしれないですね。冒険者ギルドの中では逆に浮いてしまうようです。
なんにせよ、ここには彼がいないことがわかったので、事が大きくなる前にギルドを離れるとしましょう。
「いえ……人を探しに来ただけですので、気を遣っていただかなくても結構です」
そう言って、男たちの合間をすり抜けていこうとしましたが、男たちは手慣れた連携で行き先を塞いできました。
「そんなつれないこと言うなって」
そう言いながら男のひとりが私へと手を伸ばしてきました。
まったく、時間がないというのに……。仕方ありません、多少痛い目にあっていただく必要があるようですね。
その手が私に触れた瞬間、腕をとって投げ飛ばしてやろうと思っていたところでした。
「はーいはいはいはい、そこまでだよ」
素早い動きで私たちの間へと割り込み、ガラの悪い男の伸ばされた腕を掴み、捻りあげる人物が現れました。
「いててててっ! テメェ、なにしや――げっ、ギルマス……!」
「依頼が少なくて暇なのはわかるけどさ、だからってギルド内でレディをたぶらかそうとするなんて、このボクが見過すわけないでしょ」
その人物は私もよく知る人物、冒険者ギルドのギルドマスター、エヴァンさんでした。
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