千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶

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第四章 魔人襲撃

45.問われる器用貧乏

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「さあ、着きましたよ」

 あれよあれよという間に、俺とアニエスは城門の前に立っていた。
 遠目からは何度も見ていたが、王城にここまで近寄ったのは初めてだ。

 城を見上げながら軽く感動している俺をよそに、アニエスは手際よく門番へと話しかけ、開門の手続きを取っていた。
 ほどなくして城門は開かれ、手招きをするアニエスに従い、俺は敷地内へと足を踏み入れた。

 ……身体検査の類いがあるかと身構えていたが、なんだか想像していたよりもやけにあっさりと入ることができたな。
 
「おお……」

 門をくぐった先は、色とりどりの花が咲き乱れる一本道が続いていた。
 その美しさに、思わず感嘆の声が漏れてしまうほどだ。

「綺麗でしょう? この花たちは王妃様のご趣味で、アムダルシア原産のものはもちろん、世界各地から取り寄せられた花もあるんですよ」
「なるほど、だから見たことがない花ばかりなのか」
「でも、すみません……もっとゆっくり案内したいところなのですが……」
「ああ、わかってるさ」

 できればもう少し見て回りたいところだが、ここへ来た目的は観光じゃない。
 何故だかはわからないが、俺は腕を試されることになっているのだ。

「模擬戦闘をするって話だったな。ってことは、屋外でやるのか?」
「そうですね。これから敷地内にある訓練場に行くことになります」
「そうか……一度城の中を見学してみたかったんだがな」
「ふふっ、全部終わったら見学できないか確認してみますよ」
「それはいいことを聞いた」



 ……今、俺はたったひとりでだだっ広い訓練場のど真ん中に立っていた。
 というのも、アニエスは俺が到着したことを知らせるため、俺に待機を命じてどこかへ行ってしまったのだ。

 あれから十数分。直径五百メートルはある何もない平地に立たされていた俺だが、さすがに景観を楽しむのにも飽きがきていた。

「ここで待っていてくれとは言われたが、身体を動かすなとは言われてなかったよな。暇だし剣の素振りでもするか――――っと、来たか?」

 鍛練でもしようかと思ったその刹那、複数人がこちらへとやってくる気配を感じた。
 やがて、アニエスを先頭に、白や黒の鎧を着用した者、高価そうなローブに身を包んだ者など、何やら大所帯の集団が真っ直ぐにこちらへ歩いてくるのが見えた。

「お待たせしました、ユーリ」
「……すごい人数だな」

 ざっと五十はくだらない数の人間が、俺の前に立っていた。
 俺のことを値踏みする視線が幾重にも重なり、貫かれるのではと錯覚するぐらいに鋭く突き刺さる。

「ええ、まあ……見学希望者が多かったのと……あとは、護衛も兼ねているので」
「……ああ、やっぱり?」
「すみません、まさかここまで大事になるとは……」

 ここまでの人数……それもエリート揃いの騎士団による護衛が必要になるような重要人物はそうはいない。
 まあ、王冠を被っている人物なんて限られているし、やっぱりそういうことなんだろう。

 俺が察したところで、護衛の対象であろう老齢の男性が、集団から数歩抜け出してきた。

「はじめまして……かな、ユーリとやら。余はカルゼトフ・フォン・アムダルシア、この国の王だ」
「あー、えーと……」

 予想通り、俺の前に立っているのは国王様だった。
 わざわざ名乗ってくれたにも関わらず、俺は言葉に詰まっていた。俺は砕けた話し方しかできないため、下手に発言できないからだ。

 『間を取り持ってくれる』という約束を果たしてもらうために、俺はアニエスへと視線を送り、助けを求める。

「へ、陛下。この者は、その……特殊な事情があり、敬意を表するのが不得手なのです。申し訳ございませんが、間に私を通していただけると幸いでございます」

 俺からのサインを受け取ったアニエスは、すかさず俺の隣に移動し、王に対して膝をついた。

「よい。余がここへ足を運んだのは公務とは別のことだ。この場では、多少の無礼ならば見逃そう」
「はっ……陛下の寛大なるお言葉、望外の喜びにございます」
「他の者も、それでよいな?」

 連れだったその他大勢は、無言で肯定の意を表す。まあ、実質王様からの命令のようなものだ。真正面から言い返すような者はいないだろう。

「……と、いうわけだ。この場でお主の言動をとやかく言う者はおらぬ。遠慮などせずいつも通り振る舞いたまえ」

 ここまでお膳立てされたんじゃ、アニエスに任せっきりというわけにもいかないな。

「……どうも、俺の名前はユーリ。いわゆる流れ者ってやつだ」 

 俺が言葉を発した瞬間、ピリッとした空気が流れるものの、王の手前だからか、誰も直接的に干渉してくる気配はない。
 空気は最悪だが、まあ、こいつらに嫌われたところで痛くも痒くもないので気にしないでおくとしよう。

「うむ。此度は急な呼び出しですまんな。魔人の襲撃を控えた今、戦力は少しでも欲しいところ……。
 そんな折、魔人を単独で討伐した者がいるという話が出た。かような者の助力があれば、我々の希望の光となるだろう。
 して、ユーリよ、お主がその希望の光だというのは真であるか?」
「そんな大層なものに例えられるほどじゃないが……魔人を倒したってのは本当だ」

 俺がそう言うと、集団の中からひとり、頭ふたつは抜けた黒鎧の大男が抜け出し、俺の前に立った。

「ではその力を証明して見せろ」

 睨みをきかせながらそれだけ言うと、大男は、すっと国王の後ろへと下がっていった。
 やけに迫力のある奴だったが、なんだったんだ?

「……とまあ、魔人の討伐に関して確たる証拠がないため、お主の実力に疑問を持つ者は少なくない。
 アニエスの言葉を疑うわけではないのだが、余とて正直半信半疑だ。魔人を上回るというお主の力、我々に示して欲しい」

 なるほど、アニエスが言っていた『力を示す』ってのはそのためか。

 王様まで出てくるのは想定外だったが、まあ、結局やることは変わらない。
 模擬戦闘でもなんでも、どんと来やがれってもんだ。
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